episode1-29 突入
カミサマを偵察に使うことについて、小堀が渋るかもしれないから色々と説得する言葉を考えていたのが、予想に反して小堀は素直にその提案を受け入れた。
覚悟を決めた、というよりはこちらの要求を呑むしかないというような嫌々感の伝わる承諾だったが、過程はどうあれ望んでいた結果は出せた。
「お前ら、作戦はちゃんと頭に叩き込んだな?」
「大丈夫、自分の仕事は絶対やり遂げるよ」
「おう! 準備万端だぜ!」
「カミサマ、信じてる。絶対守ってね」
【もちろんだ菫、安心しなさい。小娘、貴様の方こそこの私を顎で使っておいて失敗することは許さんぞ】
「やれるだけのことはやるわ」
カミサマによる偵察が無事に成功した後、十分な情報を得られたと判断した俺たちは最深部に向けて歩みを進め、今行き止まりの前で最後の確認を行っているところだ。
一見ただの行き止まりに見える土壁だが、この先にモンスターたちの本丸、ダンジョンの最深部が存在する。
モンスター軍の視点に立って考えれば、自分たちはまだまだ万全の状態ではなく、時間を稼げば稼ぐほど有利になるのだから最深部の入り口を封鎖するのは当然のこと。敵対者が道を誤ったのかと引き返してくれれば大きな時間を稼げるし、仮初の行き止まりだと見破られても何もしないよりは時間稼ぎになる。
実際、もしカミサマの偵察が成功してなかったら俺たちも少し足止めを食うことになっていただろう。この先に最深部があるというのは、壁を通り抜けてカミサマが見てきてくれたから確信しているのであり、その情報がなければ迷いが生じていたのは間違いない。
「それじゃあ始めるぞ」
俺はその行き止まりに背を預けてもたれかかる。
すると自然に、その場に居る者を見渡す形となる。
沖嶋は真剣な面持ちで深く息をしている。
加賀美は仮面で顔は見れないが、それほど動きに緊張は見られない。
桜ノ宮は薄く笑みを浮かべて視線を返してくる。
小堀は青い顔をしているが、カミサマがいることで多少はマシなのか震えは収まっている。
そしてゼリービーンソルジャーズ・ブルー、イエロー、パープル、ホワイトたちは、これまでと変わりなく従順に俺の命令を聞いている。
全員、覚悟は決まったらしい。
「君臨する支配!」
スキルの発動によって何が起きるかは既にわかっている。あの巨大な玉座が、
「走れ!!」
相手としてもまさかこんな方法で塞いだ壁を突破してくるとは思ってなかっただろう。我に返った瞬間すぐにでも雨あられのように魔法が飛んでくるだろうが、そうなる前に全員一塊になって全速力で最深部へと踏み込んだ。
セイレーンと戦った場所のように開けた空間で、壁や天井のあちこちに照明が取り付けられており視界は確保されている。パッと目につくのは建設途中のテントや即席で作り出したのであろう土の防壁。そしてその裏から顔を覗かせる大量のモンスター。
俺たちが侵入してきた通路を時計の6時の方角とした場合、真正面にあたる12時の方角には仮設住宅の土台らしきものが並んでいるだけで敵影はない。右側も同様だ。その代わり、左側の11時、10時、9時の方角に分厚い土の壁がそれぞれそびえたち、それを認識した次の瞬間、火球や水刃、石弾や風槍、氷柱、電撃など様々な魔法が一斉に壁の裏から放たれた。
「君臨する支配!!」
【威力も密度もさきほどより高い! 長くはもたんぞ!!】
ある程度進んだところで玉座とドレスを呼び出しバフを最大化するのと同時に、激しい衝突音を響かせながら次々に魔法がバリアへ着弾し弾け飛んでいく。
完全な君臨する支配のバフを受けてなお本気で余裕がないのかカミサマはいつもより語気を荒げているが、問題ない。織り込み済みだ。偵察で得た情報によって、こうなる可能性が高いことは予想出来ていた。
当初の予想通り相手は完全な密集陣形を避けて来た。部隊を3つに分けて、それぞれ防壁と、さらにその裏にいる耐魔ゴーレムによって守っている。各部隊には、ワーウルフ、ゴーレム、ハーピー、エレメント、メイジー、ゴブリン、コボルトがほぼ均等に配置されており、総数はおよそ150。
指揮官の魔法によって強化されたエレメントとメイジーの魔法弾幕を主力とし、接近戦に備えてワーウルフとゴブリン、コボルトが待機している。駄目押しとばかりにハーピーが歌を歌っているが、それが俺たちに通用しないのは既にわかっている。
肝心の指揮官は10時の方角、中央の壁の前で、隠れるでもなく注意深くこちらを睨みつけている。
そいつは俺たちの世界の人間とほとんど変わらない外見の女であり、むしろ人間よりも美しく気品を感じさせる整った顔立ちをしている。今となってはこっちの世界でも珍しくなくなってしまったが、特徴的な点は長く尖った耳。つまりエルフ、もしくはハイエルフだ。
この場にいるどのモンスターよりも格が高く、偵察によって奴がこの軍隊を指揮していることも確認済み。あいつがこのダンジョンを率いるボスで間違いない。
エルフは非常に高い魔法適正と魔法耐性を併せ持つ。如月のライトニングを主軸に戦術を組み立てるのであれば、相性は最悪だ。優れたエルフの魔法使いであれば、ライトニングを無傷で防ぎきることもあり得るかもしれない。その自信があるからこそ、あいつはあえて隠れずにこちらの出方を伺っているのだろう。ライトニングに対応して即座に防御魔法を発動できるように。
「作戦通りだ、やれ!」
正直言って、事前情報なくエルフを相手にすることになっていたら勝つことは難しかっただろう。真正面からライトニングを撃ったとして、奴の防御魔法を突破できるかは分の悪い賭けになる。至近距離で、それこそ接触できるほどの距離で直撃させれば流石に倒せるだろうが、普通にやり合ってそれを許すほどの間抜けではないだろう。
だが、事前にわかってさえいれば対策は容易い。
「オーダー! ライトニング!!」
俺の号令に従い、特徴的なサイドテールをなびかせながら、バリアからはみ出さないギリギリまで勢いよく前に出て、粗末な杖をエルフに向けて叫ぶ。
それを見るのと同時にエルフの口が動く。やはりライトニングを警戒して自分だけは魔法攻撃に参加していなかったらしい。即座に発動したスキルによって、白濁色の分厚い円盾のようなバリアが3つの壁の前に現れる。
だが、ライトニングがそのバリアに当たることはなかった。
そもそもライトニングはまだ発動すらしていない。
あの承認を告げる機械音声も流れていない。いや、正確に言うのなら聞こえてない、か。こうも五月蠅ければそれも仕方のない話。
「伝令はどこまで詳しく伝えられた? 髪色は? 背丈は? 声質は? 杖の形状は? くくっ、あの距離じゃあ、わからなかっただろ?」
次の瞬間、眩い光が広間を満たし、魔法の着弾音すら掻き消すほどの轟音が響き渡る。
その稲妻の発生源は俺たちの近くじゃない。俺たちの前で杖を構える女からじゃない。
エルフもそれに気が付き、音の聞こえた方向へと咄嗟に振り返る。
そう、
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