第13話 ダンジョン不法侵入
アイテムとはいえ、★3以上のカードを早々に3枚も入手したのは、初ダンジョンにして快挙と言えるかもしれない。
まあ他の生徒に見せびらかすつもりもなければ、先に進むために惜しむことなく使用するつもりだ。
ダンジョンに出てすぐ、自分の部屋がある寮へと向かうと、ちょうどボクの隣の部屋から、生徒が出てきた。
「あれ? 君ももしかすると、ダンジョン帰り?」
「ああ。君“も”ってことは、お前もか」
「まあね。ダンジョン怖いし……あっ、俺は3組の夏堀懐貴ね」
顔はイケメンだし、話しやすい。
1組にはいない、活発そうな男子だ。
「1組の四辻聖夜だ。よろしく」
「四辻……ああ、君がそうなんだ。みんな君のこと怖いって言ってたけど、案外普通なんだ」
「生まれつき目つきが悪くてな」
昨日の一件が既に他クラスにも広まっているのだろうか。
それとも――――いや、そっち関係の話を切り出すと話がややこしくなる可能性があるから止そう。
「ところでホワイトカード、使った? あれ全然当たらないの」
「初ダンジョンの捕獲率はすこぶる低いらしいぞ。だからボクも使ってない」
「うえっ、マジ!?」
別に誰から聞いた話でもないが、間違ったことは言っていない。
「あちゃ~、やっぱ情報不足は良くないかぁ」
「そんなアドが取れる情報か? 多分、これから授業でも教わると思うけど」
「まあ、それはそうなんだけどねぇ……」
夏堀はじーっとボクの顔を見て、何かに納得したのか手のひらを合わせた。
……女みたいな仕草をする。
「そうだ四辻……連絡先交換しようぜ?」
「……突然だな。ボクに情報を求めているなら、意味ないぞ」
「およ? それは一体どうして?」
キョトンとする夏堀に、ボクは呆れた。
もしかして、知らないのか……?
「ボクは1組で孤立しているんだよ」
「知ってる。いや、だから誘ってんだよ」
ボッチと友達になりたいのだろうか。
なんか変わった奴だと思い始めてきた。
「なんか疑いの目~! いやまあ単に友達になりたいだけなんだけどさぁ」
「それだけじゃないような事、口走ったよな?」
「……う~ん」
迷宮学園で、他クラスのボッチとわざわざコネクションを作る理由が、あるような口ぶりだった。
1組のスパイになれって言われても、困るんだけどな。
「ほら、四辻が孤立してるってか、浮いてるらしいじゃん?」
「さっきも言ったな。それが?」
「そこだよ! それなのに君は情報を持っていて、活用できている!」
――夏堀の考えは、ボクの憶測の範囲外だった。
言われてみれば、ボクもまた口を滑らせていたらしい。
つい情報を漏らしてしまったとも言える。
「ま、まあ……そうかもしれない」
「それって君が勤勉ってことでしょ? ねっ?」
「た、たしかにぃ……?」
ボクの勉強熱心なところを、有能だと思って……すなわち、能力面を買われたらしい。
その場合、協力者にはボッチが最適だという理屈もわかった。
情報を持っていようと、狡猾な人間が背後にいれば、利用してくる危険性まである。
むしろ夏堀の方が、スパイを警戒するような思考をしている。
いつからここは、スパイ学園になったんだ……? とは、思うけど。
「まあさ、この時間に寮に戻っているでしょ? 仲間意識的なところもあるし」
同じソロ……ということ。
今ここにいる意味を考えれば、ソロでダンジョンに挑み、スタミナ不足で帰ってきたのは想像に難くない。
或いは、夏堀もまた3組の中で浮いているとでも言いたげな口ぶりでもある。
ちょっと話しただけでも、ノリが良さそうなだけに、そうだったら意外だけど。
「俺はさ、クラスとかどうでも良くて、個人成績で上に行きたいの」
彼の明るい性格的に、利他ではなく利己なのはやや意外だけど……こちらとしても悪くない提案だ。
「独り身同士、仲良くしようぜ! 四辻!」
「はいはい、わかった。疑って悪かったよ」
「そ、それじゃ――」
「連絡先を交換しよう」
そんな目を輝かせながら期待されたら、応えざるを得ないだろう。
もしかしたら、前世のボクよりもコミュニケーション能力高いかもしれない。
物語の中とはいえ、こういう人もいるのか。
「と言っても、部屋は隣同士だし、後でいいか? 疲れているんだ」
「ん。そうだね。じゃ、俺もちょっと昼寝しようかな」
夏堀は、欠伸をして見せて、部屋へと戻っていった。
変わった奴もいたもんだ、と思いながらも、ここがフィクションの世界であることを思い出す。
夏堀懐貴……彼もまた、メインキャラクターか何かなのだろうか。
ボクは部屋に端末を置いて、とある場所まで赴くことにした。
――迷宮学園敷地内の端にある広い墓地。
『サモテン』と同じ世界ならば、この場所にはあるギミックが隠されている。
墓地の中心に咲く桜の大木。
そこへ、ボクは消費型アイテムカード『ポーション★★』を根本に使用した。
すると、地面から掘り起こされるように根が動き、やがて地が穿たれ、1枚のカードが掘り起こされた。
『第陸の鍵★★★★★』
一応……複数ある墓の目印を辿って、謎を解く形でこのギミックはわかるようになっているらしい。
誰かに先に獲られる前に、いち早く回収しておくべき代物だ。
そう――これこそが、6つ目のダンジョンの入り口へと繋がる鍵である。
え? ダンジョンの入り口くらい、何処を使っても同じじゃん?
それがそうでもない。
既存の5つは、学園が管理しているだけあって、端末がなければダンジョンに入場できない。
しかしダンジョン内で一々居場所を学園に知られるというのも、気分が良い話じゃないだろう。
そこでこの『第陸の鍵』である。
このアイテムを使えば、いつでも何処でも、ダンジョンに繋がる扉を出現させることができるのだ。
つまり、端末の所持が検閲されない。
そう……寮の部屋に端末を置き去りにしていったのは、そういうことである。
「さて、ダンジョンに不法侵入だ」
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
・『ミミック』
ランク:★★★
属性:無
生息地:ダンジョン6・7層
スキル:《擬態》
・『MVP踏破報酬』
ダンジョンでは、ステージ踏破時にユーザーへ報酬が与えられる。
踏破時、MVPが計測され、選ばれたユーザーの踏破報酬は豪華になる。神話武器及び超越武器は、必ずこのMVP報酬である。
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