第15話 (君塚澪視点)

 ダンジョンに入る前、慈雨さんの所持カードはすべて把握したから、確実に死んでいる。

 生きているなんて万が一の希望は、ありえない。


 そして、わたくし達も――命辛々。

 わたくしと一ノ瀬くんは消費型アイテムカードを6枚すべて使って、何とか生き延びた。


「ここまで逃げれば、追ってこないだろ」

「特殊ステージだもの……一定のエリアは出ないはずよ」


 逃げることができたとはいえ、わたくしの『英雄ハクア』も、一ノ瀬くんの『トレント』もグレーアウトしてしまっている。


 まだ★2のモンスターカードを互いに1枚ずつ持っているとはいえ、戦闘回数には限界があるだろう。

 急いで地上に戻るべき状況だけど、先に一ノ瀬くんへと顔を向けた。


「……説明、してくれるのよね」

「ああ」


 わたくし達は、慈雨さんを殺してしまった。

 もちろん彼女は『赤い土』の落とし穴に引っかかったから、わたくし達が自白したところで、学園側は事故として処理するだろう。


 だけど、わたくしが見殺しにしたようなものだ。

 それも慈雨奏は転生者らしかった。

 同郷の誰かが死んでしまったという事実に、ショックを受けている。


「慈雨奏……彼女は原作小説でも、あの場所で死ぬんだ」

「――――――」


 ガーゴイル3体が現れた時、一ノ瀬くんの知っているような口振りから、そんな可能性も考えていた。

 しかし、だからこそわからない。


「なら、どうして助けなかったの?」


 知っていたなら、彼女があの場所……というよりダンジョンに入らないよう忠告することもできたはずだ。

 一休みした時の話といい、一ノ瀬くんの話と行動には一貫性がない。


「きっと代表は俺達が見殺ししたように思っているかもしれないけど、それは違う」

「どういう意味?」

「慈雨は知っていたんだよ。自分が死ぬって……それでも彼女はここまで来た」


 慈雨さんがその運命を知らなかったかもしれない……とは言えなかった。

 地上にいた時から、彼女の顔色は悪かったから。

 あの絶望感は、自分の死期を悟ったと言われても仕方ないと思う……たとえ結果論でも。


 ならば彼女は、自殺しようとしていたのだろうか。

 ――なぜ? わからない。

 もう彼女は死んでしまったのだから。


「それで――一ノ瀬くんが見殺しにした理由は何? 説得でもして、助けられた可能性もあったんじゃないの?」

「……代表。言ったじゃないか、必要な犠牲だって。彼女が死ぬことで、この物語は始まるんだよ」

「は……?」


 意味がわからない。

 物語というのは、一ノ瀬くんが知っているこの世界の小説の話をしているのだろうか。

 彼は、慈雨奏の死に、何か意味があると言っているみたいだ。


「二宮双真が主人公だって話はしただろう?」

「え、ええ」

「クラスメイトの死をきっかけに、彼が成長しようと努力し始めるんだ」

「そ、そんなことの為に――」

「そんなこと? おいおい代表、甘いんじゃないか?」


 一瞬真顔になった一ノ瀬くんが、呆れたように話を続ける。


「1組をクラスとして強くしたいって、代表は賛同したじゃないか」

「でも一ノ瀬くんは、慈雨さんに『何とかする』って――」

「騙したことを気にしているのかよ。いつまでも地球の常識でいたら、早死にするぜ?」

「……っ」


 わたくしの心の中で、ストンと何かが腑に落ちた。

 それは……良心という概念だったかもしれない。


 倫理観を捨てて、ここが物語だということを前提に論理的な思考をすれば……一ノ瀬くんの言う事は正論だからだ。


 なぜ1組の生徒達が引いたカードの★3以上が多かったのか、最初からその内1人が消えるのだとしたら、実にバランスが取れている。


「……そうね。慈雨さんはトラップに引っかかって、事故死……したのよね」

「わかってくれて助かるぜ」


 残酷な世界で生き残るためには、必要な犠牲もあることを知った。

 一ノ瀬くんの話に納得したからでも、物語の主人公の成長を考えたからでもない。


 今自分が決意を固めようとしているという事実が――――何よりの証左だと、気付いてしまったから。











୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『トレント』

 ランク:★★★

 属性:土

 生息地:ダンジョン7・8層

 スキル:《フィアー》


・『属性ウォルフ』

 ランク:★★★

 属性:基礎5種類

 生息地:ダンジョン6~8層

 スキル:《俊足》


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

昨日、予約投稿ミスでした

すみません、今日もう1話投稿します

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