第23話 部の方針

 週をまたいだ月曜日、俺は珍しく連続で部活にでた。そして金曜日に梶原が言ってこなかった、今日は俺から招集をかけた理由を聞くつもりだ。適当に雑談をしていたらもう5時半になっていた。


「にしても、梶原君があそこまで怒るイメージなかったたなあ」


 椅子に思いっきり背を預けた伊沢は、腕を頭の後ろに持って行った。


 それは俺も意外だった。無邪気に笑う姿を何回も見ていた。だからあんなに声を上げて怒ることがあるのかと、興味すら湧いていた。


「まぁ、僕もあそこまで怒られたのは片手で数えるくらいしかなかったよ」


「テストが全然合格にならないからちょっとイライラしていただけさ」


 自業自得じゃねえか。俺は本を読みながらそんなことを思った。


「怒るといえば、俺つばちゃんが笑ったとこ見たことない!」


 俺に話が来るのかよ。俺はたまらず本を閉じた。人差し指に、紙を挟むと、重圧を感じる。


「確かに。いつも怒っとるイメージやわ」


「俺は怒ってないぞ」


「でも笑わないじゃない」

 

 ぐうの音もでない。周りから見たら俺はずっと怒っているように見えるというのか。笑っていない自覚はあるが、怒っている自覚もない。


「でも、怒ってるってようにも見えないよ。なんだろうね」


 苦笑いでごまかした千春だが、俺には十分励ましになった。ありがとう。しかしこれ以上この話をされるとあることないこと騒がれそうで面倒だ。ここは話を変えるとしよう。


「そう言えばお前、なんで俺らを集めたんだ」


 まぁ、お遊びだろうと思っている。ただ梶原は俺の言葉をトリガーに何かを思い出したようで「そうそう!危ない。言わずに帰ってしまうところだった」と、ポケットからスマホを取り出しながら軽快な口ぶりで言った。


 ほんとに何かあるのか。


「俺ね、こう見えて人を助けることが好きなんだ」


 人助け。じゃああの消しゴムの持ち主を探すのも、人助けが好きだという心の現れだったのだろうか。正義の心を持つというのはいいことだ。梶原の場合、それに加えて行動派という最高の性格を持っている。


「だから、ここの部活で色んな人の助けをしたいんだ」


 げ…俺も巻き込まれるやつかこれ。


「ええやん。人助けはいいことやし」


「でしょでしょ?だから、この学校のホームページを借りて、生徒や先生からお悩み相談を募集しようと思うんだ。何もしないよりはましだと思わない?」


 何もしないほうが俺はいいです。と手を挙げて言いたかったが、既に半数が賛成、千春も梶原の意見にはあまり逆らいそうにない。これで75%は、賛成。俺は、空気の読めないやつではないと自覚しているが、自分の意見もまた素直に言える。


「俺は却下だ」


「どないしてん」


「正義のヒーローじゃないんだ。俺は特段人助けに関して特別な感情はない」


「釣れないなあもう。大丈夫さ、どんな相談が来てもいいように相談箱の名前も決めてあるんだ」


 何が大丈夫なんだ、なにが。


「名前って、普通にお悩み相談箱とかでいいんじゃない?」


「それは寄せ書きさ。本題は『何でも屋さん』さ」


 何だそれ。余計来ないだろ。そんな名前。


「いたずらが来て潰れる未来が見えるぞ」


「つーばーちゃーん。夢も希望もないことを言わないで」


 梶原が少しお怒りのようだ。怒らせても面倒だ。素直に聞くことにしよう。


「それで、何をするっていうんだ」


「ここに悩みや相談が来るでしょ?それでここに来てもらって、実際に詳しく聞く。そこから解決するんだ」


「でもえらい難しいのとか来たらどうするんや。解決できんかったーなんてなったら、相談来やんなるんとちゃう?」


 それはそれで助かる。


「大丈夫。ちゃんと秘密兵器もある」


 秘密兵器。ほお。それは少し気になる。なんだ、こいつなりに色々考えてきているのか。


「この3週間で難事件を解決してきた名探偵!楠木燕くんさ!」


「俺かよ」


 ただ2つだけだぞ。それも難がつくほどの事件でもない。


 正面にいる梶原を見るが、にやりと笑うだけだった。こいつ一生笑えない顔にしてやりたい。


「湯浅先生にも許可をもらってるんだ。数日もすれば、ホームページにそれが載るはずだよ」


「おい待て、勝手に話を勧めるな。俺はやるとも言って

てない」


「でももう3対1だよ」


 3人の顔を見る。頷いたり笑ったりしている。はァ…こうなっては断りきれんか。


「……わかった。協力はする」


「よっし決まりー!これで『何でも屋さん』結束だね!」


 両拳を高々と突き上げた梶原。その時だった。


「キャーー!!!!」

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