第8話 ピンチ
その後も悠人が数秒間、和花に抱き締められたまま黙っていると。
「えっと、兄さん?」
和花にそう声を掛けられたので。
「えっ、あっ、ああ、どうした和花?」
悠人がそう聞き返すと。
「えっと、ですから私のお願いをもう一つ聞いて欲しいと言ったのですが、その返事を聞かせて貰えませんか?」
悠人の腰に抱き着いたまま、和花が遠慮がちにそう聞いて来たので。
「えっ、ああ、そうだな……和花には日頃から世話になっているから、俺に出来る事なら可能な限り聞いてやろうと思っているぞ」
悠人がそう答えると。
「そうですか……それなら兄さん」
そう言って和花は一度言葉を切ってから、数秒間黙った後。
「……えっと、兄さん、私と」
頬を赤く染めて和花が何か言おうとすると。
「ピンポーン」
唐突に家のチャイムが鳴ったので。
「……えっと、和花、誰か来たみたいだぞ」
自分に抱き着いている和花にそう言ったのだが。
「気のせいですよ、それより兄さん、私のお願いですが」
そう言って、和花は言葉を続けようとしたのだが。
「ピンポーン」
数秒経つと再びチャイムが押されたので。
「えっと和花、玄関に行きたいから、そろそろそこからどいてくれないか?」
悠人が和花に向けてそう言うと。
「……分かりました、でも、来客の対応は私がするので兄さんはここで待っていて下さい」
和花は少し不機嫌そうな表情を浮かべながらそう言って、悠人の上から降りると。
そのまま悠人の部屋を出て玄関へと向かったので。
「……ふう、やっと解放された」
悠人はそう答えたが、その後直ぐに。
「あれ、何か大切なことを忘れているような……」
悠人がそんな事を思っていると、暫くして和花が部屋に戻って来た。そして、
「兄さん、兄さん宛に荷物が届きましたよ」
段ボール箱を両手に持った和花がそう言ったので。
「……ああ、そうか、ありがとう」
そう返事をしたが、悠人は内心冷や汗をかいていた。
しかし、段ボール箱の中に入っているモノの事を考えるとそれを和花に悟られる訳にはいかず、悠人はゆっくりとその場で立ち上がると。
「えっと、そのじゃあ和花その荷物をこっちに渡してくれないか?」
動揺を悟られない様、あくまで冷静な口調で悠人はそう言った。すると、
「ええ、分かりました、ところで兄さん」
「……何だ?」
「この段ボールの中には一体何が入っているのですか?」
和花は当然の疑問を悠人にぶつけて来た。
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