episode1-28 作戦会議②
こちらの陣営の戦力確認は一通り終わった。
「あとは敵がどうでてくるかと、指揮官の種族が問題だな」
これまで戦ってきたモンスターの編成から考えれば、セオリー通りの安定した戦術を好んでいることはわかるが、それだけでは大まかな予想を立てるのが限界だ。そしてその大まかな予想すらも場合によっては簡単にひっくり返る。
「順当に考えるなら、如月のライトニングを警戒して密集陣形は避けてくるはずだ」
「でもさっきのゴーレム以上の魔法耐性を持つ兵がいるなら、絶対にしないとは言い切れないわ」
「そいつを盾にして兵の損耗を避けるなら一か所に集める必要があるからな」
まるで俺が何を言うのかわかっていたかのように間髪入れず反論する桜ノ宮に対して、同じく俺も即応する。
恐らくある程度の段階までは俺と桜ノ宮の認識は共通している。今の会話も、敵にライトニングの情報が伝わっていない可能性など互いに考慮していないからこそ噛み合っている。
情報の重要性を理解している指揮官の配下が、伝令も出さずに決死の突撃をしかけてくるなんてありえない。二体のワーウルフは陽動であり足止めだったことはまず間違いない。
「ただ、一塊になっていたとして、それがイコールで魔法耐性が高いことにはならないのよね」
「相手は如月がライトニングを連発できないことも、他に攻撃用の魔法がないことも知らないからな」
冒険者が使う魔法系スキルにはクールダウンというものが存在しない。そしてそれは敵も同じ。だからこそ、連発は出来ると考えるはずだ。お互いに似たようなシステムで戦っていることは、よっぽど間抜けでなければ相手もわかってるだろうからな。
他に攻撃魔法がないとは思わないというのも理屈は同じだ。普通あれほど強力なスキルを使えるなら、それ以前にもっと格の低い魔法スキルも覚えてるはずと考える。そしてその中に、範囲攻撃魔法がある可能性も。
散兵となれば当然壁役が全てを守りきることが出来なくなり、各個撃破される可能性がある。特にエレメント系モンスターは魔法耐性が極端に低いため、火力の低い範囲攻撃魔法でも大打撃を受けることになる。
一方で密集陣形をとる場合、ある程度魔法耐性のあるモンスターがいること前提の話になるが、たとえばさっきのゴーレムが2体、3体といれば後衛に被害は出さずライトニングを受け止められたかもしれない。そうやって壁を増やして防いだ隙に、まとまった火力で押し切る、という作戦もなくはない。
もちろん、ある程度の兵の損耗を許容して兵を散らせる可能性もある。各個撃破されると言っても、つまりその間他のモンスターはフリーになるのだから、一方的にやられっぱなしになるというわけではない。敵の視点から見て、こちらが範囲攻撃魔法を持ってない可能性に賭けることもあり得る。
結局のところ、相手の構成や数、指揮官の種族や考え方によっていくらでもパターンは考えられる。そしてそれを全て検討して、こうだったらこうする、と事前に決めるのは難しい。そんな余裕はない。かと言って、相手が一塊になっていたら開幕でライトニングをぶち込むと安易に統一することも出来ない。最初の一撃でエレメントの大部分を落とせなければ防戦一方になるだけだ。
この限られた戦力で確実に勝つためには、情報が足りていない。
「せめて偵察を出せればな」
「氷室くんの召喚獣にそういうことが出来る子はいないの?」
「……いなくはない」
ブラックの闇渡りを使えば、光魔石の影を伝って最深部まで身を隠しながら進めるかもしれない。
「けど、細かい意思の疎通が出来ない。見るだけ見て何も伝えられないんじゃ意味ないだろ?」
「そうね、時間の無駄だわ」
一応闇渡りの強化にある潜伏対象+1をとれば誰かもう一人まではついていけるはずだが、たしかこのスキルは対象の数が増えるほどMP消費が激しくなるんだったはずだ。最深部までの距離もわからないし、途中でMP切れになったらいたずらに戦力を失うだけになる。現実的な案ではない。
「あとは、……」
【ん?】
俺の召喚獣に望みがないとなれば、残るは異能ということになる。俺は作戦会議だというのに特に発言するでもない4人に視線を向け、最後にカミサマを見て視線を止める。
「付喪神なら、いや、でもなぁ」
付喪神の本体はあくまでも道具であり、目の前のカミサマのような半透明な人の姿は幻に近い分身だ。視覚や聴覚などの感覚器官は分身にもあるらしいが、実体がないため触ることは出来ない。つまり物体を透過するわけだ。
その性質を利用すれば、ダンジョンの壁や地面に潜り込んで偵察できる可能性はある。ただこれには一つ問題があり、付喪神は本体からあまり離れられないという性質を持っている。
カミサマが防御の要であることを考えると、リスクが高すぎるため本体ごと偵察に行かせるという選択肢はない。
「付喪神にも個体差はあるでしょう? 確認するだけなら損はないんじゃない?」
「え? カミサマがどうかしたの、葵ちゃん?」
俺の言わんとすることを察してか桜ノ宮がそう言って小堀に向き直り、俺と桜ノ宮の口から付喪神という単語が出たことで自分たちの話をしているのだと気づいた小堀は、少し不安そうな表情で桜ノ宮に尋ねる。
桜ノ宮の言う通り付喪神にも個体差はある。年代物であればあるほど有する力は強いと言われている。ただ、200年物の付喪神でも精々500m前後が限界だったはず。小堀が持っているお守りはたしかに古めかしさはあるが、それでも数百年という年月を感じさせるほどではない。
とはいえ、他に手が思いつかないのも事実。桜ノ宮の言う通り確認するだけなら損はないか。
「菫、一つ教えて。カミサマは本体のお守りからどのくらいの距離まで離れられるか知ってる? 今まで一番離れた時の距離でも良いわ」
「えーっと、一番離れた時かぁ、いつだろ……」
【あの時だろう。菫がお守りを家に忘れて学校へ行った】
「あっ、そういえばあったね、そんなこと。カミサマがいつも通りついてきてたから忘れてた」
家にお守りを忘れて、カミサマはいつも通りついてきた、だと?
「――! 菫、あなたたしか電車通学だったわよね?」
「え、うん、そうだよ?」
「家から学校までの直線距離はわかる?」
「そ、そんなのわかんないよ……」
「なら片道の乗車時間は?」
「えっと、2時間くらい」
に、2時間!? こいつどっから通ってるんだよ。
まあ小堀の個人的な事情は置いておこう。電車通学で、乗車時間が2時間。あいにく電車には詳しくないが、それでも相当な距離があることはわかる。少なくとも、10、20km程度では済まないはず。
「小堀、今の話本当だな? お守りは家にあって、その状態のままカミサマだけ学校について来たんだな?」
「ひっ、う、うん、ほんとだよ」
桜ノ宮には普通に接していたのに対し、俺には若干怯えた様子で言葉を返すのが不思議だが、今はそんなことはどうでも良い。
「桜ノ宮」
「えぇ、これならもしかしたら」
駄目で元々のつもりだったが、これは思わぬ当たりを引いたみたいだ。
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