第4話 嫌なこと
数日後。
学校内の図書館でのんびりと勉強をしていた。
ここは沢山の本がある上に窓が大きいから日もあたってすごく快適なのだ。
「xはこうなるから……」
苦手な数学のおさらいをしていると窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
前を向けば、笑ってる降谷さんがいた。
窓を開けるとよっこいしょと言って図書館内に入ってきた。
窓から入るのって強盗みたい、なんてよくないことを考えていると、降谷さんが話しかけてきた。
「ありがと、真剣にやってるからずっと見てたんだけど全然気づかないから」
「うそ、ごめん。ほんとに分からなかった」
「だろうなぁって思ってたし知ってた。
何してたの? 俺サッカーしてたんだけど」
「えっと勉強?」
あちこちに飛び回る話題に頭がこんがりながらも答えていく。初日からわかっていたことだけれど、彼は誰とでも話が続くような人なのだろう。話題は全く途切れなかった。
「そういえば、なんだけど。
俺も兄ちゃんいるんだよね」
「……確かに降谷さん弟って感じする」
「蒼でいいよ! 俺も涼香ちゃんって呼ぶし」
「……じゃあ降谷くんで」
「今の話聞いてた?」
「いや、ちょっと抵抗あるし……」
私の言葉にそっかぁまぁそっかぁ、とうなづいた降谷くんを見ると笑みが溢れた。
多分彼はどこまでもまっすぐな人なのだろう。
「俺さ、兄ちゃんのことあんま好きじゃないんだよね
母さんのことよく困らせてるし、久々に帰ってきたと思ったら前とは違う女の人連れてくるし。でも勉強できてモテるし」
話し始めた降谷くんはちょっと悲しそうな顔をしていた。私と舞香とは違うキョウダイの形だった。でも同じような気持ちがある。
「妹ができること、自分にできないこと。考えちゃうとダメっぽいんだよね、私」
「え、俺も! めっちゃわかる!」
「妹は可愛いのに。妹は愛想いいのに。とか昔からよく言われるから余計にダメ」
「……他人からそんなことないって言われるのも苦手なんだよねぇ〜俺」
そう言った降谷くんに、驚いた。私可愛くないからとか言ったらいつの時代も社交辞令のようにそんなことないよ〜って言うものだから。でもその言葉が一番怖い。腹の底で何を考えているかがわからないから。
まさかその感情を共有できる人がいると思わなかった。
「兄ちゃん、顔いいからさ。小さい頃に頭も良くてモテるもんなぁって大きな独り言でボソッと言っちゃったことがあって。そしたら、そんなことないよ、蒼くんもカッコいいし勉強できるよって言われて。わかんないけど、とにかく嬉しくはなくて、心の底からモヤモヤした感じだった。俺が独り言言ったのも良くなかったかもだけど今のはいらないなぁって」
「だけど、何を言われたら心にすとんって落ちるかもわからない。って感じ、私は」
「へへっ、俺も」
どこからともなく始まったキョウダイの話は途切れることなく図書館の閉館時間がやってきた。
「まさかここまで意気投合できるとは思わなかった」
「妹さんに会った時にもしかしてこっち系かなって思ったんだけど言う機会なくて今言おうって自分の中でなったんだよね」
降谷くんはそう言いながら笑った。家まで送り届けてもらうと、最後にじゃあまた学校でねと言われ、返事をするまもなく彼は帰って行った。
その夜、自分にとっての嫌なことを考えてみた。舞香が私のことを嫌いと思っているように私も舞香が得意ではない。自分なりにいなにが嫌なのか頭で整理しておこう、と降谷くんと話して思ったのだ。
「舞香が可愛いの、は別に嫌じゃないしな。誰とでも仲良くなれる性格も嫌なわけじゃないし……」
まず、身内を考えようと舞香のことを考えたが、嫌なことがあまり見当たらなかった。でも舞香に苦手意識はあるはず。じゃあなんで……?
「涼香ー! 夜ご飯準備できたよ」
「あ、今行く!」
舞香がいない食卓でもずっと頭の中は舞香のことでいっぱいだった。
私は舞香の何が嫌なのか、全くわからないのだから。
お風呂に入りながら考えてもその答えは出ず、ぼーっとテレビを眺めていた。その時、ちょうどドラマが始まった。そろそろ予習復習やらないと。そう思ってテレビを消そうとした次の瞬間、音が聞こえた。
「アンタと兄弟じゃなかったら俺は胸を張って生きれたに決まってるだろ‼︎」
その言葉が心にストンと落ちてきた、気がする。
「双子だからダメなのか」
頭の中がきれいに整理されたような気がしてその日は勉強にすごく集中できてグッスリと寝ることもできた。
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