第26話 うまなちゃんがちょっと危険かも

 青木グループとうまなちゃんが遊ぶことは悪いことではないと思うんだけど、やっぱり青木グループと関わっている男子の存在が気になってしまった。

 イザーちゃんがついているから何かあっても平気だとは思うんだけど、できることならばそう言った場面に遭遇しないのが一番だと思う。危険な目に合わないように行動するのが一番いいんだけど、青木グループと友達付き合いをするのであれば避けられない話題だろう。

「イザーちゃんはうまなちゃんがピンチの時は私か茜ちゃんに連絡すると思うんだけど、二人とも近くにいるとは限らないんだよね。午彪さんと奈緒美さんも近くにいられることはないと思うし、どうにかして助ける方法とかないかな」

「私で良かったらですけど、放課後とか休みの日にうまなちゃんが行く場所の近くに待機しておきますよ。ほら、私って愛華さんと違って普通の高校生だから自由がきくんですよ。ただ、自転車で行ける距離じゃないとちょっと辛いかな」

「私も出来るだけうまなちゃんの近くにいようとは思うんだけど、どうしても外せない仕事ってのもあるからね。うまなちゃんの霊能力を覚醒させるために多少は怖い目に遭ってもらう必要もあるんだけど、多少であって本当に怖いことを体験してもらう必要なんてないんだよ。私も茜ちゃんもどれくらいで霊能力が身につくかってのがわからないからな。うまなちゃんの場合は後天的に力を手に入れるのとも違うから千秋ちゃんで実験するのも意味ないんだよね」

「ちょっと待ってください。千秋にはそういうの無しでお願いします。あの子はあんまり怖いの得意じゃないんです」

「ごめんごめん。冗談だから。私だって幽霊が見えない人に余計なことをして見えるようにしたいなんて思ってないからね」


 愛華ちゃんに悪気はなかったんだろう。きっとうまなちゃんの事を大切に考えているかあんな冗談を言ったんだ。うまなちゃんを助けるために何でもする。そんな思いから出た冗談だったんだと私は理解している。でも、うまなちゃんを助けるために、うまなちゃんを守るために、私の大切な友達である千秋を巻き込んでほしくないとも思ってしまった。

 千秋と私は小さい時からずっと一緒に過ごしてきた。どんな時も遊ぶときは一緒だったし、病気になったときもお互いに近くで支えあってきた。私は千秋がいれば他に友達なんていらないと思っている。千秋だけがかけがえのない大切な人なのだ。

 もちろん、うまなちゃんの事も大切だとは思っているけれど、千秋とうまなちゃんのどちらかだけしか助けられないという状況になったとしたら、私は間違いなく千秋を助けるだろう。どちらも大切な友達だという事には変わりないのだが、うまなちゃんは私が助けなくても他に助けてくれる人がたくさんついている。そんな風に考えてしまっていたことがあったんだと思う。

「あんたさ、モデルの仕事っていつまで続けるの?」

「いつまでって言われても写真はもう撮ってないからモデルの仕事って感じじゃないんだよね」

「それならなんで零楼館に何回も行ってるのよ」

 学校が終わってから私は零楼館に足を運ぶことが増えていた。うまなちゃんに関する話を愛華ちゃんやイザーちゃんから聞くためだった。うまなちゃんと直接会うことはなかったけれど、それでも愛華ちゃんやイザーちゃんから色々と話を聞くことは私にとっても意味のあることに思えた。私の知らないところでうまなちゃんがどんなことをしているのか、青木グループがどんな人たちと関わっているのか気になっていたんだと思う。

「もしかして、どこかの事務所からスカウトされて本格的にモデルデビューするつもりなんじゃないでしょうね?」

「そんなんないって。私がモデルになるわけないじゃん。私よりも青木とかの方がモデルっぽいでしょ」

「確かにね。でも、なんで青木さんが出てくるのよ。もしかして、うまなちゃんがあんたよりも青木さんと遊んでるって事に嫉妬してたりするの?」

「そういうつもりじゃないけど」

「あんたが何をしてても別にいいんだけど、もう少し私と一緒にいてくれてもいいんじゃないかな。ほら、あんたがポスターのモデルになってから一緒に帰ることも減ったでしょ」

「そうかもしれないけど、千秋も一緒に零楼館にきても良いって愛華ちゃんも行ってるし」

「行ってもいいってだけで私が何か出来ることなんて無いんだよ。私が行っても二人で何かコソコソしてるし、それだったら行かない方が良いんじゃないかなって思うんだ。あんたたちが何をしているのかわからないけど、私に隠したいことがあるんだったら私が一緒にいない方が良いんじゃないかなって思ってるだけだよ」

「別に隠し事なんてしてないけど」

「そんな嘘言ったってバレバレだよ。ほら、私とあんたって昨日今日の付き合いじゃないんだからね。あんたって昔から私の知らないところで色々と頑張ってきてたでしょ。勉強だって苦手なのに私と一緒の高校に入るために努力したのも知ってるんだからね。他にも何か色々としてたみたいだけど、私に知られたくないって必死になって隠してたことあるでしょ。でも、あんたが私に隠していることがあるのと一緒で、私もあんたに隠してることくらいあるんだからね」

「隠し事なんて別にしてないけど。千秋は私に何を隠しているんだよ?」

「隠し事なんだから言うはずないでしょ。あんたが私と遊んでくれないんだったら、あんたじゃない誰かと遊んじゃうって事かもね。私って結構モテるみたいだし、あんたが遊んでくれなくても遊んでくれる男の子がいるのかもしれないよ」

 その冗談は冗談に聞こえなかった。もしかしたら、千秋は私の知らないところで本当に誰か他の男と遊んでいるのかもしれない。それが嘘だとわかっていても、そんな風に考えているんだという事が私は受け入れられなかった。

「え、そんな真剣に受け取らないでよ。冗談だって冗談。泣きそうな顔するのやめてって」

「ごめん」

「気にしなくていいって。あんたが何をしているのか知らないけど、私はあんたが一生懸命に頑張ってることは応援するからさ。ただ、もう少し一緒にいたいなって思ってるだけだから」

 私の中にあるうまなちゃんを守りたいという気持ちは本物だと思う。

 でも、それ以上に千秋を悲しませたくないという気持ちの方が強い。

 私が守らなくてもうまなちゃんには味方がいっぱいいる。そんな風に思ってしまっていたのだ。

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