第26話 しあわせのしわよせ
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月明かりに照らされて氷の結晶が星の如く空に輝く。
「月が綺麗ですね」
拳に氷を纏ったまま亜紀が空を見上げる。
その様子があまりにも幻想的で思わず見入ってしまう。
「そうだな。今日はここら辺でやめておくか」
手にしていた氷剣を手放し、亜紀の隣に並んで空を見上げる。
亜紀は嬉しそうに上目遣いでこちらを見ると優しく微笑んだ。
「兄さん、亜紀はお役に立てましたか?」
「ああ、おかげで良い形で最終調整ができた」
「それなら良かったです」
グラウンドに咲き乱れる氷の花は亜紀が生み出したものだ。
花から吹き出す冷気が足元を漂っている。
「今回の作戦で多くの犠牲者が出ると思う」
「はい」
「亜紀にも負担を掛ける場面が出てくるはずだ」
「気にしないで下さい。人類の勝利の為なら亜紀は全力を尽くします。何より亜紀は兄さんを信じてますから。兄さんが魔族に負けるわけありません」
亜紀の力強い言葉に背中を押されたような気持ちになる。
決して弱気になっていたわけではない。
第一次魔族大戦以降、初の試みとなる魔族七将討伐作戦。
敗北は人類の死を意味する。
自分の知らない間に少なからずプレッシャーを感じていたようだ。
敵戦力はかつて神能十傑の中でも高火力を誇っていた二階堂鷹斗を打ち破った獣人族の王・氷狼のヴォニア。
安全区域襲撃で存在感を示した三獣士と魔狼、魔猿、魔鳥から構成される獣人族。
さらにはオレに強い恨みを持つ魔族七将・戦鎚のギガス残党兵。
正確な数は掴めていないらしいが先日の会議の段階で敵の総数は1万を超えると発表された。
どの戦場でも言えることだが、魔族を倒しても
やはり
「生徒の様子はどうだ?」
「今回の作戦に対してそれぞれ思うところがあるようですが訓練は変わらず続けています」
「そうか。五色の死についてはどうだ?」
「四宮さんがやや塞ぎ気味かもしれません」
「死に対する耐性は鍛えられないからな。メンタルケアをする時間も無かったが仲間が側にいればいくらか大丈夫だろう。作戦が終わったら面談する機会を作るか」
訓練で指導することはあっても生徒一人一人と向き合う時間を確保できていたかは微妙なところだ。
基礎を叩き込み、土台を作り、技術を磨き、ようやく個性が出てきた。
世界のリセットまで期間が決まっている関係上、戦う術を教える事に注力し過ぎた。
それが悪いことだとは思わないが、ゆくゆくは戦場で背中を預ける存在になる。
人の背景は知っておいた方がいい。
「二階堂さんが本部と連絡を取ろうと裏で密かに動いているみたいですけど止めた方がいいですか?」
「作戦の件はオレから二階堂に直接話した。本部に掛け合ったところで百園さんは首を縦に振らないはずだ」
多分。百園さんの思考が読めないから絶対とは言い切れないが英雄候補生を死地に送るような真似はしないだろう。
「分かりました。そういうことなら亜紀も触れないようにします」
ふぁーあと亜紀が大きなあくびをした。
連日夜遅くまで訓練に付き合ってもらっていたから疲労が溜まっているのかもしれない。
作戦に影響が出たら元も子もないからな。
その日の深夜。
日付が変わる頃、百園さんから連絡が入った。
魔族討伐部隊と
衝撃的なニュースにオレは一睡もできないまま作戦当日の朝を迎えるのだった。
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