食事と配膳

さて、午前中は色々あったがそろそろ利用者さんの食事の時間だ。デイサービスでは施設内でお昼ご飯の提供される。管理栄養士が栄養を考慮して献立を作る。そして、調理師が調理する。


『さて、実習生のみんなこれから利用者さんの昼食の時間です。みんなには昼食の配膳をしてもらいます。まずは職員さんが配膳しているところ見学してから配膳してみましょう』

『はーい』

各々職員さんのそばについて見学をする。職員さんが、お盆に乗った食事を大きい配膳車の中から一つ一つ丁寧に配膳している。思っていたより簡単そうだ。これなら僕にも出来そうだ。


『すみません。僕も配膳してみてもいいですか?』

『もう覚えたの?出来そうならやってみようか』

職員さんの了承が取れたのでやってみよう。


まずは、配膳車からお盆を取る。そして近場にいる利用者さんの元へ運ぶ。簡単だ。問題なく出来るな。

『ちょっとちょっと君。適当に配膳しちゃダメだよ!』

えっ?適当?ちゃんと配膳出来たつもりだったけど間違ってたのか?

『すみません。間違ってましたか?』

『配膳自体は間違ってないけど、ちゃんと名前を確認しなきゃ』

『・・・名前ですか?』

『そう。名前。お盆に名札が付いてるんだけど確認した?』

『名札。すみません。確認してませんでした』

『まぁ、まだ利用者さんも食事に手をつけてないからよかったけど、次からは名札を確認して利用者さんの確認も忘れないでね』

『あの、すみません。なぜ同じ食事なのに名札が付いているんですか?』

『そっか。初めての実習だから見たことないか。確かにほとんど同じ献立なんだけど、実は利用者にやっては多少の違いもあるんだよ』

献立に違いなんかあるのか。ほとんど同じな気がするけどな。

僕は配膳車の中に入ってる食事を見てみた。お盆によってはご飯の量が少ない物、小鉢が一つ少ない。それに、あのお盆に乗ってるのはお魚の原型がなく身がほぐれた状態だ。

『分かったかい?お盆に乗っている食事も違いがあるでしょ』

『はい。なぜ違いがあるですか?』

『じゃあまずは名札を見てみようか』

名札?名前が書いてあるだけじゃないの?

職員さんが名札を持ってきてくれたので見てみる。

ん?なんだ?名前だけじゃない他にも何か書いてある。○印に禁?他にもカロリーとかも書いてある。他には、食事形態キザミ食。なんのことだろう。違う利用者さんの名札も確認したが、書いてある事は違う。

『気が付いた?書いてあること違うでしょ?』

『はい。名札毎に書いてある事が違います』

『そう。簡単に説明すると、○印に禁って書いてあるのが、その人には提供してはいけない食材のこと。食事形態は普通食、ギサミ食、ペースト食が一般的かな。普通食は君たちが普段食べてるような食事。キザミ食は包丁とかで刻んだ形態。ペースト食はミキサーでペースト状にした形態の事ね』

あの小さい名札にそんなに情報が書いてあるなんて。勉強不足だ。

『他の施設でも、多少の違いはあるけど大体は同じだから覚えておいた方がいいよ』

『わかりました。ありがとうございます。これからも勉強します』

配膳でも正しい方法があるんだな。利用者さんの名前だけじゃなくて、注意事項があるのか。気をつけないとな。

『もし、他にも注意事項を知りたいなワーカー室に介護士が、毎朝チェックするノートがあるからそこに書いてあることもあるから確認してみるといいよ』

介護さんが丁寧に説明してくれたから次から自分でもやってみよう。その為にもノートの確認もしなきゃな。

『話が長くなっちゃったね。君も他のお友達とご飯食べておいで、今日は初日だからゆっくり休憩してきな』

『ありがとうごさいます。お昼食べてきます』

介護さんにお辞儀をして、ワーカー室に行く。中には見慣れた友人たちが居た。

『おー、涼。遅かったな。先に食ってるぞ』

カントだけじゃなくて他のみんなも各々昼食をとってる。僕も早く食べてゆっくりしよう。午前中だけで相当体力使ったからな。午後も頑張らなきゃな。



『うちの馬鹿者はここか?』

休憩室の入り口の方から声が聞こえてくる。だけど、どこか聞き覚えのある。

みんなが声が聞こえた方に視線をやる。

・・・多田先生だ。

『お前たち。ちょーっとこっちでお話をしようか』

『・・・はい』

多田先生の笑顔不気味だ。

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