第35頭痛の種

 安倍晴明こと、靖幸は眉間に皺を寄せてその、365日お通夜ですみたいな陰鬱な顔を更に苦々し気に顰めていた。



 最悪だ・・・・・・。



 愚息が、鴇弥がとんでもないことをやらかしてくれた。

 BouTubeで、好矢見町にて大規模な除霊浄霊を行いたいとのたまい、挙句参加者を募ったのだ。



 すると如何やら数人の霊能者が名乗り出たと、この陰陽課に報告が上がってきた。



 当然、呼び出して止めるように言ったが、聞き入れる筈も無く・・・・・・。



 余計に生意気な口を叩いて陰陽課を飛び出して行ったのを止めるでもなく、靖幸は深々と溜息を吐くだけであった。



「おやまあ、鴇弥君は先代殿そっくりですねえ」



 物陰から、面白そうに目を細めて出て来た艶鵺は、鴇弥を視線だけで追うように廊下側を見やる。

 先代────靖幸の父であり、鴇弥達から見れば祖父であった男はそこそこ有能な陰陽師であったが、プライドが飛び抜けて高い男だった。



 当時まだ先代────鴇盛が現役であった頃、年下に見え、且つ蘆屋の家の者と聞いて艶鵺を散々バカにしてきたのである。



 そう言う所が、本当にそっくりだと艶鵺は苦笑いするしかないし、靖幸は申し訳ないと頭を抱えるのであった。



「そう言えば、先代殿はお元気ですか?」

「ええ、相変わらず糞爺ですよ」



 未だに靖幸のやり方に口を挿んでくるし、自分とそっくりな鴇弥を甘やかす。



「ハハハッ! それはそれは・・・・・・介入されても厄介ですし、釘を刺して来た方が良いですかねえ・・・・・・」



 艶鵺はそう言うと、靖幸はお願いしますと頭を下げる。

 若かりし頃こちらを散々バカにしてきた鴇盛は、今は一向に年を取らない艶鵺の事を恐れていた。



 どれくらい恐れているかと言うと、顔を見せた瞬間奇声を発して言葉にするのもはばかられるような無様を晒すくらいである。



 艶鵺は別に、自分を恐れている者を怖がらせる趣味は無いが、こういう時は別だ。



 自分に、ひいては宵闇町に関わるならば命は無いと、警告しに行かないといけない。



「それでは、失礼しますよ」



 そう言って艶鵺は御簾の向こうへ、悠然と去って行った。



「・・・・・・」



 ふう、と靖幸は溜息を吐いた。

 矢張り、彼と相対しているととても緊張する。



 靖幸が艶鵺と会ったのは、彼がまだ七つの頃だ。

 もう既に当時から左目を隠した、眼光鋭い一重の中年男性でまだ幼い靖幸にも丁寧な口調で、柔らかな物腰で話しかける男であった。



 その頃には父鴇盛は既に艶鵺の事を恐れるようになっていたが、当初どうしてなのか全くわからなかったが、自身が歳を重ねるごとに理解するようになっていた。



 靖幸とその息子で長男辰喜たつき、次男の要は正しく、艶鵺を恐れていた。

 だが、何故か三男の鴇弥だけが一体何に毒されたのか艶鵺をただ蘆屋の子孫だと言うだけでどうしてあれだけ増長できるのか、謎であった。



 艶鵺の方は気にも留めていない、と言うか寧ろ面白がっている節があるので靖幸は困っているのであるが。 

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