寝ぼけ頭の半夜

葱巻とろね

とある学生の夜

 カクヨム:淡雪 Twitter:呂尚 (敬称略)の短歌からです。


 令和4(2022)年4月23日

 お題125『付箋に暗号』-「付箋に謎の文字」

 1:これ、なんと?

 これは何?

 何を伝えたいのか

 分からない

 暗号化した

 ふにゃふにゃ文字


 ___________________________ 


 午前1時43分。勉強机に暖色の光が灯っている。ノートやワークはその光を反射し、問題を解いてと言わんばかりだ。先程までスマートフォンの光を浴びていた私にしてみれば、鬱陶うっとうしくて仕方がない。しかし、進級して初めてのテストが明日に控えている。


 これからの一年に爽快なスタートダッシュを決めよう、とクラス替え当初は意気込んでいたのに、今はこんな有様だ。新作のゲームが出たのが悪いのであって、私は勉強に対するやる気はあった。そのやる気はすべてそのゲームに吸われてしまった。だから、新作のゲームが悪い。


 だめだ。思うように頭が働かない。自分の言葉が支離滅裂に感じる。抱き合って動かない手とペンを別れさせて、身体を椅子の背もたれに預ける。足で床を蹴れば、一人コーヒーカップの完成だ。景色が足早に変わる。椅子がヒキヒキと、孤独な部屋で回る私を笑っている。


 数分後、回りすぎて頭が痛くなってきた。目が覚めるかと思ったが、逆効果だったようだ。


 午前2時11分。時計がカチコチと私に勉強しろと小突いてくる。脳内が霧でかすんだ私は自然と机に向かった。卓上にはノートとワークが付箋でおめかしを楽しんでいた。右手とペンを再会させる。二人は柔らかく抱き合い、喜び合い、ダンスを踊る。二人だけの舞踏会は綺麗な紙に影を落とした。


 しばらくして、ペンが音を立てて倒れた。それは転がり、奈落ゆかしたへ落ちる。私は重要なことを思い出した。


 明日、入部届の締め切りだ。


 私の学校では進級と同時に入部届を出し直すことになっている。本来の締め切りを過ぎてしまった私は、顧問に頭を下げて期限を明日まで延ばしてもらったのだ。


 急いで入部届を探す。その日の授業に必要のないものは近くに積み上げて生活をしていたからか、机の端には山積みのプリントがあった。私は紙製の山を少しずつ切り崩し、一枚一枚確認する。ない。ない。これではない。入部届がどこにもない。


 背中に冷汗が垂れる。心臓の鼓動が早まる。明日までに見つけないと帰宅部になり、他の学生リア充の青春に嫌悪羨みを示しながら帰ることになってしまう。力の入った手が一枚の紙をつかむ。それは蛍光色の付箋が貼られていた。


『入部届』


 プリント上部に書かれた文字を見て目を丸くした。あった。私はプリントを両手で掴み、頭部に掲げた。時計を見ると午前3時になろうとしている。時間を確認したからか、極度の緊張から解放されたからか、強い眠気が襲う。瞼を下ろそうと必死で、抗えない。


 大丈夫、書くべきところは書いた。あとは印鑑を押すだけだ。


 最後の力を振り絞り、端がくしゃくしゃになった付箋に鉛筆で『いんかん』と手の感覚だけで書く。私は卓上で力尽きた。


 ____________________________


 どこからかリズムの良い、乾いた音が聞こえる。頭を上げたときに見えた光景は散らかった机に4月23日木曜日の表記。横には午前7時47分と書いてある。そこから導き出せる答えは……遅刻だ。急がなければ学校に遅刻してしまう。しかし、何か忘れているような気がする。寝ぼけた頭で目に留まった蛍光色の付箋を見る。


『L’~ゐ\~』


 ……暗号だ。入部届の付箋に暗号のようなふにゃふにゃした文字が書かれてた。何を書いていたか思い出そうと椅子から立った瞬間、足に激痛が襲った。何かを踏んだようだ。


 下を見ると、ペンが落ちていた。しかもご丁寧に尖った部品を上に向けてだ。足裏がじんじんと痛む。私を痛めつけてまで助けを乞うペンをうらめしく拾い、机に置く。うっすらと出た涙を拭いて、とりあえず支度をしよう部屋を出た。


 _____________________________


「すみません……印鑑を押してもらうの忘れてました……」


 テストも思うように解けず、顧問怖い鬼から『入部届に不備がある』と怒られた私は、この時から大事なものはすぐに取り組もうと誓った。





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寝ぼけ頭の半夜 葱巻とろね @negi-negi

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