第33話 デッサン
梶原はキョトンとしている。ピンときていないのだろう。
梶原は、恐らく人の顔を覚えるのが苦手なんだろうな。だがまああれは仕方ないとも言える。5人組の中でも彼女は、息を殺すようにしてその場にいたから。目立たない人に目がいかないのは当然だ。俺も目立つところがなければ、存在を認識できなかったかもしれない。俺のときもそうだった。今日もそうだ。
「食堂だ。相川さんたちのグループに席を譲ったのを忘れたのか」
「嘘!?あのグループにいたの?」
やっばり気づいていなかったのか。
「この手の絆創膏は、食堂で会ったときも、保健室で会ったときもずっと会った。」
3人は、俺が何を言っているのかまるでわかっていない様子だ。まあそれもそうだろう。俺はまだ大事なことを言っていないんだから。
「この彼女の切り傷こそが、今回の事件の真相だ」
俺は相川さんの左手を持ち、示すように見せた。小指以外のすべての指に巻かれた絆創膏。そして手を離して、ポケットから1枚の紙を出した。
机に広げると3人は集まってきて、その紙に視線を持ってきた。
「これは?」
「美術部の募集チラシだ」
昨日、ななみという美術部員がくれたチラシ。
全員がこれがどうしたんだと言わんばかりにチラシを眺める。俺は覚えているあるフレーズを口にした。
「『美術部は文化祭にデッサンを展示します。そのために頑張っています』」
チラシの右下。活動目標一覧に書かれたものだ。
「それがどうかしたの?」
「大事なのはここだ」
俺は3人の輪に入って指を指す。
『デッサン?』
全くの同タイミングで3人は俺に振り向いた。
「前に何かで見たことがある。デッサンをする時には鉛筆削りの代わりにカッターナイフを使うそうだ」
何で見たかは覚えていないが印象的だったので覚えている。そしてその時俺が思っていたことは、今このようにして現実となったのだ。
「この手の切り傷は、カッターナイフのものだろう。昨日保健室で見た時の指の黒ずみも、鉛筆の芯が付着したものだ」
「あれは雑巾で掃除してた時についたって本人から言ってたじゃない」
「じゃあ言うが、掃除を雑巾でしたとして、その時に手が黒くなるのはまだ分かる。ただ雑巾を洗う時に一緒に手を洗わないのはおかしいだろう。一緒に洗ったのなら、雑巾の汚れと手の汚れは一緒に落ちるはずだし、汚れを落とそうと一緒に手を洗おうと思うはずだ。でも昨日の相川さんの手は黒く汚れていた。つまるところ掃除でついた汚れではなく、掃除の後、もっと言えば、直前についた傷ということになる」
「なんで私が美術部だとわかったの?」
「昨日美術部でお前の友達に会ったからな。ちょうど探しにいくところをだったらしい。部室にいたのは3人で俺が会った部員を加えると4人。食道で会っていたことも覚えていたし、5人組ということも覚えていた。となるとあと一人はもう君しかいない。そこですべてがつながった。相川さん。あなたは、美術部の部員から逃げてきていたんだな」
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