異世界農民物語~人気MMO世界に転生したのに、特典が別ゲのデータだった~

環槇

第1話 異世界農民転生オファー

1、異世界農民転生オファー


  昨今と言うには流行りになって久しく、なお人気を保ってやまない異世界転生なるもの(ネタ)を我も(実体験)してみんとてするなり。


 でも聞いてた話とちょっと違う気がするのは、なんでなんだろうか。

 相棒のもふもふとした毛並みにそっと手を乗せる。うん、今日も最高のふかふかもわもわ加減だ。キレイに磨かれた金ピカの角も、朝日に照らされて眩しいくらいキラキラ光っている。

 目の前いっぱいに広がるのは、パステルの色合いとファンシーな造りが可愛らしく、妖精さん達が飛び回ってあちらこちらに魔法を掛け、モンスター達が和気あいあいとお仕事に励んでいる─​───────剣と魔法のバトルファンタジー世界には似合わない、いつものぼくの農場だった。



  


 お話を最初の最初に戻そう。いつどこで生まれて〜ってほど昔のことじゃなくて、もっと今の状況を説明する足がかりになるようなこと、例えば、なぜ異世界で農場を経営することになったのか、とか。


 でも、まずは自己紹介が先だったよね、忘れてた。

 ぼく、はた みことはちょっとぼんやりしてる普通の男子大学生。自分ではそこそこしっかりしているつもりだけど、家族友人にと言われ続ければ認めざるを得ないというもの。やさしく言えばおっとりしててマイペース、きびしく言えばぶきっちょで自分勝手って、高校で特別授業のときに書いたなぁ。あれは道徳だっけ、キャリアデザインだっけ?

 ……道徳と言えば、小学校の頃から連絡帳にも成績表にも、道徳の時間の「おともだちカード」にだってのんびり屋さんだって書かれてたの思い出した。それだけ言われれば、いやでも自覚するわけです。うん。

  

 それで経緯を説明しようと思うんだけど、その日もいつも通り通学路を散歩してたところ、猛スピードでやってきた かの有名な異世界転生トラックに撥ねられたので、人気ゲームの世界に神様転生することになった。っていうのが大まかな流れかなぁ。

  

 びっくりしちゃった、UFOとかUMAみたいな与太話じゃなかったんだね、異世界転生トラック。どうせならもっとちゃんと見ておきたかったよ、あまりに急過ぎて白っぽかった気がすることくらいしか覚えてない。

 すごい音がするなぁ、振り返ってみようかなぁと思った時にはもうすでに轢かれていて、自分がそれで死んでしまったこと、轢いたのは異世界転生トラックだったことは、なんかふわふわした空間で神様と名乗る男の人(?)から教えて貰ったんだ。


 この神様という人(?)は、どうやら異世界から来たらしい。

 マイナリーナ・オンラインという、ぼくもやっているVRMMORPGが実は異世界を再現したモノで、異世界に誘致する人材を探すため(ついでに異世界で遊ぶ用の資金稼ぎ)に神様が用意したんだとか。

  

 VRっていうのは、専用のヘルメットを被るとみんなでゲームの世界に入って遊べるという、とにかく凄いゲームのことだ。本当はもっとなんか凄い正式名称があったはずなんだけど、みんなVRって呼ぶから忘れちゃった。元々は軍のなんたら医療がうんたらで開発みたいな話だったのが、今じゃゲーム用に売られてるからとりあえずゲームでいいでしょう。ということにする。

 このゲーム機が出たばっかのとき、最初はすごく大きなポッド型してて、大富豪とかデカい病院とかにしか置いてなかったんだって。お父さんとお母さんが大学生になった辺りでも特別なゲーセン(?)みたいなとこにしか置いてなかったらしいけれど、今じゃどのお家にも置いてある一般的な電子機器である。色んなお仕事にも使うし、実際お父さんもお母さんも使ってるし、ぼくも習い事や塾でお世話になった。学校も体育がない所はこれ使ってるんだって。

  

 そんな感じで色んなことができるけど、家庭用の1番人気なジャンルはやっぱりゲーム。特にRPGは3番目に大人気。まあ、シミュレーションとスポーツには勝てないよなぁ。でも、VRが出る前はパズルとかが1番でRPGは不人気な方だったっていうから、大躍進だよね。

  

 マイナリーナ・オンライン、略してマイナリはそんなVRMMOの中でも一二を争う人気ゲームなのだ。

 まるで神が創り上げたかのような、丁寧に作り込まれた世界観とほかの製品を遥かに凌ぐリアリティ。謎に包まれた制作陣に、全世界からの興味関心が集まっていた。って感じのことを興奮気味に友人が言ってた。ようは有名なシミュレーションゲームどころか軍のなんとかよりもずーっと凄かったので、みんな興味津々だったんだって。


 そんなマイナリを作っちゃったという神様は、双子の片割れ(同時に発生したんだって、それってつまり双子だよね?)がちょっかい出してめちゃくちゃになった作りたての世界にテコ入れすべく、とっくに安定したこの世界に顔を出したのだという。

 双子の片割れはアレだ、めちゃくちゃになった後の異世界を模したというマイナリで「不和と混沌を齎す醜く悍ましき邪神」とかって表現されてた魔王サイドのアレ。……もしかして神様、片割れさんにかなりおこなの?


 まあともかく、神様というものは安定した世界にはいくらでも手出しできるけれど、作りたての不安定な世界に直接干渉すると壊してしまうとか何とかで、この世界から異世界に転生してめちゃくちゃになった世界を正すお手伝いさんを募集しているらしい。

 お手伝いさん達には神様の力をちょっとだけ分け与えて、いわゆるチートって状態で異世界に転生させるんだって。すでにBP(バトルポイント)ランキング上位のプレイヤー(つまりめっちゃ強い人達)何人かの協力を取り付けて、とにかくモンスターを倒してもらっているみたい。

 モンスターは片割れさんが勝手に作った存在なので、神様が世界を創ったときにはそんなモノと戦う予定のなかった元々の住人さんたちは戦ってもあんまり勝てないらしい。そもそも魔法も魔素も片割れさんが勝手に付け足したせいで、元々の住人さんたちとはめちゃめちゃ相性が悪いのだとか。

 目を白黒させながらも何とか話を飲み込んだところで、神様がにっこり笑いかけてくる。


 

「ということで、今回はゲームで農家として活躍していた君にオファーを持ってきたわけだ」

 

「おふぁー……」

 

「モンスター対策はかなり仕上がって来たんだけどね、そしたら人口増えちゃって。

 魔素のせいで作物が育たなくなって、農業はまだまだ発展してないから、食糧事情が……ね?

 今なら特典だって付けちゃいます。どうかな、異世界で農民、やってみない?」


 確かに、死んじゃって行き場をなくした身にとって、かなり魅力的な提案だ。それでも引っかかるものがあって、なかなか素直に頷けない。それは純粋な疑問だった。


「ぼく、別に農業に詳しいわけでもないし、あまり貢献出来そうにないけれど、なんでぼくを選んだんですか?」


「君の活動が目立っていたからだね。ゲーム内で生産された食料、君の所の農場が2割を占めていたでしょう? 特に農作物なんか、半分以上」


 神様の言葉に、畑はむぐぐ、と唸った。そうだけど、そうじゃないのだ。

 確かに、マイナリの中で畑はプレイヤー最大規模の農場を経営していた。とは言っても畑が凄いと言うわけではなく、とっても優秀な友人達の助けがあったこと、そもそも『農民』という職業を取っているのが同時接続プレイヤー数約800万人の中でたったの0.18%、簡単に数えて1.5万人しかいなかったことが大きな要因だと思われる。


 なんと言ってもこの職業、びっくりするほど不遇職なのだ。

 スキルというものを覚えない上に、職業専用の能力もない(正確に言うと、「大地を耕すことが出来る」というのが専用能力である。具体的な内容としては、農具を装備できるだけ。ほかの生産職だって戦闘用の能力があるのに…)。体力だけはひたすらに伸びていくが、他のパラメータはちっとも伸びやしない。そんなものだから、レベルだって全然上がらないのである。

 なぜって、『農民』の本業である農作の作業ではレベルが上がらないから。他の職業の料理でも鍛冶でも錬金でも商売取引でも経験値が入るのに、何故か農作の経験値は驚きのゼロ。へなちょこステータスでモンスターに挑まないとレベルが上がらないのに、レベル制限があるので強い武器は使えない。詰み、と言うやつだ。


 そもそも職業というのは、レベル50にならないと解放されない要素である。

 レベル50って、結構キツい。レベルをそこまで伸ばすのに、毎日ゲーム機の使用制限時間ギリギリまでレベル上げしても2週間はかかる。最速ナンタラ!みたいな動画を投稿してる人たちの最高記録でも6日かかってる。「ゲームは1日1時間まで」なんて言われたなら、1ヶ月かかったって届かないだろう。


 そうやって頑張って育てたアバターは、選んだ職業の適性スキルや適性パラメータなんかを引き継いで初期化される。適性以外はチュートリアルの時と同じ初期値にまで戻されるのだ。転職だったらボーナス値の引き継ぎとかもあるみたいだけど、最初のジョブチェンジにそんなものはない。だから、職業に就くととても損をした気持ちになる……。じゃなくて、それでも職業適性のパラメータはぐんぐん伸びるし、スキルもバンバン覚えるし、職業それぞれの恩恵がある。職業ごとにギルドもあるし、それぞれにあった優待が受けられる。

 さらに上級職に上がると、どでんとステータスが様変わりする。スキルの強さも変わってくるし、特殊能力なんてものも手に入る。最上級職(現時点)の人達なんかもう、いわゆる「格」が違うらしい。その中でも特に強いBPランキング上位者達は、ワールドボスを単騎撃破しちゃうんだとか。キラーラビット(最初の街の周りで一番弱いからモンスター最弱って思われがちだけど、実際の最弱はリトルワーム)と遭遇したら死を覚悟する『農民』には、ちょっと想像のつかない話だ。


  そして肝心の『農民』の適性パラメータはお察しの通り、体力だけ。前述の通りスキルは一切覚えないし、上級職だって存在しない。なんか他の職業とまったく仕様がちがう。このゲームの「うまみ」がぜんぜんない。せっかくゲームの世界に入れるのに、ずーっと弱いままで冒険も(しいては観光も)何も出来ないし、なにより魔法を含むスキルが使えない(マイナリでは魔法もスキルの一種なのである)のはとてもキツいマイナス要素だ。

 だから、この職業を選ぶ人間は結構限られる。


 でもいくら条件が厳しかったって、農作をやりたい人はたくさんいるだろうし、選ぶ人は選ぶだろうって思うよね。でも『農民』のひどさはここからが本番なのだ。

 

 なんとこのゲームの農具、とっても古くさいと言うか、洗練されてないと言うか、子供の描いた絵みたいなフォルムの、昔話にでも出てきそうな道具しかない。神様がさっき言った、農業が発展してないという言葉の通りである。

 しかも見た目通りの性能しかない。一鋤きで広範囲を耕せるとか、一撒きで全部に水がいくとか、一振りで全て刈り取れるとか、そういう便利な機能は一切ない。

 スキルだって覚えないんだから、魔法で耕したり水を巻いたり刈り取ったりも出来ない。

 土地によって育てられる作物はかなり限られるし、品種改良なんて当然全く進んでないので、育てるのもかなり難しい。なんと化学肥料どころか、そもそも肥料が存在しない。

 総合して、農作業が現実よりもずっとキツいのである。


 そしてそんな畑事情の中で頑張って作物をこさえても、手に入るのはほんのわずかなのである。

 なぜって?

 とても簡単に手に入る大量の餌を求め、モンスター達が押し寄せるからだ。肉は魔物同士で争えば簡単に手に入るけど、果物を含む作物はなかなか難しいみたいで、わざわざ畑までやってくる。植物系モンスターが少なくて、分布が局地的なのが敗因なんだな。それに、畑の作物は全部食べ尽くしたとしても人間がまた育てるので、遠慮なく食べてもまた手に入ることが約束された作物の宝庫なのである。ときにはスタンピードにまでなるモンスターの群れには貧弱な『農民』では到底叶わず、作物は見るも無惨に食い荒らされる。かなしい。

 国が派遣してくれる防衛戦力、畑守(時と場合によって騎士だったり兵士だったり冒険者だったり色々なNPC)が奮闘してくれるものの、そもそもモンスターとまともに戦闘できるNPCがめったにいないので焼け石に水なのだ。


 じゃあ、他の職業で畑を耕せばいいじゃないかと思うのは、至極当然の流れだと思う。戦闘職だったら、襲いくるはらぺこモンスター達だって楽々相手にできるだろう。

 しかしこれもだめなんだな。なぜって、職業『農民』以外は畑を借りられないからである。正しく言うなら、畑にする用の土地。

 マイナリでは食料は貴重で、魔物からも手に入る肉はともかく、魔物に食い荒らされる作物はことさらに重宝される。なので作物を育てる土地はモンスター達の襲撃に備え、居住区からは遠いものの それでもモンスターの数が少なく、なるべく守りに適した土地が選ばれる。しかも国がタダで派遣してくれる防衛戦力付き。つまりめっちゃいい土地なワケだ。そんな農業用の土地を別のことに使われては困るため、どうせ農業以外にやることない、農業以外出来やしない『農民』にしか土地を売らないのである。

 あと、貴重な戦力は貴重な戦力で大人しくモンスターと戦っていろという話。ゲームでは自由に職業を選べるが、どうやらフレーバーテキスト的には本来適性で決まるものらしいので。ついでにフレーバーテキスト通りなら、『農民』以外は大地に鋤を突き立てられず、蒔いた種は実らないらしい。スキルの代わりに農業ができるようになる特殊ぱぅわぁを手に入れられるという設定なのだ。まぁ、ゲーム内でも『農民』以外は農具を装備できないもんな。

 ……この設定が現実だとすると、よく考えなくても食糧事情が悲惨そうなのが想像出来る。食事が重要じゃないゲーム(娯楽)の中じゃ「農業しかできない『農民』」だったけど、異世界(現実)じゃ「『農民』しかできない農業」になるわけだから。なるほど、わざわざ別の世界から農民を引っ張ってこようとする訳だ。


 そんな『農民』を支えるギルドはこう、他の職業と違って重厚な歴史を感じさせたり、煌びやかな威厳を感じさせたりしない、地域の寄合って感じだし、受けられる優待は農業関連の購買だけ。まあ、『農民』しか買わないから割引とかもないわけだ。強いて言えば、お国への畑守申請手続きはここで受け付けてるから、それが優待といえなくも、ない……?

 ともかく、年中通して賑わってるとはいえない。言い方は悪いけど……ちょっと しょぼいよね!

 

 まぁそんなこんなで、ほのぼの農場生活を夢見て、現実リアルより なおひどい現実仕様に直面し、夢破れて去っていくプレイヤーがとっっっても多いのである。まともなプレイヤー人間はこんなゲームとこで農業するより、まともな農業シミュレーターや農場経営系ゲームに移るってワケ。

 

 そんな状況で畑が農場を続け、拡大出来たのは一重に友人達のおかげだ。

 畑の苦境を面白がって、やれ俺がもっといい農具を作って見せようじゃないか、それ市場で見つけた小魚なんて肥料にいいんじゃないか、確か骨も肥料になったろうって、ちょっかいもとい協力してくれたのだ。

 流石にキツいし、ちょっと辞めようかなぁ、なんて考えていた畑も、ノリノリの友人たちを前に「やっぱやめます!」とは言い出せなかった。

 

 畑が振れるような低レベルの農具は作れなかったし(オリジナル設計の装備は基本高レベルになる。そして要求レベルも高くなる。そうして農具の発展への道は閉ざされる……)、小魚は異臭を放つばかりでぜんぜん分解されてくれなかったし(1ヶ月経っても骨は消えなかった。仕方が無いので土を入れ替えた)、魔物の骨を砕いて混ぜた畑から植物系モンスターがわらわら生えてきて凄いことになったりもした(提案したご本人が3秒で燃やし尽くした)が、畑に混ざる邪魔な石たちをなんかすごいスキルでこう、ぐわっと全部チリにしてくれたのはとても助かった。アレ全部、本来なら手作業で取り除かなきゃいけないから。

 何より、収穫期に押し寄せるモンスターの群れをこう、なんかホコリでも舞ってたかな? みたいなノリでひょいひょい殲滅してくれるのが素晴らしい。最高である。さすが我が友、愛してる。持つべきは色んな職業についた強い友。

 そんなこんなで、畑はけっこう楽しい農場ライフを送れたのである。やっぱ農民って最高だナ!

 ……『鍛冶師』や『商人』、『料理人』でも戦えるのに、なぜ『農民』だけしょぼいのか。それだけはちょっと納得がいかないけれど。

 

 最終的に、いつの間にか特殊職業『領主』になっていた友人が紹介してくれた農民NPCたちを雇って(何か複雑な手続きが必要だったけれど、全部友人がやってくれたみたい。とてもありがたい)、畑の農場はずいぶんと大きくなった。

 それにつられて襲撃モンスター達もスタンピード規模が押し寄せることが増えたけれど、収穫期には冒険者ギルドに依頼を出し、大量の冒険者を雇ってイベントばりのモンスター撃退戦線が組めるだけの稼ぎも得たのである。というか、逆にモンスター撃退戦線を組むから農場の巨大化を許された節がある。本来、NPCを雇うという選択肢は存在しないはずなので。ともかく、『領主』になった友人も、領が負担する派遣の警備費が減るからとどんどん農民NPCをよこしてくるので、農場はどんどん大きくなった。

 それが畑が目指した理想の農作生活か?と聞かれると返答に困るけれど。だって、コレはこれで楽しいが、まったくほのぼのしてない。


「まぁ、つまり、ぼくの農場が大きかったのは、ぜんぶぼくの力じゃないわけです」


 ぼくの長ったらしい話をにこにこ聞いていた神様が、ウンウンと頷いて大丈夫だよ、と言った。


「それでも構わないよ。そういうのも全部分かっていて、君に目を付けたんだから」


「じゃあなんで……」


「君の気に入ったところはね、周りの人間を動かす力だよ。

 君自身に何が出来るかなんて、あまり関係ないのさ」


「ぼく、人を動かす力なんて持ってませんよ?

 神様が望んでるようなこと、できるとは思えないけれど……」


「それでもいいんだよ、勝手にそう思って期待してるだけなんだからね」


 神様をじっと見つめる。神様はにこにこ笑っている。行きつけの病院の医者先生みたいな得体の知れないニコニコじゃなくて、死んじゃったおばあちゃんがぼくを見てる時みたいなにこにこだ。

 ぼくはほぉーと息を吐き出し、モジモジと指遊びしていた手を解いて膝をぱんっと叩いた。

 

「そうなんですね……

 神様がそれでも良いとおっしゃるなら、ぼくはやってみたいと思います」

 

「そうかい、やってくれるかい! ありがとう!」


 神様がぱあっと笑う。ウ、まぶしい。


「それじゃあお礼にどんな特典をつけようか。

 そうだな、条件付きにはなるけれど、ステータスやアイテム、所持金と……そうだね、ゲームと場所は変わるだろうけど土地付きの家、君で言うなら農場付きでプレイヤーデータをそのまま付けてもいいし、なにか他にまったく別のチート能力が欲しいなら、それでもぜんぜん構わないよ! 無限に湧くお金? 尽きない魔力? 息するだけでレベルアップできる特典が欲しいって言った子がいて、それを聞いた他の子達も欲しがってたよ。豪運が欲しいって言ってた子もいたね。そういえば人間って不老不死とか好きだよね? あ、それに─​──────」


「ゲームデータが良いです!

 人生で1番ってくらいにやり込んだ農場を持っていけるなら、とっても嬉しい!」


 また一から、しかも友人達の力も借りれない状況であの畑を耕すのか、とゲンナリしていたところだったので、ぼくは飛び上がるほど喜んだ。

 ステータスがそのままってことはレベル上げして職業を得なくても『農民』からスタートできるってことだし、なけなしの所持金(設備を一新したばかりなので、本当にお金が残ってない)もないよりはあった方がいい。それに、友人達が「ボックスの整理のため」「あまりもの」「もう要らないやつだから」と色んなアイテムを分けてくれていたので、アイテムがそのままなのも結構うれしい。

 うっかり不老不死なんか貰っちゃったら堪らないから、畏れ多くも神様の言葉を遮るように最初の話に飛びついた。話の続きが気になるような怖くて聞きたくないような。

 神様は特に気を悪くするでもなく、一瞬小首を傾げるとにこっと笑った。


「ん? なるほど、人生で1番やり込んだ農場ね。

 分かったよ、ちゃんとしっかりつけておくからね」

 

「ありがとうございます!」


「いやいや、こちらのセリフさ。

 私の世界を選んでくれてありがとう。良き人生を!」


 


 そうしてぼくは異世界、マイナリーナに生まれ変わったのだ。

  

 

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