Chapter1 : 選択
【遺跡】の中は無法地帯だ。何せ証拠が残らない。
誰を殺し、殺されても、『事故』の一言で片づいてしまう。
物陰に息を潜め、愛用のショットガンを構える少年は、
薄暗闇を白く染める
【遺跡】――【グラント商業区跡】の地下倉庫内で、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。ゴツいボディアーマーを装備した男たちが、たったひとりに集中砲火を浴びせている。
コンテナの陰に押しやられた哀れな逃亡者は、反撃の機会を伺っているようだったが、激しい弾幕に顔を出すことさえできずにいた。
それを離れた位置から見守りながら、少年は迷う。介入するべきか、それとも今からでも引き返すべきか?
少年が【遺跡】に入ったのは、今回が初めてだ。にもかかわらず、ビギナーズラックというべきか、背中のリュックは探索の成果――旧世界の遺物ではち切れそうになっていた。
そして大満足で【遺跡】を出ようとしていたところ、銃声を聞きつけ、好奇心から様子をうかがいに来たら、これだ。
少年には全く関係のない戦闘。
"
それとも
はたまた
どちらが、どちらなのかさえわからない。だから【遺跡】は無法地帯なのだ。同業だと思って近づいたら
何が起こっても恨みっこなし。
それが【遺跡】の流儀。
つまり、少年には、選択肢がある。
このまま去るか。どちらかに加勢するか。
――あるいは両者とも攻撃するか。
いわゆる漁夫の利だ。背中のリュックはお宝でいっぱいだが、それでも、彼らの装備は魅力的だった。
(この距離なら、まずひとりはやれる)
故郷の村ではずっと狩人をやっていた。ショットガンに装填しているのは、散弾ではなく、一発が親指の第一関節ほどもある大威力のスラッグ弾。ボディーアーマーを着込み、防弾ヘルメットをかぶった屈強な男でも、急所に当たればただでは済まされない。
(……やるか?)
何の因縁もない相手を撃つのは、正直抵抗がある。常に好戦的な
と、迷っている間に状況が動いた。
コンテナの影に隠れていた逃亡者が、何かを投擲したのだ。
カランカラン、と落下して金属質な音を立てる『何か』。それが近くに転がってきた襲撃者が、泡を食って物陰から飛び出す。
爆音。
びりびりと空気が震える。手榴弾だ。咄嗟に飛び出た襲撃者は、飛び散る破片を辛うじて回避したらしい。だがそこを、逃亡者が狙った。物陰から身を乗り出し、アサルトライフルの連射を見舞う。
『ガぁァァ!』
けたたましい銃声、さらにガスッ、ガスッとボディーアーマーが撃ち抜かれる音がはっきりと聴こえた。痙攣しながら倒れ伏す襲撃者。数的不利をものともせず、逃亡者が一矢報いた――
「あぐっ」
しかしその代償は大きかった。短い悲鳴。身を乗り出した逃亡者に、当然のごとく射撃が浴びせられた。隠れるのが遅れ、その頭部が吹っ飛ぶ。
――違う、頭部ではない。かぶっていた防弾ヘルメットが火花を散らして地面に転がったのだ。弾丸は逸らされたようだが、衝撃までは消されなかった。意識を失って倒れる逃亡者。
ばさりと――銀色の髪が広がった。
ヘルメットに隠されていた顔が、露わになる。
(――女?)
少年は驚いた。女、というよりも、自分と同じくらいの少女だったからだ。褐色の肌。場違いに思えるほど整った顔立ち。その額を、つぅっと血の筋が伝う。やはり無傷では済まされなかったか。
いや、それより、重要なことがある。
【"
初心者の少年でも知っている。
『ロンガウ!?』
『シィパ!』
無事なふたりの襲撃者が、銃を構えながら叫んでいる。
言葉がわからない。ということは――連中は
あの少女は同業者。
そしてそれを襲う連中は
ならば、もう迷うことはない。
(決めた)
介入する。
一切の躊躇なく、少年は引き金を絞った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます