異世界コント③ 『ここは俺たちに任せて先に行け!』
戦士「勇者よ、ここは俺と女武闘家に任せて先に行け!」
勇者「しかし、戦士……」
戦士「なに怖い顔してんだよ。勇者のために道を作るのが俺達の役目だろう?」
武闘家「戦士の言う通りよ。私達のことなら心配しないで!」
勇者「……いや盛り上がってるとこ悪いんだけどさ。――今、目の前にいる敵って、スライムじゃん?」
戦士「え?」
勇者「え? じゃなくて、相手はザコじゃん?」
戦士「だから……すぐに倒して、俺達も後を追いかけるから……」
勇者「いや、だからそれって、魔王の前の幹部戦とかで使うセリフだろう。スライムくらいなら俺も手伝うし、どう考えても、そっちの方が絶対早いじゃん」
武闘家「でも――」
勇者「え、てかなに? つーか、もう聞いちゃうんだけど、戦士と武闘家って付き合ってんの?」
戦士「……」
武闘家「……」
勇者「ふたりして視線で示しあったあと、無言で顔を赤らめるのやめろ! 生々しいんだよ! なんでバレてないと思ってたんだよ!」
戦士「い、いや……。あの、いつから気付いてたんだ?」
勇者「ずっとだよ。お前ら、『俺達を追いて先に行け!』のくだり、最近、週三でやってるよな?」
戦士「確かにそうだったかもしれないけど……」
勇者「そしたら、いつも追いついてくるのに小一時間はかかってるよな?」
戦士「まあ、それくらいはかかってるような……」
勇者「なにやってるんだよ! スライム相手だよ? Sクラス冒険者のお前と武闘家がいて、小一時間もかかるってどういうことだよ!」
戦士「……」
武闘家「……」
勇者「だから無言で顔を赤らめるのやめろ! しかも、お前らいつも追いついてきた時、なんか体力消耗してるし、この前なんか、武闘家の服がボロボロに破れていただろう?」
戦士「い、いや、それは……」
勇者「だから、なにやってんだよ! なんで、今しがた魔王軍の幹部と激闘を繰り広げてきましたぁ、みたいなことになってるんだよ! マジでなにやってんだ! いい加減にしろ!」
戦士「ご、誤解だ! 俺達は別にそんな……」
勇者「俺の誤解だっていうなら、もう、このさい言わせてもらうけどさ。この前、お前らが追いついてきてすぐに、戦士の腕に擦り傷できてただろう。だから、俺が『怪我してるなら回復してやろうか』って言ったら、戦士は『自分でやるからいいわー』って言った後、小声で
『
って、回復魔法使ってたよな」
戦士「そんなこともあったな」
勇者「なに賢者のスキルにちょっと目覚めてんだよ!」
戦士「はぁ」
勇者「はぁ、じゃねえよ! お前、普段は魔法使えんのかよ?」
戦士「使えない」
勇者「じゃあ、あの時は?」
戦士「なんか使えた」
勇者「なんかじゃねえよ! 賢者だからだよ! どう考えても賢者の時間が訪れていたからだろーが!」
武闘家「そんな怒らなくていいじゃん。戦士も回復魔法使えるなら、いざっていう時に助かるんだから」
勇者「そんな『いざという時』は、ねーんだよ! あれか? 強敵と戦闘になって、回復薬もMPも使い切って、そのうえ体力が残りわずかになったら、わざわざ、お前らを戦闘から離脱させて、いちゃつかせんのか? いざ、が過ぎるだろ。お前らがお楽しみの間に、俺、あえなく死んどるわ! おお死んでしまうとは情けないって怒られても何ひとつ反論できないレベルで、情けない死を迎えとるわ!」
武闘家「はあ……。なんか、そこまでわかってるのにネチネチ聞いてくんの粘質でキツい」
勇者「おい、開き直って、俺が加害者みたいな雰囲気出してくる女子特有の攻撃魔法使うのやめろ!」
戦士「くっ、すまん勇者! 先に行けと行言っておきながら、大人の階段は俺が先に登っちまった!」
勇者「反省しながら上手いこと言ってくんな! おい、武闘家! へえー、勇者ってそうなんだぁみたいな顔すんな!」
武闘家「別に。てか、モンスターの前では、あんなに強気なのにね?」
勇者「それが悪口だと思ってるなら、どっかのヒモ男に世界救ってもらえや! あいつら、人のタンス勝手に調べて金を持ち出すけど、魔物倒しに行くわけじゃねーからな! 遊び人しかいない方の酒場行ってるだけだからな!」
戦士「それで俺たちはどうすればいい? やはり、もう別れた方がいいか?」
武闘家「ちょっと!」
勇者「いや……まあ、そこまで口出しするつもりはないよ。確かに、パーティー内での恋愛禁止って言ったの俺だけど、それはメンバー間がごたごたするのが嫌だったわけで。もう、そんな関係だって言うなら、今さらだもんな」
戦士「勇者……」
勇者「まあ冒険してると、なかなか二人きりになれる時間がないってのもわかるし、これからは俺も気を遣うようにするからさ。だから、ちゃんと節度を守ってくれさえすればそれでいいよ」
武闘家「ごめんね……」
勇者「いいよ。てか、折角だから、いつから付き合ってたのかとか聞いていい? 俺、ずっと一緒にいて、全然、気付かなかったからさ」
戦士「半年前かな。ほら、俺が怪我で死にかけた時、あっだろう?」
勇者「ああ、戦闘で大怪我したやつね」
戦士「その時に武闘家が、付きっきりで看病してくれて……」
勇者「なるほど、それで優しさに絆されてってやつか?」
戦士「優しさっていうか、大怪我だったから、これを使えって、勇者が貴重なエリクサーをくれただろう。そしたら武闘家がそのエリクサーを傷口に塗りながら、『エリクサーって、こんなヌルヌルしてるんだねー』って……」
勇者「おい、こら。待てや! なんで、いい話かと思ったら、いきなり猥談が始まってんだよ」
戦士「エリクサーって凄いな。傷に効くのはもちろん、中学生に戻ったかのような回復力だったぞ」
勇者「ふざけんな! 貴重な霊薬、そんなことに使うなや! 言っとくけど、その
戦士「武闘家と付き合い出したのは、それからかな」
勇者「よくこの流れで、そんな話を真顔でできたな。マジで、その心臓は勇者だわ。もう、これからはお前が勇者って名乗れよ」
戦士「いや、俺は勇者じゃない。戦士だ」
勇者「知ってるわ! 無骨な戦う漢の顔で決めたところで、もう手遅れだからな! 言っとくけど、お前の神経の太さが、そして伝説へのレベルだってことだよ! って、おい。ちょっと待て。あれは?」
魔王「ぐっはっはっはっは! 勇者よ! みつけたぞ!」
勇者「ま、まさかお前は魔王! どうしてここに!」
魔王「なにもお前が強く成長するのを待つ必要はない。今のうちに殺しにきてやったわ。これでも喰らえ!」
勇者「ぐわああああ」
戦士「ぎゃあああ」
武闘家「きゃあああ」
勇者「しまった。回復前だったから、MPがもうない。こうなったら、とっておきのエリクサーを使うしか……って、なんで空なんだよ!」
戦士「勇者、すまん! 俺だ!」
勇者「知ってた! 知ってたけど、言わせろ! やっぱり、お前か!」
魔王「なにをごちゃごちゃ言っておる。とどめだ!」
勇者「ぐわあああ。もう駄目だ。体力もあとわずかしかない。まさか、こんなところで全滅するなんて……」
武闘家「戦士、ちょっと来て」
戦士「こんな時に、なんだ?」
武闘家「(戦士の耳元で)ボソボソボソ」
戦士「うおおおおおぉぉおお!」
勇者「な、この魔力は!?」
戦士「最・大・回・復・魔・法!」
ピロリロリン!
勇者の体力が完全回復した。
戦士の体力が完全回復した。
武闘家の体力が完全回復した。
勇者「ま、まさか賢者に覚醒した。なぜだ。武闘家が戦士にどんなエロいことを言ったか知らないが、触れもせず言葉だけって、そんな思春期の中学生じゃあるまい……し……。そ、そうか! エリクサーかッ――!」
戦士「うおおおお! 超・極・大・究・極・攻・撃・魔・法!」
魔王「ぐわああぁああああぁぁぁあ! こんなところで! こんなところで私がぁあああぁああ……!」
勇者たちは魔王に勝利した。
戦士「ふう……」
勇者「……」
武闘家「ね、言った通り、いざって時に役に立ったでしょう?」
勇者「う、うん……。それは、そうなんだけど……。一言いい?」
戦士「ん、どうしたんだ、勇者?」
勇者「やっぱり、お前が勇者だわ」
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