莉奈とサトちゃん

夏目 漱一郎

第1話1

 ハッキリ言って、アタシのお父さんはダサイ。

顔がイケてないのはモチロン、お腹も少し出ててデブってるし、やる事がいちいちオヤジ臭いし、ネクタイのセンスとか最悪だし。


 いつかお母さんにアタシが訊いた事があるんだ。

『お母さんは、どうしてお父さんなんかと結婚したの?』って……

そしたら、お母さんは笑って言ってた。


「お父さんもね、昔はあんなにお腹出てなかったのよ。それにね、お父さんが他の誰よりも、一番お母さんの事を愛してくれたから…

女はね、なのよ」


♢♢♢


 アタシは雨宮有希あまみやゆき、歌舞伎町でキャバやってる。

お店での名前は『莉奈』。自分で付けたんだけど、カワイイ名前でしょ?


 キャバのお仕事は、時給はいいんだけど結構大変。遅刻、無断欠勤は罰金だし、指名獲らないと店長に怒られるし、体触ってきたりするとかいるし、髪とかネイルとかドレスとかお金かかるし……だから結構大変。


 今日は出勤の日で、今アタシが付いてるお客さんはサトちゃん。

って呼んでる。


 最初は二か月位前に、ナントカって会社の歓迎会の二次会とかで、五人で飲みに来たんだけど、それからは時々一人で飲みに来てくれて、アタシを指名してくれる。

莉奈情報では、サトちゃんは33歳で独身。趣味は映画鑑賞と読書。


それに、いい人。体触ったりとかしてこないし、酔っぱらって絡んだりとかしてこないし、だからいい人。


 少しデブってて、服のセンスとかちょっとダサイけど、いい人。

サトちゃんに付いてると、すごく楽だし、楽しい。

莉奈もから、話も合うかも。



♢♢♢



 キャバは話題が大事。

サトちゃんは映画が好きだから、今日は映画のお話しよう。


「ねえ、サトちゃん。アタシこの間、TSUTAYAに行って前に映画借りようとしたんだけど、その映画のタイトル忘れちゃったの!あれ、何て名前だったっけ?」


「僕が好きな映画?…ハテ? 色々あるけど、どの映画だろうな?」


「アレだよ、アレ!」


ねえ……」


「もぉ~~~! ほらっ、前に言ってたでしょ? 刑務所の話でのやつ!」


「トムヤンクン?……」


サトちゃん、すぐに思い出せないみたい。だけど、この前言ってたんだよ?『トムヤンクン』が好きだって。









「もしかして、の『グリーン・マイル』の事かな?」


「そう、ソレ! やっと思い出してくれた~~!」


あれ?なんか、サトちゃん笑ってる。『グリーン・マイル』って、コメディの映画なのかな?今度、絶対借りてみよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る