第37話 土山久雄の新しい道
土山久雄は優秀な霊能力者である。
自分が他人とは違う特別な存在だと気が付いたのは彼が幼稚園に入って集団で生活を始めた時だった。
自分の隣にいつもいる女性の存在に誰一人として気付いていなかったという事に初めて気が付いたことで、この世の中には自分にしか見えない存在というモノを認識することが出来るようになったのだ。
両親も親戚も含めて彼の血縁者で霊能力を身につけている者は誰一人いなかったこともあって彼は自分の隣にいるだけで何もしてこない誰にも存在を認識されていない女性をどう扱えばいいのか悩んでいたのだが、そんな彼に進むべき道を示してくれたのはテレビで活躍していた栗宮院午彪であった。
自分と同じ能力を持っている栗宮院午彪の存在は土山久雄にとって両親よりも頼れる人物だと確信を持っていたけれど、栗宮院午彪本人に会うことは出来ずにいたのだ。中学を卒業して高校に入学するまではテレビと本の知識だけで自分の能力を向上させていた土山久雄も成長の限界を迎えていた。
友達も出来ず話し相手と言えばペットの犬と時々見かける正体不明の幽霊だけであった。人間と話す時間はほとんど皆無と言っていいほどで、たまに授業中に答えるくらいで学校で誰かと話をしている姿をクラスメイトも見ていない状態であった。
誰とも話すことのない土山久雄ではあったが、幽霊の力を使って堂々とカンニングを行うことで成績自体は良かったようだ。誰とも話さ無いのにもかかわらず成績はトップクラスという事で一部女子生徒からは孤高の天才と呼ばれてひそかに思いを寄せられていたようである。
そんな土山久雄も高校に入学してから出会った中田博臣によって全てが狂ってしまったのだ。
はじめのうちは土山久雄に憑いている幽霊の力によって中田博臣に遭遇することを上手く避けることも出来ていたのだが、いつの間にか自分のそばにいたはずの幽霊がいなくなっていて中田博臣に遭遇することが多くなってしまった。
中田博臣自身には霊感は全くなく幽霊という存在を完全に信じていない状態であるにもかかわらず、彼に憑いている幽霊はまるで死神ではないかと思ってしまう程土山久雄に恐怖感を与えていたのである。のちに、土山久雄についていた幽霊を食べてしまったのは中田博臣に憑いている幽霊であったという事を知るのだった。
「お前には俺には見えないものが見えているという事だが、俺は自分がこの目で見ることが出来ないものは信じたりしない。でもな、お前がその力を俺のために使うというのであればお前の事は信じてやる。お前はその力を使って俺のために金や女を用意しろ」
誰よりも強く誰よりも残酷で誰よりも執着心が強い中田博臣は土山久雄の事は他の手下どもと同じように扱っていたのだけれど、幽霊を上手く利用して金儲けをしたり情報を手に入れたりしていたのだ。
幽霊を上手く使う事で相手の秘密なんていくらでも手に入るし、証拠が残らないように相手を消すことも簡単に出来たのだ。
中田博臣を恐れいているのは敵対している者だけではなく味方にもそれなりにいるのだが、中にはそんな恐ろしい中田についていくことが出来ずに逃げてしまう者もいたのだ。そんな逃亡者を執念深い中田が見逃すはずはなく、どんなに忙しい状況だったとして裏切り者を探すことを最優先にしているのだ。もちろん、逃げている方も必死なので痕跡を残さないようにしているので簡単には見つからないのだけれど、土山久雄は幽霊のネットワークを利用していとも簡単に見つけてしまうのだ。逃げようとした者の中には霊能力者も数名いたのだけれど、中途半端な力を持っていることで簡単に居場所が割れてしまうという悲しい結末が待っているだけであった。
土山久雄が高校を卒業するころになると中田博臣からの信頼されるようになっていて、彼の背後にいる死神のような幽霊も土山久雄に憑いている幽霊を襲うことはなくなっていた。
「お前が他のやつよりも使えるという事はわかった。今後もその力を俺のために使え」
事あるごとにそう言われていた土山久雄も本心では遠くへ逃げて自由になりたいという思いもあったのだが、そのようなことを考えているとその晩必ず中田博臣に憑いている死神のような幽霊に襲われる夢を見るようになってしまっていた。
中田博臣のもとから逃げ出すことなんて不可能だと思って諦めてかなりの時間が経っていた時、中田博臣についていた幽霊が今にも消滅してしまいそうなくらい弱々しい姿になっていたのだ。
何が起こったのか理解出来なかった土山久雄ではあったが、中田博臣が乗ってきた車を見てその理由を理解してしまったのだ。中田博臣の車についていた幽霊はあの死神のような幽霊を圧倒的な力でねじ伏せており、土山久雄が見ていることを確認してから死神のような幽霊を飲み込んでしまったのだ。
幽霊を全く信じていない中田博臣に何の変化もないのだが、あの恐怖を感じさせてきた幽霊がいなくなったことで自由になれると思った土山久雄は今まで聞いたことも無いような恐ろしい声で零楼館に行くように命令されたのだ。
その声に逆らうことが出来ない土山久雄は炎天下の中ふらふらになりながらもなんとか零楼館の前までたどり着いたのであった。
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