第25話 零楼館での出来事

 田舎から出てきた純粋な少年が悪い美人に騙されるという話はよく聞いていたけれど、自分がその似たような体験をするとは思わなかった。

 それも、その悪い美人の協力をしているのが私の友達だというのはたちが悪い話だと思う。二人ともノリノリなのが何とも言えず腹立たしい。


 学校にいる時も守護霊のイザーちゃんと話が出来るようになったのは良いことなんだけど、イザーちゃんが周囲に対する警戒を解いたことでみんなもうまなちゃんとの間に出来ていた壁が無くなったことに気付いたのはちょっとだけ誤算だった。

 うまなちゃんに友達が出来ることは良いことだと思うんだけど、青木グループと仲良くするのはあまりいいことではないと個人的に思ってしまっている。真面目そうに見える彼女たちのあまり良くない噂を聞いていたし、彼女たちが付き合っている男たちも不良に近い感じなのでうまなちゃんと関わってほしくないと思うんだけど、そんな事を今の私がうまなちゃんに言うことなんて出来やしない。

 守護霊のイザーちゃんにその事を伝えてもどうすることも出来ないみたいだし、私の思い過ごしだと諦めるしかないのかもしれない。そう思っていた時にうまなちゃんがアルバイトをしている写真館のお姉さんと話が出来ることになったのだ。

 お姉さんとイザーちゃんが話し合った結果、私の話を詳しく聞いてみたいという事になったそうなのだ。断る理由もない私は話をしに行くことになったのだが、どういうわけなのか千秋も一緒に行くという事になって三人で会うことになったのだった。


「あんたがモデルになるなんて凄い時代になったわよね。田舎の小娘みたいなあんたをモデルにポスターを作りたいなんて私は驚いたよ」

「そんなこと言うんだったら千秋がモデルになればいいだろ。私よりスタイルは良いんだから写真写りは良さそうだし」

「ちょっと、それって微妙に褒められてないような気がするんですけど」

 私は写真館のお姉さんに青木グループの話をするだけだと思っていたんだけど、いつの間にかお姉さんと千秋の間で私がモデルになってポスター用の写真を撮る話になっていたのだ。私がモデルになるなんて誰も信じていなかったし両親にも笑われたりしたんだけど、千秋だけは凄く喜んでくれて嬉しかった。

 喜んでくれた理由が私の事を好きなようにいじれるからだと知ったときには喜びも悲しみに変わってしまったけれど、友達が喜んでくれるのならそれでもいいかと思えてしまった。

「浴衣にバスケのユニフォームにテニスウエアにワンピースもいいわね。あんた無駄にかわいいんだからなに着ても似合うと思う。たぶんだけど、コスプレ用の衣装なんかもあると思うから普段着ることが出来ない服もいっぱい着れるといいね。最終的には胸を腕で隠してパンツ一枚って写真も撮らないとダメよね」

「なんでだよ。さすがに裸の写真はダメだろ。そんなもん撮らなくたって一緒に銭湯とか行ってるんだから裸くらい見慣れてるくせに」

「違うのよ。全然違うのよ。あんたは本当に何もわかってないわ。普段の気の抜けた感じの裸じゃなくて、プロが撮影した綺麗なあんたの裸を見て見たいのよ。その気持ちわかるでしょ?」

「いや、全然わからない。千秋ってそんな感じだったっけ?」


 フォトスタジオ零楼館は小さいときに家族写真を撮りに来た記憶がある。あの時も言われるがままに色々な服を着ていたと思うんだけど、今回もそんな感じで言われるがままに色々な衣装を着させられるんだろうな。

 私が持っている服はほとんど千秋に選んでもらっている。ママが千秋の選ぶ服を気に入っていることもあって買い物に行くときは何故か私ではなく千秋を誘うようになっていた。当然のようについてくる千秋もどうかと思うのだけど、それを受け入れている私も案外お人よしなのかもしれない。

「よく来てくれたね。そんなに時間は取らせないと思うから緊張せずに気楽に過ごしてくれていいからね。モデルって言っても町内会で使うようなものだからそこまで気を張らなくてもいいんだからね」

「今日は私もお手伝いさせていただきますね。多分、この子に似合う服をこの世界で一番わかっているのが私だと思うんで安心してください」

「それは頼もしいな。じゃあ、スタジオの横にある衣装室から似合いそうな服を選んできてもらってもいいかな?」

「勝手に入っちゃってもいいんですか?」

「大丈夫だよ。衣装室には高田さんがいるから困ったことがあったら何でも彼女に聞いてくれていいからね」

 千秋は一礼した後に小走りで衣装室へと消えていった。姿が見えなくなったと同時に甲高い声で驚いているのが聞こえてきた。何か嬉しいことがあったんだとすぐにわかるのが千秋の良いところだと思う。

「モデルの仕事は後でお願いするとして、あの子に衣装を選んでもらっている間にうまなちゃんのお友達の話を聞かせてもらってもいいかな。イザーちゃんからも軽く聞いてはいるんだけど、イザーちゃんでは気付けない何か裏がうまなちゃんのお友達にあるって事だよね。それって、どんなことなのかな?」

「私のいとこの友達の話なんですけど、その友達が女性問題を起こして逮捕されたんです。それで、その逮捕された人と弟が青木グループと付き合ってる人達の先輩らしくて、何かつながりがあるんじゃないかって思ってるんです。私の思い過ごしかもしれないですけど、栗宮院うまなさんがそんな人たちと関わってほしくないって思ってるんですよ。友達が付き合っている人の先輩なんて遠い関係だって思うかもしれないですけど、不良の人達って先輩のいう事には逆らえないって言うし、栗宮院うまなさんに何かあったら嫌だなって思ってるんです。その人たちに命令されておじさんたちとイケないことをしてるって噂もあるんです」

「なるほどね。そういう風に心配してもらってうまなちゃんは幸せだね。うん、茜ちゃんの心配事が杞憂に終わるって約束するよ。何もないように私たちも努力するからね」

 何の根拠もない私の話を信じてくれたのは表情から読み取ることが出来た。

 それと同時に、お姉さんが私にしてくれた約束も何の根拠も説得力も無いのだけれど、不思議と私はその言葉を信じてしまっていた。

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