デュエリストしかいない乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのだけれど「カードゲームではよくあること」よね!?

秋野てくと

第一章《階級制度》

開幕! 破滅のデュエル

決闘デュエル


それは決闘者デュエリストによる魂と魂の激突。


カードに託したプライドに賭けて、決闘者デュエリストは対戦相手へと全力をぶつける。


勝者は栄冠を手に入れる。

敗者は苦渋と汚辱にまみれる。


ましてや、これから開幕する決闘デュエルはただのカードゲームではない。


敗者はこの「学園」から退学するという賭けが交わされた――アンティ決闘デュエルなのだ。


侯爵令嬢ウルカ・メサイアは、美しく整った唇を歪めて陰険に笑った。


「『光の巫女』だかなんだか知らないけれど――たかが平民の小娘が、このわたくしに勝てると本気で思ってるのかしら?」


『光の巫女』と呼ばれた少女、ユーアはその視線を正面から受け止める。


「ウルカ様こそ……あなたも決闘者デュエリストの端くれならば、決闘デュエルに賭けたアンティを違えるような真似はしないでくださいね。もし私が勝ったなら、退学するのはウルカ様の方です!」


「なっ……このわたくしが、端くれですってぇ!?」


気色ばむウルカを、金髪の青年がなだめた。


「落ち着きなよ。彼女も君も決闘者デュエリストなのだから、これ以上は言葉は要らない。そうだろう?」


「アスマ……。そうね、これからたっぷりとわからせてやればいいだけだわ」


ウルカは煌びやかな装飾が施されたガントレット型の決闘礼装を装着した。


対するユーアも、無機質なグローブ型の決闘礼装を装着する。

こちらは装飾らしい装飾もない、武骨な礼装であった。


ユーアの礼装を一瞥したウルカは、鼻で笑った。

あれは「学園」から無償で支給されるものだ。

とはいえ、実際には使う生徒はほとんどいない。


「学園」の生徒の多くは貴族の子女であり、いずれも個人用にカスタマイズされた礼装を自前で用意してきているためだ。


オーダーメイドの礼装も用意できない平民の娘など、伝統ある「学園」に相応しくない。

戦う前から、すでに勝敗は決している――ウルカは内心で舌なめずりをした。


金髪の青年は横目でウルカの様子をうかがい、ため息をつく。

かぶりを振って、平民の少女に視線を向けると――青年は驚き、目を見開いた。


「学園」に入学したばかりで、まだアンティ決闘デュエルの経験もないであろう、みすぼらしい平民の少女は――それでも懸命に目の前の決闘デュエルに立ち向かおうとしていた。

華奢な身体つきからは想像もできないほどの闘志が少女からほとばしるのを、青年は決闘者デュエリストの本能によって感じ取った。



奇しくも青年とウルカの見解は一致することになった。

ただし、どちらが勝つかといえば……。


「……面白いエキサイティング


「うふふ。さぁ、アスマ! 決闘デュエル開始の宣言をしなさい!」


一方、ウルカの方はユーアから何の脅威も感じていない様子で能天気に笑っている。

彼女に応えて、アスマと呼ばれた青年は声を張り上げた。


「アルトハイネス王国・第二王子――アスマ・ディ・レオンヒートが立会人を務める。互いの決闘者デュエリストは、決闘デュエルに賭けるアンティを宣誓せよ」


「ウルカ・メサイアが宣誓するわ。

 決闘デュエルの勝者は敗者に対して王立決闘術学院アカデミーからの即刻退学を命じる権利を持つ!」


「……ユ、ユーア・ランドスターが宣誓します!

 えっと……」


戸惑うユーアに、アスマが助け舟を出した。


「同じ条件の場合は、同意の意思を示すだけで大丈夫だよ」


「ありがとうございます!」


「ちょっとアスマ、あんたどっちの味方なのよ!」


アスマはバツの悪そうな様子で頬をかく。

あらためてユーアが宣誓した。


「ユーア・ランドスターが宣誓します!条件は、ウルカ様に同意です!」


「OK。立会人は両者のアンティを確認した。それでは、これよりアンティ決闘デュエルを開幕する!精霊は汝の元に、牙なき身の爪牙となり、いざ我らの前へ!決闘者デュエリストよ、互いのプライドをカードに宿せ!」


――ウルカとユーア、二人の決闘者デュエリストが対峙する。

その声は一つとなりて響いた。


「「決闘デュエル!!」」



☆☆☆



今のは――。


『デュエル・マニアクス』だ。


『光の巫女』である主人公ユーア・ランドスターが、自らに因縁を付けてくるイジワルな悪役令嬢にアンティ決闘デュエルを挑まれる……。


そうだ、これは。



『デュエル・マニアクス』。

それはブーメランと空手……じゃなくって、カードゲームと乙女ゲームを組み合わせたまったく新しいゲーム。


カードゲームアニメが大好きな私は、たしか友達に「面白い乙女ゲームがあるよ」と聞いてプレイを始めたのだ。


ゲームの中で、プレイヤーは『光の巫女』ユーア・ランドスターとなり、様々なイケメンデュエリストたちと恋や友情を育んでいく――そうだ、私は乙女ゲームを遊んでいたはずなのに。


ぼんやりとした意識が覚醒していく。


まるで長い夢を見ていたよう。


夢が覚めるように、世界は急速に現実感を取り戻していく。


そうして――振り子ペンデュラムのように揺れる「わたし」の精神は、悪役令嬢ウルカ・メサイアの精神と接続リンクし、二つの異なる人格は、まるで初めから一つの構築物であったかのように融合フュージョンしていく……XYZエクシーズを問う暇もなく――まるで馬鹿馬鹿しい儀式リチュアルかなにかのように……高次の意識へと次元上昇アドバンスしていく――そうして、気づくと……「わたし」は『デュエル・マニアクス』の世界へと同調シンクロしていた。


「おはようございます。『デュエル・マニアクス』へようこそ」



☆☆☆



「……ウルカ。先攻は君だぞ。早くファースト・スピリットを召喚するんだ」


アスマの声で意識を取り戻す。


あれ、ここはどこ?

私はだあれ?


私は周囲の様子を見て――息を呑んだ。


ひたすらに高い天井。

頭上を見上げると、首が長いキリンでも頭がつかないほどの広大な空間に、豪奢なシャンデリアが燦々と輝いている。


見渡すかぎりの一面が鮮やかな金と紅の装飾に染まった大広間の中では、大勢の視線が私に注がれていた。


いや、私だけではない。


周囲の生徒たちの視線は私と――目の前で対峙する少女、ユーア・ランドスターに向けられていた。


「ファースト・スピリット、《聖輝士団の弩弓兵》を召喚します!」


真っ白な鎧に身を包んだ美しい少女兵士が、ユーアの傍らに出現する。

まさか、これは――。


私は左腕に装着された、籠手のようなものに目を落とす。

ギラギラに光る宝石が埋め込まれてて、まるでアレだ……『アベンジャーズ』の映画に出てくる、指パッチンしたら世界の半分の命が消えちゃうアレみたいなやつだけど……。


それに手を近づけると、一枚のカードが飛び出して右手に収まった。



私はここで何を言うべきか知っている。なぜなら――


「ファースト・スピリット、《エヴォリューション・キャタピラー》を召喚するわ!」


これは『デュエル・マニアクス』第一話のチュートリアル決闘デュエル


このチュートリアルで悪役令嬢ウルカ・メサイアは主人公のユーアちゃんに敗北し、「学園」を退学することになるのだから!


決闘礼装から投影される三つの魔法陣の一つ――そこにカードを配置すると、スピリットがメインサークルに召喚される。

チューチュー、と可愛らしい鳴き声をあげる芋虫のスピリットが傍らに出現した。


どうやら、始まるようだ。


私の敗北が決定している、破滅のチュートリアル決闘デュエルが!


「戦う前から負けることがわかってる決闘デュエルなんて……カードゲームではよくあること、かしらねぇ!?」

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