07 ヴェルデス・プラーデスとエメラルドの花

 お昼前のクアランサ・セントロ駅。駅前の花壇はカリオワ族の人々が日々手入れをし、駅に来る人を迎えてくれます。


 決して規模の大きな駅ではありませんが、コロニアル様式に彩られた駅舎は、この街のシンボルとして親しまれています。


 ここから再び、アルヘンティオ・エクスプレスに乗って旅を続けます。


 クアランサの市街地を抜けると、風のそよぐ広大な平原、ヴェルデス・プラーデスに出ます。そこはまるで大地が緑の絨毯で覆われ、自然が奏でるシンフォニーが心地よく耳に響く場所でした。


 朝陽が昇ると、光り輝く露が草原を輝かせ、牛や馬がのんびりと草を食みながら穏やかな時間を過ごしています。ポトマコ・デル・リオ川の透明な水が、流れる音とともに自然の調べを奏で、その美しい風景はまるで絵画のように広がっていました。


 アマピンゴの木々は風に揺れ、優雅に踊るように美しい花を咲かせています。季節ごとに変わる彼らの姿は、ヴェルデス・プラーデスに繰り広げられる自然の息吹を感じさせてくれます。


 遠くに広がるシエラ・デ・コロラスの山々は、太陽の光を浴びて岩の質感が際立っています。この山々はまるで大地の守護神のように見守り、ヴェルデス・プラーデスに荘厳な雰囲気を与えていました。


 途中のヒメネス駅で、老夫婦が降りて行きました。ルンボリアに住むお孫さんに会いに行った帰りだと言います。


 お爺さんは、この辺りに古くから伝わる童話を教えてくれました。


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『エメラルドの花』


 昔々、このヴェルデス・プラーデスの地に、『エメラルドの花』と呼ばれる特別な花が咲いていたと言われています。この花は、どんな時でも美しい色を放ち、その香りは心を穏やかに癒してくれたと言われていました。


 ある日、小さな村に住む少女、アリアは、村の中心にある大きなアマピンゴの木の下で遊んでいました。その木の下には、エメラルドの花が一輪だけ咲いていて、その美しさに誰もが感動していました。


 アリアは毎日その花のそばで過ごし、その美しさに魅了されていました。しかし、花は不老不死の力を秘めていると言われ、人々はそれに触れないようにと忠告していました。


 ある日、村には災厄が押し寄せました。村の人々は絶望の中で、アリアはエメラルドの花に願いをかけました。すると、花は輝くような光を放ち、村に平和と幸福をもたらしました。


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「以来、ヴェルデス・プラーデスの人々はエメラルドの花を大切にし、その美と奇跡の力を讃えています。この童話は、私たちに自然と調和し、心を豊かにする大切さを教えてくれるものなんですよ」


 お爺さんは微笑みながらそう続けてくれました。そばで話を聞くお婆さんも、優しい眼差しで話を聞いていました。


 列車はそんな風景の中を、次の停車駅、クアナモンテへ向けて駆け抜けていきます。

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