第14話 変わらない日常と小さな変化

 週末に遊べたのはあの一回だけだった。たった一回だったけど私にとっても楽しくかけがえのない時間に感じていた。アルバイトなんてしないでみんなと遊びたいと思ってしまう事もあったのは事実だけど、愛華ちゃんと一緒に写真を撮りに行くのも愛華ちゃんが撮った写真を二人で選んでいるのも楽しかった。青木さんたちと遊ぶのも楽しかったけれど、愛華ちゃんと一緒に過ごす時間も私にとっては楽しい時間であるのは間違いなかった。

「最近のうまなちゃんってなんだか毎日楽しそうだよね。最近できた友達と仲良くしてるって事なんだね」

「そうかも。青木さんたちは私の知らないことをいろいろと教えてくれるから楽しいよ。みんな優しいし。愛華ちゃんとこうして一緒に働いてるのも楽しいけどね」

「私もうまなちゃんと一緒に働くのが楽しいよ。世代が違うのに好きなモノも一緒だしね」

「それって、愛華ちゃんが若いからだよ。愛華ちゃんと話してる時も青木さんたちと話をしている時もそんなに変わらないって思っちゃうからね。お客さんと話をするときも愛華ちゃんは見た目だけじゃなくて中身も若いってよく言われてるよ」

「それは嬉しいんだけどさ、ちょっと複雑かも。子供っぽいって事を言われてるように感じちゃうかな」

 写真を選びながらそんな事を話すのが日課になっていたと思う。平日は時間もあまりないので撮影に付き合う事もほとんどないので仕方ないと思うんだけど、こんな風に写真を選んでるだけでいいのかなって思う事もあるんだよね。働いているというより、お友達と写真を選んでるだけって気がしてしまうのが申し訳ない気持ちになっちゃうんだ。

「真名先輩も言ってたんだけど、うまなちゃんがうちで働いてくれるようになってからお客さんが増えたんだよ。うまなちゃん目当てに写真を撮りに来る人がいるってわけじゃないけどさ、うまなちゃんがいることで写真を撮りに来たって人もいるんじゃないかな。ほら、うまなちゃんのクラスメイトの茜ちゃんとかがそうだと思うよ」

「稲垣さんってアレからも撮りに来てるの?」

「時々ね。ポスターの写真も決まったことで他にも決めなきゃいけないこともあったりするんだよ。そのついでに何枚か撮らせてもらったり、学校の話を聞いてみたりしてるんだ。でも、うまなちゃんが学校でどんな感じなのかは教えてくれないんだよね。うまなちゃんが色々とお友達の事を教えてくれるのとは違ってさ、茜ちゃんってあんまり学校での出来事を教えてくれないんだ」

「私も人の事えないけど、稲垣さんって坂井さん以外の人と話したりしているところを見たことないかも。先生とは時々話をしているのを見るくらいで、他のクラスにも友達とかいないんじゃないかな。私が青木さんと仲良くなる前だったらお互いに友達少ないって思ってたかもしれないね」

「茜ちゃんは今どきにしては優しくて思いやりもあると思うから友達になったら楽しそうだけどな。うまなちゃんも時々茜ちゃんとお話ししたりしてるんでしょ?」

「うん、ここに来る前にちょっとだけお話しすることはあるよ。でも、普通の日常会話くらいしかしてないような気がするんだ。あ、モデルの話はしたことあるんだけど、その時の稲垣さんってちょっと照れてたような気がしたかも。坂井さんはノリノリで稲垣さんがモデルになった話とか選んだ服とか教えてくれたんだ。写真を見たんでどんな服かわかって私も一緒に盛り上がっちゃったんだけど、その時の稲垣さんはずっと無言だったかも」

 普段は稲垣さんとしかほとんど話してなかったのにモデルの話になった瞬間に坂井さんがノリノリで話してくれたのは少し驚いた。いつもクールで口数が少ない坂井さんしか知らなかったのでびっくりしちゃったけど、それだけ稲垣さんの事を考えているって事なのかもね。坂井さんと二人っきりになったら稲垣さんの事を話すだけで朝まで過ごせるんじゃないかって思えるくらいに情熱的だった。

「確かに、千秋ちゃんって茜ちゃんの事になると熱くなる感じかも。モデルの写真を撮る時も茜ちゃんに似合う服がどれだろうって真剣に選んでくれたからね。その甲斐もあって、すごくすごいいい写真が撮れたんだって思うよ。茜ちゃんの素材が良くて私の腕もあって素材を引き出す千秋ちゃんのセンスも合わさって素敵な写真が撮れたって事だからね。でも、一番重要なのはうまなちゃんが私と茜ちゃんたちを引き寄せてくれたって事なんだよ」

「え、私は何もしてないと思うんだけど。愛華ちゃんが稲垣さんたちに出会ったのって私は関係ないと思うな」

「そんなことないよ。私がうまなちゃんと出会ったことで茜ちゃんたちと出会うきっかけが出来たんだと思うし。茜ちゃんたちと出会うきっかけになったのだって、うまなちゃんに似合いそうなものが無いかって探しに行ったからだからね。今うまなちゃんが使ってるマグカップを買う前に茜ちゃんたちに出会ったんだよ」

「そんな偶然もあるんだね。そう言われると、私がここに来なかったら愛華ちゃんが稲垣さんたちに会わなかった可能性もあるんだ。そう考えると、偶然って凄いことかもね」

「出会いは大切だからね。うまなちゃんももう少しお友達と遊びたいみたいだよね。働く時間を半分に出来ないか相談してみようか。そうしたら、せっかくできたお友達と遊ぶことが出来るかもよ」


 毎週土曜日は夜まで働くのではなく、撮影の手伝いが終わる夕方には帰ることが出来るようになった。

 青木さんたちと遊べる時間が増えていったことにはなるのだけど、青木さんたちが私と遊んでくれるのかという不安は少しだけあった。

 週末は忙しそうな青木さんたちの時間を私のために使ってくれるのかなって、少しだけ不安に感じていたのだ。

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