STAND UP FROM ZERO

@KSNM9433

EPISODE1

「全く…どんな戦い方したらこうなるか教えて欲しいね!」

飛行戦艦<ムラサメ>のCJ<コンバットジャケット>整備ドック内で怒号が響き渡る。


「そりゃ…俺も気を付けてますけどね、被弾するのは仕方ないじゃないですかコールマン整備長」

パイロットの男、ユングは必死に弁明するも整備長のコールマンには納得いかない様子だ。

「だとしてもユング!片腕一本丸ごと無くなってるのはどういう事だよ!これ直すのはかなり時間かかるぞ…」

コールマンは頭を抱えながらも整備士達に指示を出し、自分も機体の近くまで寄る。


『ユング、至急ブリッジまで上がってくるように。ブリーフィングを始めるよ』

艦内放送が響き渡る。

「じゃあ俺はこれで!早めの修理頼みましたよー!」

「あっ!おいユング!ったく…まぁ、生きてるだけマシか」

去って行くユングの背中を見てコールマンは呆れながらも作業に取り掛かった。


「遅せぇな、ユングの奴」

「あの壊れ方だ。コールマンと口喧嘩でもしてそうだけどな」

ブリッジには数名のパイロットとオペレーターが談笑している。その中でもCJパイロットのマキとスコットは同じパイロットメンバーであるユングの話をしていた。


「遅れました!」

ブリッジにユングが走り込んで来る。息が上がって余程急いでいたのだろうか。

「噂をすれば…ってやつか?」

「よぉユング。またコールマンと揉めたのか?」

ブリッジに入ったユングに対しマキとスコットが話し掛ける。

「あぁ…俺のジャケットについて少しね…」

ユングは誤魔化すように答える…が、2人には無駄だった。


「アタシ達分かってるよ。どうせジャケットの破損状態でコールマンに言われたんだろ」

「まぁ、腕一本無くなりゃキレるのも無理は無いさ」

マキ達の答えにユングは何も言えなかった。全て当たっていたからだ。前回の戦闘でユングのCJは大きく損傷した。左腕が落とされただけでなく、脚部の駆動系にも破損が見られた。


「流石に…誤魔化せないか」

「まぁいいじゃないの。ユングが生きてるだけマシよ」

オペレーターの一人が擁護する。

「キャシィさん…」

「パイロットが少ないからね。ジャケットは修理出来るけど…パイロットは死ねば直せないからさ。全員集まったからブリーフィングを始めるわよ」

キャシィと呼ばれたオペレーターはモニターに文字を写す。それは自分達への依頼文であった。


「セリス・フィアナ南部の港町『ガスンニクス』町長からの依頼ね。どうやらゲリラ掃討みたい」

キャシィはモニターの画面を変更し、『ガスンニクス』の地図を写す。

「情報によれば『ザノトメハーバー』付近に不法侵入した戦艦が2日前、警告射撃したガスンニクスの艦を逆に撃沈。現在は上陸したそうよ」

モニターに写った地図を見ながら説明は続く。


「潜伏場所は?ゲリラといえどある程度のアジトもあるだろ?」

説明の最中、マキが質問した。キャシィは地図を拡大し、赤く表示させる。

「このA5プラント。現在はこの工場内に潜伏中よ。町長曰く、A5プラントは破壊しても構わないとの事、一時的に鎮圧出来ればそれでいいみたいよ。作戦の第1目標はA5プラントの破壊。拠点を破壊すれば奴らも戦意喪失するはず、その隙に母艦へ上陸し一気に掃討する。OK?」


指揮棒を畳みモニターの画面を消し、キャシィは全員へ聞いた。

「作戦はいいが……奴らはCJを持ってるのか?それにゲリラの規模も分からない。それに総員すら分からないんじゃ自殺行為だ。その辺りの情報は?」

眉をひそめながらスコットはキャシィへ質問する。確かにそうだ。敵の所在が分からない限り不用意に兵を出すのはかえって危険である。


「A5プラント付近に見られたCJは5機。ゲリラはおよそ30人と予測されてるわ。無理に交戦する必要は無いからプラントの破壊を優先して」


返答にスコットはサムズアップで返す。

「了解だ!マキ、準備するぞ!」

「はいはい。分かったから耳元でデカい声出さないでくれるかなスコットさんよ」

スコットの暑苦しさに気だるそうに返すマキ。2人はCJ整備ドックへと足を運んだ。その間、ユングは少し申し訳無さそうにしていた。


「あの、キャシィさん」

「ん?」

「俺…何をしていたらいいんでしょうか?」

ユングは今、自分のCJが無く、言ってしまえば出来る事が無いのだ。その場で俯くユングに対しキャシィは近付きユングの顎を上げる。

「ジャケット乗るだけがユングの仕事なの?そのジャケットが損傷したなら直せばいいでしょ。それに自分の乗る機体なんだから自分で立ち会いなさいよ」


声色を変えたキャシィに言われ、ユングは少し怯むがその通りと思い、キャシィに一礼してからその場を去る。





セリス・フィアナ南部に位置する小さな港町『ガスンニクス』。小さな港町だがここは唯一の貿易港でもあるため、街はいつも賑わいを見せていた。最も…最近ではゲリラの上陸によりその賑わいは下火になりつつあった。


「あっ…サジェスタさん弁当忘れてる。届けに行かなきゃ」

家で一人過ごしていた少女、グレイ・リヴォルツィオーネは同居人のサジェスタが弁当を忘れていた事に気付く。彼女の両親は彼女が9歳の頃に2人共蒸発し、現在は親睦の深かったサジェスタの家で同居生活をしているのだ。


「職場には行ったことあるから大丈夫だけど…ゲリラに遭遇しないようにだけ注意しないと」

家を出て南へと歩き続ける。サジェスタはザノトメハーバーの工場勤務である。現在ゲリラが占拠したA5プラントではなく、そこから遠いA8プラントで働いている。今日は蒸し暑く、日照りも強い。


「はぁ…はぁ…ここまで暑いとは聞いてないんだけど」


A8プラントに着いたグレイはエントランスに入り、受付の人と会話する。


「すみません。この工場で働いているサジェスタって人に用があるんですけど」

「サジェスタさんですか?今はまだ仕事中だから…あそこの待合室で待ってて貰えますか?」


そう言って受付の人は指を指して待合室の場所を私に教えてくれた。私は一礼し待合室のドアを開ける。中では冷房が効き、今までの暑さが嘘のようだった。


「はァ〜、ここは天国かしら?」

椅子に座り冷房の効いた部屋で寛ぐ。少し時間が経った時に待合室のドアが開く。


「グレイ!どうしたんだよ!?」

作業着姿のサジェスタが入ってきた。帽子を被り、首にタオルを巻いて灰色のツナギを着ている姿でいかにも工場勤務といった格好だった。


「サジェスタさん。弁当忘れてましたね。ほら」

テーブルに置かれた弁当を見てサジェスタは目を丸くする。それは朝見た弁当そっくりだったからだ。


「あっ!何か無いと思ったら!ありがとうグレイ!腹減ってたんだよ!」

弁当を手に取るや否や、サジェスタは夢中で食べ始めた。

「そんなにお腹空いてたんですか?」

「そりゃそうだよ。工場勤務は体力勝負だからね、これで午後も頑張れるよ」

弁当を食べて笑顔のサジェスタを見て、私も少し笑顔になった。

しかしその時だった……今までの生活が壊れたのは…

工場の外から爆発音が広がる。

「何?爆発!?」

「外からだぞ!」

工場の人達も騒ぎ始める。サジェスタはグレイの手を掴み走る。


「早く走るんだグレイ!この場から逃げろ!」

「でも外は…!」

爆音響く中、怯えるグレイを激励するかの様にサジェスタは口を開く。


「この工場も中は危ない、爆発に巻き込まれて瓦礫に埋もれたら何も出来ずに死ぬんだぞ!だから走るんだグレイ!いいな!?」

サジェスタはグレイの背中を押して外へ逃がした。グレイが走り続けたその時、A8プラント付近にミサイルが着弾し爆発する。


「はぁ…はぁ…きゃっ!」

息を切らしながら走ると目の前には大きな人型をした鉄の塊がそびえ立っていた。成人男性5人分の大きさもあるだろう巨大が目の前に現れ、恐怖の余り足が震える、逃げないといけないと分かっているのに動けない。

コンバットジャケット…テレビでは度々見た物が実際に目の前に現れていた現実が分からずにいた。


「チッ…早く投降しろよ!」

パイロットの一人がそう叫びながら機関銃を撃つ。ゲリラと交戦中の機体はA5プラントへ攻撃を仕掛けていた。ゲリラ側も負けじと歩兵部隊が車から機銃を発射する。


「あっ……あぁっ…」

立ちすくむグレイ。何が起きているか理解が出来ない、鉄の巨体が工場を攻撃し爆発音と発砲音だけが聞こえる。怖くて立つ事も出来ないのだ。


「ん?何で民間人が居るんだよ!?A5プラントには民間人は居ない筈じゃないのか!おい!そこのアンタ!何してるんだよ!」


CJコンバットジャケットから声が聞こえる。女性で、高圧的な声だった。彼女の乗るCJがグレイまで近付く。

「ひっ…!」

動かない身体を必死に動かして防御姿勢を取る。だがCJはグレイを襲わなかった。


「おいアンタ!死にたくないならこのワイヤーに乗れ!」


CJのコクピットからワイヤーが降下される。何とか立ち上がり、ワイヤーに足を掛けて上昇する。コクピットまで着くと彼女は私をコクピットの後ろへ追いやる。


『スコット聞こえるかい?民間人を一名救助した。援護に回るからアンタが攻撃してくれるかい?』

『了解だ、後ろに下がって援護射撃を頼むぞ』


彼女は仲間と思わしき人物と通信を取り、機体を下がらせる。仲間の機体が自分より前に出た事を確認したら彼女は私に質問をして来た。


「アタシはマキ。アンタは?」

「グレイです…グレイ・リヴォルツィオーネ」

彼女の操縦するCJは敵へ照準を向けて射撃を開始する。狙い定めた銃弾は敵のCJを容赦なく貫き、動かなくなる。その光景はグレイからすれば異様そのもので吐き気を催していた。それもそのはず、戦争とは無関係の生活を送ってきたグレイにとってこの光景は非現実的である。


「この傭兵かぶれ共が!邪魔するんじゃねぇ!」

ゲリラの一人が声を荒げる。その声に呼応するかの様に攻撃が苛烈になっていく。

前方から機銃の弾や手榴弾、有線ミサイルが飛び交い爆音が更に増える中、グレイは吐き気を必死に抑えていた。


「うっ……うぇっ!」

後ろのシートで吐き気を堪えているグレイ、マキも気が気でなくある判断を取った。


『スコット!1回引き上げるよ!民間人の様子が変だ、悪いが今回は離脱する!』

『了解!先に離脱してくれ!』

マキは通信を切り、CJを少しずつ後退りさせるように歩く。しかしゲリラの連中はそれを見過ごさなかった。マキだけに集中砲火を喰らわせる様に攻撃を重ねる。


「死ね!傭兵かぶれ!」

機銃の射撃、CJの砲撃、歩兵部隊の手榴弾、マキのCJは盾で防ぐも数が多過ぎるが故に、遂に盾が壊れた。盾で防いだ爆風に耐え切れず、CJは体制を崩し大きく転倒する。


「チッ!この腐れ外道共が!」

CJのコクピットで叫ぶマキ、機関銃を乱射し敵を散らす。ゲリラの歩兵部隊は弾に当たり無惨な姿に変わり、その場は真っ赤に染まった。


「チッ…退けぇ!」

ゲリラのCJを筆頭に部隊はその場を後にした。

スコットから通信が入る。


『マキ、ゲリラの連中は撤退した様子だ。救助した民間人の様子は?』

『大丈夫そうだよ。とりあえず安全な所で降ろすとするよ。先に艦に戻ってくれるか?』

マキの頼みを聞きスコットは艦へと帰還した。


マキのCJはA5プラントから離れ遠くのA8プラント付近まで歩き、そこで降りた。

A8プラントの外観は比較的綺麗だが、所々崩壊している部分も見受けられた。

「ふぅ〜…グレイ、大丈夫かい?」

「え…えぇ、まぁ……」


悲惨な光景から一変、いつもと変わらない風景が目の前に広がるのを見て、グレイは落ち着きを取り戻した。いつも見る夕焼け、1日の終わりが近付く感覚にしてくれているのだ。


「あの…マキさんは一体…何者なんですか?」

「アタシ?単なる傭兵。『AFTアオフシュタンス』のCJ乗りさ」

マキは淡々と答える。傭兵という存在はグレイにとって無縁だった。戦争や紛争なんて経験した事がない。平和な日々を送っていたのだから…


「じゃあ今度はアタシが質問するよ。アンタはどうしてA5プラントに近付いたのさ?立ち入り禁止区域の筈だが?」

マキの質問に対しグレイは1度深呼吸をして答える。


「A8プラントで、同居人に弁当を渡した帰りに戦闘が発生したんです。何が起きたか分からなくて…何処を走っているのかすら分からない。その時にマキさんの乗るCJが目の前に近付いて立ちすくんだ訳です」

グレイの答えにマキは頷きながら考える。


「それで?その同居人は何処に?」

「分からないです。でも多分…死んだんじゃないかと」

A8プラントの現状を見ても…サジェスタは居ないであろうとグレイは予測した。自分を娘のように可愛がってくれた彼はもう居ない…グレイの顔から涙が溢れ出す。


「サジェスタさん……なんで私だけ置いて行っちゃうの…?私の頼れる人は貴方だけだったんだよ?どうして……」

「グレイ……」

マキはグレイに寄り添おうとしたが、今はそっとしておいた方がいいと考え、その場に寝転んだ。


数分後…グレイも落ち着いたのか、涙を見せなくなった。

「なぁグレイ、親は居ないのか?」

「9歳の時…居なくなりました」

淡々と答えるグレイ、この時マキは彼女は強いと思った。9歳から同居人と二人暮しとは言え、甘える対象も居ない中…ずっと生き続けてきたのだから……


「なら…うち来るか?『AFTアオフシュタンス』。少なくともアタシは歓迎するよ」

グレイはマキの手を掴み、頷く。

「お願いします……」

その手の温かさを感じたマキはグレイを抱き締める。


「大丈夫だ。アタシが居るから…」

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