SS1:1/2 我が息子と娘

「ん、これ」

「…これって日本でのやつじゃ?」

「保存しといた」


 俺が根源種になって何年経っただろうか?とりあえずかなりの年月は経っているはずだ…何せ王国とか滅んでるし。

 あの時代から残り続けている国は聖国くらいだ。


 まぁそれぐらいの年月が過ぎたある日の時、リアがとあるアルバムを俺に差し出してきた。

 それは…日本で夫婦生活をしてた時のアルバムだった。


「懐かしいな。でもそうか…もうノア達には会えないんだな」

「…?今お腹の中に居るのはノア」

「…うん?」

「ん、私は魂の扱いに長けてる」

「あぁ、そう言うことね…」


 リアは俺たちの息子達の魂をしっかりと保存してたらしい。今リアのお腹の中に居る新たな命にはノア…我が家の長男の魂が入ってるらしい。しかも魂の記憶消去無しだ…ノアからしたら異世界転生みたいな物だ。


「にしてもいまだに不思議なんだけど…龍って卵生じゃ?」

「身体が人間ベースだから胎生なのは当然」

「…確かに身体の組織ごと作り替えてるから当然なのか?」

「ん、当然」


 …やはりいまだに慣れない。なまじリアと過ごす時は日本で暮らしてた感じで人型で過ごしてるから龍って事を忘れそうになる。と言うか淵源種や根源種ってあんま種族の意味合い無さそうだけれども。


「それよりも…ほら、シアとかも載ってる」

「…なぁ、今思ったんだがアイツらの夫や妻ってこの世界に居ないけど記憶消さずに産んでも良いのか?」

「………確かに」

「再度俺たちの子供を産みたいのは分かるんだが…愛した人と一生の別れをするってのは寂しいからな。それに…大人の精神でリアみたいな幼い姿の女の子の胸を吸うのは…な?」

「……ゼノ、貴方がそれを言う資格はない」

「…プレイの一環だから」

「ん…でも確かにそう。流石に記憶は……封印しとく」


 リアは胎児から魂を取り出してテキパキと魂の記憶を司る部分に封印を施し、胎児へと魂を戻す。

 そして「むふぅ…」と一つ息を吐いたところで外から龍が羽ばたく音が聞こえてきた。


『ゼノーっ!リアーっ!もうすぐ産まれるって聞いたから来たわ!さぁ孫の顔を拝ませて!』


 …外からフィリアさんの声が聞こえてきた。我が母親はなんか過保護っぽさを感じてた部分があるが子供とか好きなのだろうか?

 そう思いながら動こうとする前にリアがとても妊婦とは思えない程に身軽な動きをしながらドアを開け、外にいるフィリアさんと対面した。


 …うん、異世界って凄い。普通、妊婦ってあんなアクロバティックに動かないでしょ。


「フィリア…ちょっと声が大きい。あと産まれるのは人化龍だからその姿のままじゃ赤ちゃんが驚く」

『…あら、そうだったわね。失念してたわ』

「ん、気を付けて」


 スッと人化したフィリアさんを連れてリアが家の中へと戻って来る。リアに隣には少しだけ水色の混じった白銀に輝く髪を腰まで伸ばし、前髪も片目が隠れるほどに伸ばした美人が立っていた。瞳の色は氷を思わせる様な透き通った水色だ。


 …なんか久しぶりに見たな、フィリアさんの人型。


「にしても随分とお腹が大きくなったわね…前見た時はまだまだだったのに」

「ん、懐かしい」

「私も人化して産めばよかったかしら?」

「んー…でも一人で生きて来たからこそゼノは———………ん」


 …リアの顔色が変わった。

 とりあえずリアを抱えて転移でベットまで移動させ、そっと横にさせた後に出産時に必要な物を取り出していく。

 えっと…とりあえず洗う為のぬるま湯の入った桶とタオル。それと寝かせる様のベットか?


「ゼノ」


 えーっと…日本じゃ看護師がしてくれていたからやはり分からない部分がある。


「…ゼノ?」


 と言うか慌てて俺の素材で錬成して作ってしまったがこれで大丈夫だろうか?だって根源種の素材で作ったベットだぞ?なんか辺な性能を持ってる可能性が…クッ、今からでもそこら辺の木でも抜いてそれで作るか?


「………」


 肩をポンポンと叩かれ、振り返ると既に赤ちゃんを抱っこしたリアが居た。…しっかりタオルに巻かれてる。


「……ゼノ、もう終わった」

「早くないか…?」

「ん、私でも出産は痛い…簡略化した」


 軽く説明してもらったのだが、胎児の時を止めてから転移で体外に出して時止めを解除して即座にやるべき事を済ませたらしい。あと俺が取り出した物はしっかりと使ってくれていた。


 うん…痛めないのはいい事なのだが、これで良いのだろうか?お腹を痛めて必死に産んだからこそ愛せると言うのを聞いた気がするのだが。

 ……俺に女性の辛さが分からないから何も言うまい。


「………そっくりだな、ノアに」

「ん、だってノアだもん」


 先程アルバムで見た生まれたばかりのノアにそっくりだ。一応何かおかしいところはないか鑑定して確かめてみる。


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 種族:擬人化幼龍

 名前:ノア・シオン(エルシオン)

 体力:5/5

 魔力:5/5

 攻撃力:1

 防御力:3

 魔法抵抗力:2


 スキル


 耐性


 称号

 淵根ノ子


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 産まれたばかりかつ擬人化してる事もあって滅茶苦茶にステータスが低いが特に問題は無さそうだ。

 これから時を経つにつれてある程度ステータスが上がってスキルも手に入るだろう。


 攻防変換で二桁代の攻撃力に調整し、そっとノアを抱き上げる。うん、なんか日本に戻った気分だな。

 懐かしい気分になっていると、リアは「フィリアを呼んでくる」と言って寝室から出ていく。


「それって普通俺が動くはずなんだけどな…」

「あぅ!」

「…にしても泣かないな、ノアは」


 産声すら上げていない。にも関わらずしっかりと呼吸をしている…多分リアが何かをしたのだろう。相当日本での生活の時に流産してしまったのを気にしているのかな。

 …淵源の祝福が付与されたし。


「私の孫が産まれt——ムグッ!」

「…フィリア、声大きい」

「………ごめん」


 そんな少し大袈裟なフィリアさんの声を聞きながらもほら、とノアをフィリアさんに見せる。

 こうして俺たちに新たな家族が加わったのだった。


 ---------------

 子供の成長とは早い物だ。

 あの後に数年経ち、第二子であり俺たちの娘であるシアが産まれた。


 そんなノアやシアは今や幼い姿のリアと同じくらいの背丈にまで成長している。最近のリアは大人の姿で過ごしている…まぁ、多分ちょっとした母親のプライド的なのだと思う。


「やぁっ…!」


 今はノアの戦闘の練習に付き合っている。

 ノアは男の子らしく戦う事に興味を持ったらしく、いつも俺に練習に付き合ってとせがんでくる。流石日本での性格の頃に体術に興味を持ってただけある。


 シアは現在俺の背中でお眠り中だ。たまに寝ぼけて噛みついてくるのが可愛らしい…擬人化してるとは言え竜種の子供だからゴブリンの肉程度なら噛みちぎれる力をしているが。


 と言うわけでシアを背負っている俺に向かってノアは手を竜の爪にして攻撃してくる。俺は鱗を生やした足で迎え撃ち、ノアの爪を弾く…こう言うのに付き合ってて思うのだが手加減っていうのは難しい。何せ力を少しでもこめてしまえばノアが吹き飛ぶのだ。


 しかも背中にシアを背負ってるから起こさないように動く事も考えたらあまり激しく動けないのだ。まぁでも流石に百年も生きていない我が子に負けるほど俺も衰えてない。


「うえぇ…父さん強くない?」

「そりゃあな。子供に負けるほど俺は弱くないぞ?」

「いつになったら父さんを超えれるのかな…」

「ほぅ?俺を超えたいのか?」


「………カプッ」


 …シアが首を噛んできた。噛み癖つかないよな…大丈夫だよな?


「まっ、これからも付き合ってやるから頑張って強くなるんだぞ」

「そう…だね、うん!」


 にしてもノアはシアが好きなのかな?結構普段からチラチラ見てる気がするのだが。あっ、コラ!耳を噛むんじゃありませんっ!


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「…もう成人か」

「ん、龍の子の独り立ちは早い」

「本当に早いな…秒としか思えんかったぞ」

「…それは不老種だから」


 擬人化の枠を超え、完全に龍の姿になったノアが空を飛んでいったのを見送りながらリアと会話する。

 本当に早い…産まれたのがつい昨日の事の様に感じるし、戦闘の練習に付き合ってたのが数時間前程度に思える。


「…この子達には寿命がある。長命とはいえ、しっかりと愛さなきゃ」

「そうだな…寿命で結局別れるんだもんな」


 リアの膝の上で寝ているシアの頭を撫でる。この子は本当に寝ることが好きだな…そんなシアはミストドラゴンに成っている。これに怠惰の権能とか芽生えてたら完璧に怠惰ノ龍となっていただろう。

 ちなみにノアはリオンドラゴン。随分と特殊な進化を歩んでいるらしい…それでも突然変異種では無いのだが。


「さてと…今日は何をしようかねぇ」

「ん、久しぶりに街にでも」

「いいね。調味料とかも切れてくる頃合いだしな」


 ノアは強くなってから戻ってくるらしい…どうせなら今度リアに頼んで模擬戦でもしようかな?


 ----------------

「おーい…起きろシア、お兄ちゃんが帰ってきたぞ〜」


 アレからも何年か経ち、我が家に帰ってきたノアは今現在、地下にある空間に繋がる扉の前にいる。シアはここを根城としているのだが…シアはいつになったら旅立つのだろうか?


「…お兄ちゃん?私に近付かない方が良いよ………寝ちゃうから」

「…?よく分からんが開けるぞ?」

「………ぁ、ダメ…」


 軽々しくノアが開けた扉から大量の怠惰の霧と睡眠ガスの混ざった霧が放出されてノアに襲いかかる。

 そしてノアは抵抗できずに寝てしまった…


「……だから言ったのに」

「しょうがないだろ、ノアはシアの事好きそうだしな」

「……ならお兄ちゃんに伝言、私を前にして眠くならない様になってから来て」

「我が娘ながら無理難題を言いやがるな」

「…パパは寝ないじゃん」

「流石にこれに効くほど弱くはなってないからな」

「………ママも寝ない」

「リアは俺より強いぞ。太刀打ち出来るって思わない方がいいと思うが」

「……パパとママ、何者?」

「それは秘密だな」


 淵源種と根源種に関しては秘匿されているしな。我が子であっても言わない方がいいだろう。


 まぁ、さっきまでの出来事でわかる様にシアは怠惰の権能に目覚め、更にミストドラゴンからスリープドラゴン…他にも進化した事で今は怠惰ノ銀龍となっている。レベル上げとかしている場面を見てないのにシアは今現在上位種である…なんだろう、修行して帰ってきて上位種目前と言った感じのノアが不憫でならない。


 しかもシアは突然変異の称号持ちでもある…割と生態系の中で見れば化け物に育ってきてる気がしなくもない。


「んー………私眠いから…おやすみ…」


 ゆったりとした足取りで部屋の中に戻っていくシア。戻るのは良いけど扉は閉めて欲しい…怠惰の霧と睡眠ガスをブレンドした霧が外に漏れる。


「…シアには早くこれを制御出来るようになって欲しいんだがなぁ」


 怠惰の霧と睡眠ガスをブレンドした霧を収束させ、消滅させる。この霧で近隣の生物全員が眠ったのが懐かしい。怠惰の権能を発現させた時から今現在に至るまでシアはこの力を我が物に出来ていない。

 だからこそこんな地下に閉じこもっているわけだが。


「でも銀龍になったんだから次の進化でなんとかなるかな」

「…ただいま」

「おぅ、おかえりリア」

「ん、フィリアの鱗」

「おぅありがとうな」


 リアはフィリアさんの所に出向いて鱗を貰ってきていた。フィリアさんは聖神龍なだけあって罪の力の抑制が鱗だけでも発揮する。

 元々罪神龍だった俺の鱗だと大罪が増幅されるだけだし、霊神龍だったリアだとあまり効果がない。


 袋いっぱいに詰め込まれた聖神龍の鱗を転移させてシアの寝床にばら撒く。邪落化無効とか大罪抵抗とかをシアに授けるって案も出たんだがシア自身が拒んだから今はこうやって大罪を抑える方向で過ごしている。


「…戻るか」

「ん。プリン買ってきた」

「…この前アイス一年分ほど買ってきてなかったか?」

「それは五年前の話」


 …時が過ぎるのって早いなぁ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

気分転換に脳死で書いたSSです。多分次に出すSSはこれの続き。


…あと完結した時に来たコメントの数々が滅茶苦茶嬉しかった事をここに記しときます。

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