第13話 青木さんとお友達

 週末はいつも零楼館でアルバイトをしている私なんだけど、今週は愛華ちゃんが京都方面で撮影をするという事で急遽休みになってしまった。

 突然の休みでも私は特にやることも無いので家でゆっくりライブ映像を見ていようかなと思っていたところ、青木さんたちが私を遊びに誘ってくれることになった。友達と遊ぶのは初めてなので何をしたらいいのか悩んだ結果、愛華ちゃんたちに遊びに行くときに服を選んでもらうことにした。

「うまなちゃんは何を着ても似合うから選び甲斐があるね。そのまま一枚撮らせてもらってもいいかな?

「写真は嫌です。服を選んでもらったのは嬉しいけど、写真は絶対に嫌だよ」


 待ち合わせの時間までまだ余裕はあったと思うんだけど、待ち合わせ場所に一番最後についたのは私だった。予定よりも早めについたのにみんながもう待っている事に驚いていたんだけど、それは青木さんたちも同じみたいだった。

「あれ、栗宮院さん早いね。約束の時間までまだ三十分くらいあるよ」

「青木さんたちも早いじゃない。ずっと待ってたの?」

「家にいてもやることないからさ、いつもこんな感じで約束の時間前に集まってるかも。あ、でも、栗宮院さんは時間通りにきてくれてもよかったんだよ」

 青木さんたち三人は中学校も一緒だったこともあって付き合いが私よりもずっと長い。今までの積み重ねられた時間と経験があるので私は少し疎外感があったのだけれど、青木さんたちは私に対しても昔からの知り合いかのように接してくれていた。それなのに、待ち合わせの時間が私だけ遅く伝えられていたみたいでちょっとだけショックだった。

「ご飯にはちょっと早いと思うんだけど、栗宮院さんは何かやりたいこととかあるかな?」

「特にないかも。私は友達とこうして休みの日に遊んだことが無いんでよくわからないんだよね」

「そうなんだ。初めて遊ぶ友達が私達でいいのかな?」

「うん、全然いいよ。こっちからお願いしたいなってずっと思ってたからね。学校でも話しかけてくれるし、すごく嬉しいんだよ」

「それなら良かった。でもさ、稲垣さんたちと遊ばなくていいの?」

「え、どうして稲垣さんなの?」

「だって、栗宮院さんって稲垣さんとよく話してる印象あるからさ。栗宮院さんと稲垣さんと坂井さんの三人で話してるところを時々見てるからね」

「たまに話してるの見るよね。栗宮院さんも稲垣さんたちのグループなのかなってちょっと思ってたんだけど、あっちのグループってわけじゃないんだよね?」

「あっちのグループ?」


 私はまったく気にしていなかったんだけど、うちのクラスは三つのグループと私に分けられていたそうだ。入学してから誰とも話をしていない私は孤立した存在でどのグループの人も声をかけに生きづらいオーラを出していたそうなのだが、ある日を境にそのオーラが無くなったらしい。そのタイミングで青木さんたちが私に話しかけてくれたそうなのだが、それのすぐ後に稲垣さんたちも私に話しかけてくれて来たのだった。

 グループと言っても稲垣さんと坂井さんは二人だけで、他のグループは青木さんを中心とした明るい女子たちが集まっている活動的なグループとインドア系趣味のオタク女子っぽい子たちのグループに分かれているらしい。私と稲垣さんと坂井さん以外は普通に仲もよく遊んだりもしてたそうなのだ。

「あんまり人の悪口とか言いたくないんだけど、稲垣さんと坂井さんってちょっと不良っぽいところあるから怖いなって思ってるんだ。詩織から言わせるとそんなことはないって事みたいだけど、私から見るとちょっと日焼けしてるのも怖いって思っちゃうんだよね」

「私も茉子と一緒であの二人ってちょっと怖いなって思っちゃうところあるよ。何かされたってわけでもないんだけど、ちょっと見た目が怖いなって思う時はあるかも」

「二人ともさすがに失礼だよ。確かに見た目はちょっと怖いかもしれないけど、話してみたら普通にいい人だったよ。あんたたちは栗宮院さんの事も最初は怖いって言ってたのにさ、こうして普通に遊んだりしてるじゃん」

 クラスで一番日焼けしている稲垣さんと坂井さんは話をしていないときの私だったら赤井さんと胡桃さんの言っていることも理解できたと思う。そのせいで一番最初に稲垣さんと話した時は凄く警戒してしまっていたと思うんだけど、一度話してみたら青木さんの言う通りで二人とも話しやすくて怖くはないと思えた。ただ、稲垣さんはちょっと距離を詰めるのが早すぎるような気もしていた。

「見た目とか雰囲気で怖いなって思うことはあるかもしれないけどさ、それは寝起きの茉子も怖かったりするよ。友紀だって機嫌悪いときあるんだし、そんなに稲垣さんと坂井さんの事を悪く言うのは良くないよ」

 実は私も稲垣さんと坂井さんの事を怖い人かもって思っていたことはあった。青木さんが二人を怒っているこのタイミングでその事を切り出すことなんて出来るはずもなく、私は極力二人と目を合わせないように隠れていた。

「話してたら結構時間経ってたね。栗宮院さんは何か食べたいものとかあるかな?」

「私ハンバーガーを食べてみたい。今まで一度も食べたことないんだけど、テレビで見かけるからどんな味なのかなって思ってるんだ。って、そんなのいつでも食べること出来るよね。ごめん」

 ハンバーガーなんていつでも食べることが出来るモノを希望するなんておかしい人だって思われたかもしれない。今度愛華ちゃんに頼んで一緒に食べにきてもらう事にしよう。確か、零楼館の近くにもあったと思うからそうしよう。

「良いね。私も最近出た新商品が気になってたからちょうどいいかも。いっつもドリンクばっかりだからたまにはちゃんと食べるのもアリかもね」

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