「わたしという人間は」

日も暮れかける

と或る日

隣の家の婆さんが

慌てた様子でやってきた

父が玄関先で対応していたが

すぐに慌てた様子で出て行く

わたしはたいして気にとめなかった

しばらくすると救急車のサイレンが聴こえ

すぐそこで止まった

外が騒がしくなる

隣のまだ若い娘さんが

自分の部屋で

自ら命を絶っていたのだ

そんなにも

苦しんでいたとは

たった一人で思い詰めていたとは

すぐ隣で暮らしていながら

わたしはなにも知らなかった

知ったところで

なにができるかはわからないが

わたしは

知ることさえも

できなかった

幼い頃の

愛くるしい彼女の笑顔が

脳裏に浮かんだ

なにもできなかった

なにもしてやれなかった

わたしという人間は

いったいなんなのだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【詩集】回想(全33話) 久光 葉 @ys198104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ