episode1-7 踏破

「ユニーククラス? なにそれ?」

「極まれに発現する固有のクラスだ」


 全くもって余計なお世話だが、ノーマルがダンジョンに足を踏み入れると俺たちの世界の神様が強制的にレベルやスキルといった力を与えてくれる。クラスはその中に含まれるものであり、冒険者の習得するスキルやこれからの成長方向を決定づける、コンピューターゲームで言うところの職業というやつだ。


「冒険者のクラスは大きく4つに分類されることは知ってるな?」

「へー、4つって?」


 如月が知らなかったというように適当な相槌を打ちながら問いかけてくる。

 こいつ、こんなんでよくもまあダンジョンのことくらい知ってると言えたな。

 沖嶋は流石に知っているようで、続きを促すように無言で頷いている。


「一つ、ノーマルクラス」


 剣士や騎士、魔法使い、僧侶など、大半の人間はこのノーマルクラスに分類されるクラスを得ることになる。召喚士もここに含まれる。自分で選ぶことは出来ず、その人間の適正に合わせて勝手に選択される。


「二つ、ハイクラス」


 ノーマルクラスで一定のレベルに到達すると転職可能となる、いわゆる上級職というやつだ。有名どころを挙げるなら、聖騎士や賢者、モンク、プリンセスなどがこれにあたる。現在の自身の能力やスキルによっていくつかの選択肢が提示され、その中から転職先を選ぶこととなる。才能のある人間は最初からこのハイクラスを獲得するケースもあるが、その場合自分でハイクラスを選べないのでメリットばかりというわけでもない。


「三つ、エピッククラス」


 ハイクラスのさらに上に位置し、レベルの他に何らかの条件を満たさなければ転職できない特殊なクラス。最上級職と呼ばれることもある。現在のところ最初からこのクラスを得た者の話は聞かない。一般人の到達点はこのエピッククラスということになる。


「四つ、ユニーククラス」


 ダンジョンアサルトに巻き込まれた一部の冒険者にのみ発現する極めて特殊なクラス。今のところユニーククラスの重複は確認できておらず、言葉の通りそれぞれ唯一無二のクラスということになる。転職をすることは出来ないが、最初からクラスに深く関係する強力で特殊なスキルを保有し、その潜在能力はエピック以上。ユニーククラスを得た冒険者は成功が約束されるとまで言われるほど優れたクラスだとされている。もっとも、成功が約束されるというのは無事にダンジョンアサルトを乗り越えられればの話だが。

 ダンジョンの正しい知識がなければいくらユニーククラスを持っていても宝の持ち腐れだ。スキルの使い方も戦い方も知らなくて、なにもわからないまま死ぬ奴だっている。


「まあ、その点このクラスは当たりだな。本人に戦闘能力がなくてもスキルの使い方さえ知ってれば、コボルト程度には勝てるわけだしな」

「確かにユニーククラスは強いって話は聞いたことあるよ、ハマればとんでもないってさ。そっか、ユニーククラスか、それならあの強さもあり得るのかな」

「沖嶋くんよくそんなの知ってるね。それで? ユニーククラスってなんだったの?」


 ユニーククラスを得たことは遅かれ速かれバレるだろうから別に良いが、具体的なクラスまで教えるのはあまり気が進まない。

 姫系はハイクラスやエピッククラスにも存在し、わかるやつには性能やスキルの傾向がある程度わかってしまう。恐らくユニーククラスと言えども姫系クラスの特徴であるサポートタイプという点は変わらないだろう。


 ……だが変に隠して信用を下げるとこの後が面倒か。

 

「菓子姫だ」

「へ?」

「菓子、……姫?」


 沖島は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔で素っ頓狂な声をあげ、如月は言葉の意味をかみ砕いて理解するように俺の言葉を繰り返した。


「姫ってあんた似合わなすぎでしょ。……あれ? でも今はむしろ似合ってる?」

「似合わないのは俺だってわかってるつーの」

「ま、まあ最初のクラスは自分じゃ選べないらしいし、氷室も好きでその菓子姫? になったわけじゃないんだろ?」

「そりゃあな」


 ただ、この性能を知った後だと今から別のクラスを選べると言われても変える気にはならないけどな。


「とにかく、俺は運よくユニーククラスになった。菓子姫なんてクラスは聞いたことないし、こいつらの強さを見てもそれは明白だ」


 コボルトの集団を殲滅して戻ってきたゼリービーンソルジャーズを指さして断言する。

 相手が光源を持っていたとはいえ、この暗がりと距離ではこいつらの戦いをハッキリと観察することは出来なかった。しかしそれでも全く敵を寄せ付けていなかったことはわかる。実際今こうして戻ってきたゼリービーンソルジャーズを見ても、傷一つない。


 方針は決まった。


「そしてもしかたら、こいつらならこのダンジョンの指揮官に勝てるかもしれない」

「ふーん、よくわかんないけどそれって凄いの?」


 凄いなんてもんじゃない。

 沖嶋と如月は戦力にならない以上、実質的にはソロでのダンジョン踏破となる。

 ソロのダンジョン踏破者は、日本で公的に認められているのは一人だけだ。

 加えてダンジョンアサルトで巻き込まれたダンジョンをそのままソロ踏破した冒険者は、俺が知る限り世界中のどこにもいない。普通、そんなことは不可能だから。


「……氷室、それ本気で言ってる?」


 沖島は一瞬絶句して言葉を失い、如月から遅れてそう問いかけてくる。

 何を言っているのかわからない、という感じじゃないな。俺の言葉の意図をこいつは理解している。


「攻略するつもりってことだよな」


 そう、俺は逃げない。

 救助を待って逃げ隠れするのではなく、このダンジョンを踏破して外に出る。

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