SS:クリスマス……えっ、この世界で?
「ん、この世界だと……フィリアを崇め称える為の祭礼として存在してる」
「えっ、フィリアさんが? 確かに聖なる神格者だけど……」
「……フィリアはあれでも神格者としては最古参。表舞台によく出てたからよく知られてる」
そうだった……最近は益々と
いや、こんなでもちゃんとフィリアさんの事は尊敬しているのだ。
最初にこの世界で生まれた時に感じた威圧感と神聖さ、そして龍としてのカッコ良さは今だに脳裏に焼き付いているし、今でもフィリアさんの戦闘技術からは学べる事が非常に多い。リアに用事があって俺と関われない時は直々に教えてもらってる程だし。
育児放棄をしてしまったとはいえ、フィリアさん自身は非常に良い善性の龍だし、滅茶苦茶良き母親をしている。
まぁ、俺自身が神格者と言う同僚になった事とか、上司であるリアとツガイになった事でフィリアさんと関わる事が凄く多くなって、偉大な神格者ってよりも家族として見るようになってたものだから、崇め称えられてるって聞いて少し驚いてしまった。
もうこの世界で結構生きているはずなのに……知らなかった。
「……私自身、そこまでこの祭礼に関わらないから知らないのも仕方がない。特にゼノは……あれから人間に関わって無いし」
「確かにそれもそうか。最近人と会うのってレイアさんくらいだしな……
そいやこの時期になると毎回フィリアさんが忙しそうにしてるのもクリスマスが原因なのか?」
「ん、その通り。フィリアは秩序とか導き、希望が神格者としての元だからちょっと特殊……」
「……それ、俺知らなかったんだけど」
「んー、割とどうでも良い話」
「そんなもんかねぇ」
リアが言うには、どうやらフィリアさんの力の一部には崇拝だとかの力が関係してるらしい。途方も無いほどの崇拝を集めれば、一応根源種を超える程の能力を得る事も出来るらしい。
まぁ、それでも淵源種を超える事は出来ないらしいけど。この世界の正式な管理者である淵源種の能力だと、そもそも集めた崇拝すら消せるらしいし……流石は淵源種、能力の桁が違う。
そいや今日もフィリアさんは唐突にうちに来て、シアを何処かへと連れて行ったけど……関係あるのだろうか?
「本来はフィリアだけで良い。多分フィリアの孫愛で……だと思う」
「あぁ、いつもの……」
「ん、いつもの。無理矢理連れてかれた」
「流石にシアじゃまだフィリアさんに抵抗出来ないよなぁ」
俺はまだステータスの暴力で抵抗出来るけども、シアは技術もステータスも発展途上なのだ。フィリアさんに振り回されるのはまぁ、しょうがないとしか言えない。
「……どう? 久しぶりに街に行く?」
「うーん……せっかくなら遊びに行っても良いかもなぁ」
「ん。何処がいい?」
「そうだなぁ……やっぱどうせなら——」
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「て事で久しぶり。かれこれ数百年ほど会ってないんじゃないか?」
「ん……元気そうで何より。ノアは……ちゃんとやってる?」
「えっと、はい……久しぶりです。夫はちゃんと仕事してくれてますけど……」
うーん、やっぱりちょっと硬い……俺達の正体を知ってるんだからこうなるのはしょうがないと言えばしょうがないんだけども。
人間界に遊びに行こう! と言う事で来たのは聖国——に住んでるレイアさんとノアの元だ。どうやらノアはクリスマスと言う忙しさのせいで色々と仕事があるらしく、今ここに居ないらしい。
まぁ、仕事が多いのは仕方がない。だってレイアさんは——
「まさか聖女になっているとはね……」
「ん、結構凄い事」
「あ、ありがとうございます……どうやら文献に残ってる大聖女様が龍神様と関わりを持った存在だったらしく、夫が龍だったので私が抜擢されちゃいまして……」
「あぁ、なるほど……確かになぁ」
「あの、知ってらっしゃるんですか? 大聖女様の事……」
「そりゃあ知ってるの何も……セナさんには割と世話になった気がするし」
「ん、ゼノは昔ここら辺に巣を作ってたから……」
「……へ?」
うーん、なんとも懐かしい記憶だ……もう何年前なのだろうか。確か帝国の生き残り達が連れた連合軍が俺目当てで攻めてきた覚えが……うん、聖国には迷惑掛けてしまったよなぁ。
「あれ? 珍しい。父さんと母さん来てたんだ」
「おぅ、久しぶりだなノア。どうだ? 仕事は」
「いやもうほんと多過ぎるよ……お偉いさんだとか言う人達との面会が1番時間取るしつまらないし……」
「あぁ、成程。そりゃ大変だなぁ」
「ほんとにね……人間って大変なんだね。それになんでかこの国の人間は黒い鱗に妙に興味津々だし。
あっ、そうだ! 父さんに聞きたい事があったんだった。
父さんはこの鱗が何か知ってる? レイアに芽生えたスキルの中に入ってたんだけど……なんか、シアと似た様な力を感じる気がするけど色が違うんだよね」
そう言ってノアが取り出したのはとある鱗……と言うか、俺の鱗だった。
これ、いつの鱗だっけ……アーセナル? いや、アームズドラゴンの時の鱗か?
「……残ってたんだ」
「スキルに収納してたから保存状態が良かったのかもしれないな」
「ん、あと大罪の力も関係してるかも」
「にしてもまさか……レティに渡したものがまだ残ってるとは」
これもまた吉星の導きとでも言うのだろうか。
そうか……これは少し嬉しいな。過去の残滓とは言え、良き思い出を思い出させてくれたんだし、ちょっとした恩返しとでも行こうかな。
聖国への恩返しにもなるだろうし、ここには思い入れのある物や存在が多い……しかも今夜はクリスマス。祝うのなら丁度いいじゃないか。
それに、ノアとレイアさんの箔付けにもなるかもしれないしな。
「やっぱり父さん達は知ってるんだ……で、これって誰の——」
「なぁ、リア。どうせなら龍の姿で飛んでみないか?」
「……私は表舞台には出ない様にしてる」
「そうだな。だから俺と融合して別の姿として……な。どうだ?」
「んー……それなら?」
「よし、決まりだな」
ちょっとしたサプライズと行こうじゃないか。
霊体化したリアを体内に取り込み、身体を変質させる。あの異世界から迷い込んだ邪龍と戦った時とは違って、身体に負荷は一切感じない……淵源と根源の能力を合わせたとしても耐えれるほどに強くなったのかと改めて感じるな。
『ノア、それとレイアさん。せっかくのクリスマスなんだ……ちょっとくらいサプライズさせて貰おうか』
「えっ、あのっ! その姿って……大昔の記録の——」
「ちょっと父さん! 国は壊さないでよ!」
『この国は壊さないって。色々と世話にもなったからな』
『クオオオォォォォォンンン!!!!!』
おっと、どうやらフィリアさんが来たらしい。
リア曰く、このクリスマスの日にはフィリアさんは各地を飛び回るらしい。人目につく様にして。
流石は秩序と希望の聖龍……姿を現した途端に聖国の民衆達がフィリアさんに向かって祈る姿を取っている。
今回はこのイベントに俺達も混ぜて貰おうじゃないか。
龍形態となった状態で上空の飛び立ち、フィリアさんと合流する。
民の反応は……うん、上々かな。
『全く……せめて事前に連絡をくれないと驚くじゃない』
『そんなこと言ったって唐突に思いついたんだから仕方が無いだろ』
『まぁ、良いわよ。でもせっかくなら手伝いなさい。今から世界に祝福を掛けないとですし』
『世界全体に? あぁ、だからシアも居るんだな』
フィリアさんが纏ってる霧に目を向ける。すると霧は俺に擦り寄ってきて……言葉を発した。
『ズルい……パパとママ、融合してる。…………私もしたい』
『それはせめて霊体化出来る様になってからな』
『……むぅ』
霧がフィリアさんの元に戻ったのを確認してから、世界に掛ける祝福を準備する。
『それじゃ、準備は良い? 祝福を掛けるわよ』
『了解。やろうか』
フィリアさんと俺は大きく上空に向かって飛翔し、宇宙に程近い場所で大きく翼を広げる。
そしてほんの数秒後……フィリアさんは美徳の祝福を。俺は吉星の祝福を放出させるのだった。
この日の事を人類はこう語った。
「白き神と黒き神は眩い星の様であった。簡素な言葉だとは思うが、これが全てであり、偉大な存在を表現するに相応しい言葉だと思う」
……と。
ついでに言うと、クリスマスを終えてからの1年間は世界各地で幸運な事が起き続けたらしい。
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「なぁ、リアさんや。いつになったら離れてくれるんだ?」
『……もう少しだけ』
「いや、もう30年程経ってるけど」
『久しぶりの融合……心地良い』
リアが俺との融合を解いてくれなくて少し困ったのは、また別のお話……
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