真夜中のバス停
まる。
真夜中のバス停
ついこの間少し怖い夢を見た。場所はいつも使っているバス停。少し急なカーブを曲がった老人ホームの門の前。通勤・通学の時間帯には1時間に3,4本出ているが、朝の通勤・通学のラッシュが終わるとバスは1時間に1本しか来ない。東京の23区内でも頻繁にバスが来るわけではなく、時間を見図るか、バスに合わせて予定を組むのはちょっと悔しい。そんないつも使っているバス停まで私は終バスに乗って家に帰っていた。見慣れた町を走るバスには私一人を乗せ特に違和感もなく走っていた。ファミリー層や高齢者が主に暮らしている為、当然夜中に歩いている住人は誰一人もいないし、夜中に車やトラックも通らないこの道は、街頭が少なく冬の夕方には一足早く夜が近づく。最寄りのバス停に降りると、辺り一面真っ暗で思っていたより暖かい気温だった。周りを見渡して道路を横切ろうと足を一歩踏み出そうとした瞬間、少し背の高いベビーカーを押す女性がひそひそ声で話しかけてきた。「すいません。この病院に行きたいんですけど、入れますか」と。その一言で色々疑問に感じた。この時間帯に小さい子どもをベビーカーで連れてくることもおかしいし、なんせここは昔も今もずっと老人ホームだということ。昔は病院があったことを聞いたことがない私は、ここは老人ホームなので、入ることは難しいと言おうとしたが私は「今の時間帯に〝病院〟に入ることは無理だと思います。誰もいないと思うし、開けてくれないと思います」老人ホームと言いたいのに言えない。「どうしても入りたいんです」と切実に答える男性の声がして振り返ると、女性の隣にロングコートを着た男性が立っていた。さっきまでいなかった男性の顔と足元は周りが暗くてぼんやりとしか見えず、女性はそれに付け加えるかのようにベビーカーにいる子どもに話しかけるように覗き込みながら「前にここで子どもが大変お世話になって、どうしてもお礼を言いたい」2人とも一生懸命に言うが、子どもがベビーカーに乗っているとどうも思えない。薄いブランケットをかけているが立体感はなく、子どもの頭があるはずのベビーカーの奥は漆黒でまるで底がないダークホールみたいだった。困った私は〝病院〟の方面を向くと背後から車のエンジン音がした。振り返ると2つの明るいライトが私たちのほうに異常な速さで向かってくる。このままじゃ危ない、轢かれると家族に伝えようとした瞬間、男性が両腕で顔を必死に隠し苦し紛れの声で「眩しい、今すぐ消さないと顔が、俺が…!」と顔の一部がライトで白くそして水蒸気のように男性は姿を消した。立ちすくむ私に女性は薄笑いで「病院に先生に我が子を救っていただいたお礼をさせて」とさっきまで隣にいた男性のことなんて気にもせず、むしろさっきより明るい声のトーンと暗闇にうっすらと浮かぶ微笑みが不気味さを増していた。早くこの場から逃げないといけないように感じ、すいませんと謝って立ち去ろうと道路を渡った後、バスが来て女性は「楽しかった」と薄ら笑みでやけに色白い顔はモヤモヤとした暗闇に溶けていった。急に気温が下がり急いで家に帰った。バスの音もしない、ベビーカーもなくなっていた最後は気味悪さだけ残り耳元で「誰にも聞かれなくなかったんだ」と時間差で聞こえた私はまた深い眠りに落ちた。
真夜中のバス停 まる。 @tototo23
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