第2話 同じ戦い方


 日が傾いてきた。

 あと何体か倒したら街へ戻ろう。あの二人のことは無視だ無視。


 二人は魔物が現れる度に戦いたそうにするのだが、間髪入れずにあたしがぶっ飛ばすもんだから後ろでずっとムズムズしているようだった。



「次だ次」「すぐに前に行くぞ」「むしろ始めから前を歩いたほうがいいかな」「でもそうするとお姉さんを見失わないか」などとコソコソ話し合っている声が聞こえる。



 さすがに大人げないだろうか。なんとなく罪悪感が……。

 などと考えていると、またしても魔物が音もなく現れた。狼のような姿の魔物が2体。


「また来たわね」


 あたしは手を前に出そうとした。


「あ、お姉さん! ストップ! ストップ!」


 二人が今度こそはとあたしの前へ割って入る。


「見ててください! 僕たちの戦いを」


 大丈夫なのかしら。あたしはとりあえず後ろへ下がり、様子を見ることにした。


「ムイ! いいとこ見せるぞ!」


「もちろん!」


 二人は剣を抜いた。ずいぶん年季の入った剣ね。

 狼は素早い。熊ほど硬くはないが、剣での攻撃を当てられるかどうか見物だ。



 狼がものすごいスピードで向かってきた。二人は片手で剣を持ち前に構えるが、そんな簡単に切らせてもらえるだろうか。


 狼がそれぞれの間合いに突っ込んだ。二人が剣を振り下ろそうとした途端、狼は地面を蹴りさっと横に移動した。そのまま二人の腹を噛みちぎろうと口を開け飛びかかる。


 その瞬間、狼の顔面に光が直撃した。向こう側が見えるほど大きな穴があき、狼は二人の足元にドサッと倒れた。だがまだ生きているようで、鋭い爪がキラリと光った。


 二人は剣を振り下ろしとどめを刺す。真っ二つになった狼は、塵となり消えていった。



 二人の顔には焦りや疲労の色はなく、この程度なら余裕、といった感じだった。


「へえ、やるわね」


 素直にそう思った。


「ありがとうございます!」


「このくらいなら、大丈夫!」


 二人は少し照れながら笑った。


 剣を振り上げた時に、もう片方の手で魔法を発動。狼が剣を避けて突っ込んでくるタイミングを見計らって砲撃した。


「というか、あたしと似た戦闘スタイルね。実はあたしも剣と魔法どっちも使うのよ。今は剣は宿に置いてあるけど」


「はい! 知ってます」


「あ、そうだったの」


 まあ、このへんでは割と有名か。


「あなたたちは誰かに習ったの? それとも自分たちで?」


「師匠に習いました! 剣も師匠にもらったんです」


「師匠がいるの。どんな人?」


「師匠はものすごく強いんですよ!」

「そう! めちゃくちゃ!」


「だからどんな人よ」


「ええと、40歳くらいの男の人で」

「背が低くてムキムキで!」

「かっこよくて」

「優しい!」



 パッツンときのこ頭が交互に答える。


「なら、その師匠についていけばよかったじゃない。その人も勇者を目指していたんじゃないの?」


「あ、師匠は、もう……」


「……死んじゃったんだ」


 死んいでるのか。

 二人は一瞬悲しげな表情を浮かべたが、すぐに聞いてもいないのに師匠の好きなところを言い始めた。



「僕たちのために命をかけてくれたり」

「毎日遅くまで修行に付き合ってくれたんだ」

「ずっと話を聞いてくれて」

「俺のご飯そんなにおいしくなかったのに、おいしいって全部食べてくれて」

「声がいいって、歌を歌ったら喜んでくれた」

「いろいろよく褒めてくれたよね」

「嬉しいことがあるとすぐに泣いて」

「怒られることもあったけど」


 二人はとても嬉しそうに話をする。すごく好かれていたんだな。



 同じ戦闘スタイルは何人かいたが、その特徴に当てはまる人物に心当たりはなかった。

 まあ、全員を把握しているわけじゃないから、知らない人がいるのは当然なのだが。


 なんせこの戦い方をしているとすぐに噂になるから、たいていみな有名になる。それくらい剣と魔法の両方を選択する者は少なく、あと、一人残らず変人なのでそういった意味でも目立つ。


 あたしもその部類に入っているのだが……。



「俺はそんなに怒られてないよ」


「そう? 僕よりムイのほうが怒られてた気がするけど」


「ええ? そうかなあ?」


 二人はどっちが怒られてたかで揉め始めた。ほんと、子供みたいだな。

 ……18歳なんて、まだ子供か。


「多分それは怒ってるんじゃなくて、叱ってるのよ」


 二人はあたしを見る。


「何が違うんですか?」


「愛情があるのよ。あなたたちの師匠は、あなたたちのことを想ってアドバイスしてたのよ。だから怒ってるんじゃない。叱ってるの」


「……じゃあ、良いことかな?」


「まあ悪いことではないと思うけどね。それだけ想われてる証拠だと思うから。だけどあくまでもこれはあたしの考えであって、あなたたちの師匠が本当にどう思っていたかは

「聞いたダンテ!? やっぱり俺のほうが怒られてた!!」


「いいや! 僕のほうがいっぱいミスしてるから、僕のほうが怒られてた!」


「俺なんて魔法に集中しすぎて剣を師匠に向かって放り投げちゃった時めちゃくちゃ叱られたんだぞ!」


「それを言うなら僕だって、剣に集中しすぎてあっちこっちに砲撃しまくったら師匠に当てちゃってすごく叱られたんだから!」



「……それは怒ってるかも」


 今度はどちらがより叱られたかで揉め始めた。



 じきに夜になる。

 森は眠る準備をしているかのように静寂に包まれ始めたが、二人の騒がしい声が響き、ここだけ夜が避けてくれているようだった。

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