白ギャル黒ギャル戦争

第11話 お友達が出来ました

 フォトスタジオ零楼館でアルバイトを始めてから私の身の回りで色々なことが変化していた。

 クラスの誰にもアルバイトを始めたことなんて言ったことが無いと思うのだけど、私のクラスでは変な噂が独り歩きしているような気がする。中学の時までだったらその噂のせいで私は孤立してしまっていたと思う。でも、私に関する噂もそれまでと違って私を誹謗中傷するようなモノではなくなっていた。高校生ともなると幼稚な噂で人を貶めるようなことをするわけもないのだろうか。それとも、私の両親に関することではなく零楼館に関する噂だから悪く言われていないだけなのだろうか。そんなのはどうでもいいことだけど、何か少しだけ嬉しく感じていた。


「栗宮院さんってさ、ケーキ屋さんの近くの写真館でアルバイトしてるんだよね?」

 昼休みになったと同時に私は鞄をもって教室を出ていってどこか人目につかない場所を探してお弁当を食べるのが日課だったのだが、今日は席を立つ前にクラスの中心的存在だと思う女子に話しかけられた。一度も話したことはない子だけど、名前は確か青木詩織だったと思う。

「そうだけど、家族写真でも撮りたいのかな?」

「そうじゃなくて、写真館でアルバイトしてるなんて凄いなって思ったんだ。ほら、栗宮院さんってアルバイトとかしなさそうだなって思ったからさ。でも、写真館でモデルの仕事をしているのってやっぱりすごいなって思うよ」

「え、私はモデルじゃなくてカメラマンのアシストをやってるんだよ。モデルなんてやってないんだけど」

 私は間違った噂を訂正してあげただけなのに青木詩織とその友達の反応が変だった。そのリアクションから察するに、彼女たちは私がモデルをやっていると本気で思っていたようだ。なんで私がモデルをやると思ったのだろう。それに、モデルのアルバイトであれば写真館ではなくモデル事務所で働くことになるんじゃないかと思う。

 三人で何か相談事を始めてしまったようなので私はお昼を食べる場所を探しに行こうと思ったのだけれど、再び私は青木詩織に行く手を遮られてしまった。

「ごめんね。栗宮院さんがモデルの仕事をしてるって聞いたから私たちもどんなことしているのか気になっちゃったんだ。でも、モデルの仕事じゃなくてカメラマンの仕事なんだね。そっちの方がモデルよりも凄いかも」

「いや、カメラマンじゃなくてカメラマンのアシスタントだよ。撮影のお手伝いをしたり撮影に行く場所の事を調べたりするだけで凄いことなんて何もしてないよ」

「そ、そうだったんだ。でもさ、それでも凄いことだと思うよ。私達なんてアルバイトしようと思ってもそういう凄い仕事じゃなくてコンビニとかファミレスとかそういうのしか出来ないと思うし」

「だよね。私達じゃ出来るのそんなに無いよね」

「うん、カメラマンのアシスタントって凄いかっこいいと思うよ」

 私はアシスタントと言っても何か凄いことをしているわけじゃない。カメラにまつわることはほとんど愛華ちゃんが自分でやっているし、私がやっていることなんてちょっとしたものを移動させるとか撮影対象の事を調べたりその対象の事を知っている人に話を聞いてみたりするくらいなんだ。話を聞くときも私が聞くというよりも愛華ちゃんがお話をしているのを聞いてソレをまとめるくらいしかしてない。だから、何も凄いことなんてしてないんだよな。

「ねえ、そのアシスタントの話ってもう少し詳しく聞きたいんだけど、良かったら私たちと一緒にお昼ご飯食べようよ。栗宮院さんが良かったらなんだけど、どうかな?」

「栗宮院さんの事をもっと知りたいんでダメかな?」

 今までの経験から考えると私の事を知りたいというのは決していい意味ではなかった。私の事が怖くて私に近寄らない理由を探るための方便という事を知っているのだ。でも、不思議と彼女たちからはそんな風な印象は受けなかった。もしかしたら、彼女たちは今まで私が接触してきた人たちとは違うタイプの人達なのかもしれない。高校生ともなれば今までと違ってくるもんなのかもしれないな。

「うん、面白い話なんて出来ないかもしれないけど、それでもいいんだったら」

 こうして私は高校生になって初めて誰かと一緒に学校でご飯を食べるという経験をすることが出来た。

 普通に生きていればこんなのは入学してすぐに経験することなのかもしれないけど、私が今まで経験してきたことを考えればそれも凄く大きな一歩だと思う。高校生と中学生なんてそんなに変わらないだろうと思ってはいたんだけど、こうして接してみると結構違うものなんだなと思えていた。

 青木詩織、赤井茉子、胡桃有紀の三人と過ごした昼休みは時間的にはそんなに長いものではなかったのかもしれないけど、私にとっては今まで一人で過ごしてきた時間を取り戻すような長く濃密な時間のように感じていたのだった。


 誰かと一緒に食べるご飯が美味しいというのは知っていたけれど、それは学校でも味わうことが出来るというのは私にとって新鮮な経験であり新たな発見であった。

 残念なことに青木さんたち三人とは放課後に一緒に過ごすことは出来なかった。私が愛華ちゃんと会う約束をしていたというのもあるんだけど、青木さんたちも他校の生徒たちと遊ぶ約束をしていたらしい。また別の日にみんなで遊ぶ約束をしたんだけど、みんなでって他にも誰かいるって事なのかな。

「ねえ、うまなちゃんってさ、青木たちと仲良かったっけ?」

 校門で愛華ちゃんを待っていると私に話しかけてきた人がいた。青木さんたちと別れて誰も話しかけてくることはないと思っていたので、驚いてしまって変な声が出てしまった。

「え、何。そんな変な声出さなくてもいいんじゃないかな。別にうまなちゃんの事をどうこうしようってわけじゃないんだし」

「ってか、いきなり名前呼びとかなれなれしすぎるっしょ。あんたっていっつも距離感おかしいよ」

「だってさ、クラスメイトなんだから名前で呼んだっておかしくないでしょ」

「クラスメイトだからっていきなり名前で呼んだりしないって。もう少し常識とか考えた方が良いと思うけど」

「そんなんよくわかんないって。でもさ、うまなちゃんと青木たちってあんまり合わなそうだなって思ったんで意外だったってだけなんだけど」

「そういう変なこと言わないの。ほら、栗宮院さんも驚いてるでしょ。ごめんね、この子ちょっと常識無くて頭もよくないからさ。あんたも変なこと言ったこと謝って」

「ええ、私はそんな変なこと言ってないと思うんだけど。でも、何か気に障るようなこと言ってたらごめんなさい」

 たぶん、同じクラスの人だったと思う。稲垣茜と坂井千秋だったかな。二人でいつも一緒にいるところを見かけていたんだけど、稲垣茜があんな感じだから他の人と仲良くしているところを見たことが無かった。

 青木さんたちは思いやりがあって肌も透き通るような白さで、稲垣さんは変なことをいきなり言ってくる変わっている人で日焼けが凄い。全く正反対な人に一日で話しかけられるなんてちょっとだけ面白い日だったな。なんて考えながら愛華ちゃんが迎えに来るのを待っていた。

 今まで学校の話題なんて出したことなかったけど、今日は愛華ちゃんに話せるような出来事があったってのは自分でも驚きだった。ただ、自分から行動したわけじゃないって言うのがあるけど、それでも学校の事を愛華ちゃんに話せるのは私としては嬉しいことであった。

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