彷徨うユウレイ
第17話 模擬実験
科学技術部としての活動が始まった。かと言ってこれと言って何かをすることもない。一応入部届を出して、廃部は逃れたわけだ。しかしこの技術棟はやたら広いな。三階建ての校舎。外見の綺麗さの代わりに中身はなぜだか少し古く感じる。木造ということもきになる。他の校舎は全て鉄筋で作られているのに。歩くと一般棟とは違う音が聞こえてくる。一階は技術室があるそうだ。1年時の必修科目で、2、3年生は選択らしいが、まだその話は担任から来ていない。2階も名もなき教室が多く、3階にあがると1つだけネームプレートがある教室がある。それは一番奥にある「科学技術部」と書かれた教室だ。扉は一般棟と変わらず引き戸だ。中には黒板や何が入っているのかわからない書庫が2つや3つ。カードゲーム置き場もあり、その中にはトランプが入っているくらいだ。教室の中央に鎮座する木製テーブルは椅子が4から6脚は入ろうかという大きさ。俺達4人が座っても、全然窮屈な感覚はないだろう。教室にある窓からは運動場が一望できる。
埃の充満がひどく、初日は全員で軽く掃き掃除をしたのみだった。そしてある程度きれいにした棟で部活は行われているらしい。なぜらしいかと言うと、俺は初日の掃除以来部活にはでていないのだ。もう2週間は出ていないだろうな。特段理由があるわけではない。単純に面倒だったからだ。
しかし今日はそういうわけにはいかないらしい。部長を務める梶原から招集命令がかかったのだ。招集命令とかいう格好つけたことを梶原は言ったが、単に部活にみんなで出ようと言うだけのことではないかと思っている。休日も家にいて、クラスもみんなと違う俺だ。もう2週間話していないかと言われるとそういうわけでもなく、2日か3日に1回、4人で、ご飯を食べていたのだ。普通に仲良くもなってきているんだろうなという実感はある。
そしていつの間にか交換していたラインで作られていた科学技術部というグループ。帰りのショートホームルームが終わってスマホを見ると梶原からラインが来ていた。
『ごめん!ちょっと遅れる!』
俺は既読をつけるだけして、職員室に鍵を取りに行った。
科学技術部では、技術棟と科学技術の部室の鍵の2つを借りる必要がある。それは初日に湯浅先生が教えてくれたこと。部室の鍵には、他の鍵もついている。教師いわく、技術棟の二階の教室に使えるらしい。
帰る生徒との交差をなんとかくぐり抜け技術棟の鍵を開けた。開いた窓の外から聞こえる生徒の声で、特段異様な雰囲気は感じなかった。いつも3人からはあの静かで異質な雰囲気というのが好きなのだと言われていて期待していたのだが。期待外れだ。それに、ほこりっぽい。入って息を吸い込むと少し咳き込んでしまった。この前掃除したはずだぞ。
閉め忘れているのだろうか、すぐ横にある教室の扉は開いている。授業が終わって鍵を閉め忘れたのか。まぁ、どこの誰が先生だとかは知らんが。
技術棟と部室の鍵を持っているのは俺なので、当然一番乗り。部室に入り、奴らが来るのを待つ。誰もいない技術棟。人が少ないに越したことはない。
久しぶりに来たが、なんだかまたきれいになったようだ。少し古臭い部室だが、居心地も悪くない。教室の人混みよりも全然良い。
この教室は突き当りに存在する。だから出入り口は1つしかない。入口からは教室の後ろが見える。というような構造だ。まぁ、実験するにはなんら支障もない。
教室にある机を一つ、入り口付近まで運び、自分の鞄からノートとペンと、消しゴムを取り出す。あの試験の日とできるだけ同じような距離で机の位置を調節する。
机もちょうど教室で使っているのと同じものがあった。別に机はこれじゃなくても良いかもしれないが、対照実験だ。なるべく状況は均一にしたい。幸い、伊沢の消しゴムと俺のものは同じだから心配ない。
まずはノートを開く。伊沢がどこに消しゴムを置いていたか知らないから、何通りか試さなければならん。
①消しゴムが左下に置かれていた場合。ここから落としても、反対に等しい教室の外に転がっていくことはないだろうな。
②左上から落とした場合。消しゴムが角度よく転がれば、もしかすれば、とも思ったが、実際そんな事はなかった。
③右下から落とす場合。この場合、すぐ横か下かのどっちかからしか落ちない。故にドア外へと向かうのは厳しいだろう。
④右上から落とす場合。俺の思う本命はここだったから、最後に取っておいた。
だが、その肝心な実験をしようとしたら、外からの声で気が散ってしまった。その声は千春と伊沢だった。伊沢に見られるのはなんとなくだがまずいような気がしたので、俺は机を急いで戻して、真ん中の大机に付属しているようにある椅子に戻った。
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