第46話雨降りの日の放送
伏木小学校には放送室があり、お昼休みの時間に放送部の生徒がリクエスト曲を流したり、学校からのお知らせを流したりしてくれていたのだが、もう数十年前から放送部は廃部になり、放送室も閉鎖された。
当初は、部活として活動はなくなっても生徒が放送室で、先生の代わりにお知らせであったりお昼には音楽を流したりしていたのだが、ある日の雨降りの日の授業中に、放送を知らせるために流れるベルが学校中に鳴り響いた。
しかしそのベルは鉄琴の澄んだ音では無くて、とんでもなく歪んだ、スピーカーをつんざいて割れたような、砂嵐のようなノイズ混じりの荒れた音が流れた。
そして低学年くらいの男の子の声で『おにくらのつつくらがでます』と、やや舌足らずな口調でそう言ったように聞こえた。
そこからナニが出るのか、或いは起こるのか分からないが、当時の校長が教師含む全校生を大急ぎで帰宅させた。
それが良かったのか悪かったのかは今でも分からないが、以来、雨の日になるとたまにその歪んだベルの後、低学年くらいの子供の声で前述の事をお知らせしてくるようになった。
そうなれば例え一時間目であろうと皆、帰宅準備をして速やかに帰るのであった。
そして現在────。
雨降りの中、慈雨は桃瑠と共に教室に入るとクラスメイト達に挨拶しながら自分の席にランドセルを置いた時である。
ザ・・・ッ、ザザ────ッ。
ノイズが、黒板右上にあるスピーカーから聞こえた瞬間。
皆が耳を抑えるような大音量で、ベルの音が鳴り響いた────。
砂嵐の如くノイズ混じりの、どうすればそんなに歪むのかと言うような激しい音が暫く鳴り響き、そして治まったかと思うと暫しザザ、ザザ・・・・・・と言うノイズの隙間からマイク越しの呼吸の音が聞こえる。
ああ、放送が始まってしまう、と思った時だ。
『おにくらのつつくらがでます』
何か発表したり朗読する時のような、はきはきと喋る時のような何処か芝居がかった言い方だ。
教室では『ゲーッ、もうかよ⁉』とか、『おいおいまだ授業も始まってないのに⁉』など皆が声を上げるが、文句を言いながらも身体はテキパキと動いていた。
「ええ・・・・・・教科書ランドセルから出してないのにもう⁉」
「ちょっ、最短記録じゃん」
来たばかりの慈雨と桃瑠は唖然としつつも、ふたりは脱いだ上着を着直して、それから慈雨はランドセルを背負った。
桃瑠は相変わらず手ぶらである。
「おーい、みんな忘れ物無いか~~~? 行くぞ~~~」
学級委員長のシンヤが声を掛けると、先導するように前を歩きだす。そしてその後ろを皆が付いて歩きながら、階段を下りていく。
校舎を出ると、当たり前だがバス乗り場に皆が向かう為に正門付近はごった返していたが、皆慣れている為さほどの混乱は無く粛々と進んでいた。
色とりどりの傘がバス乗り場に向かう中を、慈雨達宵闇町組はスルスルとすり抜けるようにして潜り抜け、校門を出て行った。
「え~~~、これからどうする?」
「うん、祇鏖さんにいっぺん電話する」
集団下校の列に並んで歩きながら桃瑠が聞くのを、慈雨はそう答えてふたりはなかよし商店街に向かうのであった。
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