「蜩の頃」

これはいつだろう

ふりしきるような

虫の声と

木々のそよめき

夕暮れの小道を

父と並んで歩いている

手に持った網が重くて

首から下げた虫カゴには

なにも入ってなくて

ふたりは黙ったまま

歩いている

どこかで夕餉の支度か

煮物の匂いと

潮風が混じりあう

そっと父を見やると

わたしの背は

父の腰のあたりで

大きい影と

小さい影が

伸びたり縮んだり

蜩の声に

耳を傾けながら

沈みゆく夕日を

見つめながら

ふたりはなにも語りはしない

まだわたしが

なにも知らなかった頃

とおい夏の終わりの

蜩の頃

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