第21話 不正解

2年生は6クラスある。3年生は5クラスだ。2年生以上の技術選択者は、実習がメインになるとオリエンテーションで言っていたのを思い出したのだ。2年生がふたクラスずつ3時間、三年生が2.2.1に別れて3時間授業があったのだろう。


「偶然とは思えない、意図的に組まれている時間割だ」


「でもなんでや」


「2、3年生の技術選択者は恐らく、ここの技術室で実習をしたんだ。先生も1日で全クラスの実習指導ができるなら好都合だろう。そして1から6時間目で、2、3年生の全クラスが1時間ずつ実習を受けていた。技術の実習と言えば……」


「木材加工?」


「その通り。先生は6時間目が終わって一休みをしていた。しかし気づいた。実習で使ったこの教室と廊下は木の粉で充満している。掃除をしなければ…と。そして窓と扉を開け、換気をして床を掃き始めた。俺が入った時に鍵が開いていたのはそのせいだろう。そして千春たちが入ってきた時には、廊下の掃き掃除は終わっていた。だからふたりは埃っぽさを感じなかったんだ。しかし換気の窓は空いていたからいつもふたりが感じている異質な雰囲気は窓の外へと逃げていった。そしてふたりが上がってくるのと入れ違いで技術科の先生は掃除を終えた。作業をしていたら、入ってくる生徒に気づかなくてもおかしくはない。ましてや科学技術部だ。部員が入ったことを知らされてなくても不思議じゃない。すべてを終えた先生は技術室と窓を閉め、技術棟の鍵も閉めた。俺達が中にいることも知らずに。千春が聞いていたのは恐らくその音だろう」


 ふたりが入ってきて話している際に、千春は1人だけ何か聞こえると言っていた。俺と伊沢は聞こえていなかったから、幻聴だと結論を縛っていて特に気にしなかったが、今となってはそういうことだ。時刻的にも間違いない。


「いやぁ、ホンマにすごいなあ楠木君。梶原君がいよった、日常の違和感ってこういうことなんか」  


 まぁ…今回ばかりは否定できん。俺はそっぽを向きながらそんなことを思った。ちらりと目を目で梶原を見る。


 納得した2人と裏腹に、梶原は眉をしかめていた。手を顎に当て、時折腕を組んだり。


「なんだ。納得いかないのか」


 梶原は、申し訳無さそうに口にした。それは、オレが思っても見なかったことだ。


「ごめんつばちゃん。今回は俺、あの先生が犯人じゃないと思う。っていうか絶対違うんだ」


 絶句した。俺は言葉がでなかった。何が違うのかさえ、わからなかった。何も違わないはずだ。完璧な考察のはずだったろうに。


「どういうことだ」


「だって俺、ここに来る途中で技術の先生とすれ違って挨拶もしてるんだもん」

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