【詩集】回想(全33話)

久光 葉

「写真」

一枚の写真がある

わたしの記憶が間違ってなければ

家族旅行の帰りに立ち寄った

神社の前で撮った一枚である

そこには父は写っていない

父が撮影したからである

何年前の頃であろうか

母もまだ若く

妹や弟たちも幼い

その写真をしばし眺めていた

ある違和感をおぼえた

ただの家族旅行の写真である

ふと気がついた

そこに写っている

誰一人として

笑っていないのである

無表情というのでもない

言葉では表現しようのない

なんとも複雑で

奇妙な表情をしている

家族旅行の写真である

父はこのとき

いったいなにをおもいながら

シャッターを押したのであろうか

今となっては

知るよしもないが

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