好矢見派出所怪異譚
第25話新人警察官は白狐の養い子
「・・・・・・ふむ、そろそろ新しい警官が配属されるみたいだな」
書類を見ていた祇鏖はそう呟くように言うと、側にいた艶鵺がそれを聞きつけ其方を見やる。
「おや、もうそんな時期ですか」
「・・・ああ、多分そのうち挨拶に来るだろう」
祇鏖の手にしていた書類は、好矢見派出所に新しく配属された新人警察官の情報等を載せた書類であった。
勿論、普通の警備会社のいち警備員の元にそのような重要な書類が来るわけがないのだが祇鏖の元には、そう言った重要な情報がいち早く届けられるようになっていた。
「長続きしてくれると良いんですがねえ」
「まあ、そこは本人次第だからなあ」
そうでなくとも、警察官の仕事と言うものは過酷だと言われている。
特に好矢見町で事件が起これば高確率で妖絡みの特殊な事件が多いので、病んで止めるのならまだしも、妖に喰われてそのまま行方不明扱いで死体も帰って来ないなんてざらである。
だから、こちらの事情に余程詳しい神職、或いは霊能者の家系の者か所謂零感、と言われる全く何も感じない者を配属するのが慣習化していた。
「今回はどんな子が配属されるんです?」
「うむ、今回は零感の奴が配属されるようだな」
特筆事項の欄に、零感である事が書かれていた。
神職家系、霊能者の家系の警察官は既に配属されているので、今回は零感の人間が配属されたのだろう。
現在は香椎と言う巡査部長を筆頭に、現在四人程の人員が好矢見派出所に居るが今回の新人で五人になる。
それから数日後、巡査部長の香椎と共に新人────蓮水漣が挨拶に現れた。
「この方が祇鏖さん。で、彼が蓮水漣君。これから宜しく頼みます、祇鏖さん」
香椎が漣を紹介した。
「
資料にあった写真で見た印象の通りの、礼儀正しい、人懐っこい印象の青年であった。
しかし、この青年。何処かで会った事があったか?と祇鏖は考えたが、しかしすぐに彼から知己の気配が纏わりついているのだ、と気付いた。
「宜しく、蓮水君」
しかし祇鏖は敢えてその事には触れず、型通りの挨拶を終えて二人が帰って行くのを見送った。
「・・・・・・」
短い期間ではあったが、この町で暮らしていた白狐がいた。
稲荷神で有名な
祇鏖の勘違いでなければ、その妖の気配があの漣と言う青年に残っていた。
そう言えば彼がこの町を離れたのは子供を育てる為だったな、と祇鏖は思い出す。
ハルコと言う霊能者の孫が両親に死なれ、そのハルコも亡くなりひとりになってしまった子を引き取って育てる、と言い出したのだ。
大恩ある者の孫だから、せめてもの恩返しのつもりだったのだろう。
そう言う意味なら、確かに漣と言う青年は好印象であったし成人まで育て上げたのは立派だと言うほかないだろう。
しかし・・・・・・何かが引っ掛かるな。
祇鏖の、そういう時の感と言うのは外れた事が無い。
「む、そうだ」
彼は自身の事務机の抽斗を開け、分厚いファイルを取り出した。
それは、今まで好矢見派出所に配属された警察官達の資料をファイリングしたものであった。
パッ、と開いて蓮水漣のページを開く。
特記事項に零感としてあった。
「ああ、矢張り零感としてあるな・・・・・・」
此処に配属される際、面接で一般人を特殊な方法で霊感の有る無しを判定した後、霊感のある者を弾くのだ。
しかしその方法は万能では無い為、たまにすり抜けて来る者が居る。
彼は完全に後者だ。
「むう・・・・・・白夜殿はこの事を知っているのだろうか?」
普通なら、何処に配属されるのかくらいは養い親でもある白夜に報告の一つぐらいするだろうに、と思った。
それを知った義理堅い白夜なら、事前に祇鏖に何かしら連絡してきそうなものなのに、何も無いのが不思議であった。
「後で久しぶりに連絡を取ってみるか」
祇鏖はそう言って携帯を見詰めた。
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