10 アイシクルココア

 ここはエターナルスノーフォレスト。高い山々に囲まれ、周囲とは断絶された氷の谷です。驚くべきことに、ここは一年中冬で、雪が降っています。

 先程までの強い日差しから一転、あたりは銀世界に包まれています。



 11:45、エターナルスノーフォレストにある街の駅、アイシクルホーム駅に停車しました。


 アイシクル、つまり氷柱が光り輝く場所として、雪景色の中の温かな拠点がここ、アイシクルホームです。


 アイシクルホームの街中は、美しい氷柱の装飾が施された建物や道路が特徴的です。氷の輝きが光を反射し、街全体がまるで魔法のような輝きに包まれているような雰囲気です。家々の屋根や窓には魔法によって作られた氷の模様が彩りを添え、幻想的な風景を演出しています。


 アイシクルホームの住人たちは冷たい雪景色の中でも温かな心を持ち合わせています。地元の住人たちは共に助け合い、冬の厳しさに立ち向かうために団結しています。街の中心部には暖炉やカフェがあり、住人たちは集まっておしゃべりを楽しんだり、温かな飲み物を味わったりしています。



 ここの名物は駅にあります。プラットホームにある『アイシクルカフェ』では、温かいココアを飲むことができます。


 一年中、雪に包まれているアイシクルホーム、外の世界は真夏であっても、ここは極寒なため、寒い思いをする旅人も多くいます。


 訪れる人が少しでも暖めるように、地元の人たちが協力して作り上げたのが『アイシクルココア』です。


 アイシクルココアは、魔法のスパイスやハーブが使用され、通常のココアとは異なる風味を持っています。シナモンやバニラなどの香りが絶妙に調和し、飲むだけで心地よい温もりを感じることができます。


 特筆すべきは、ココアに氷の要素が組み込まれていることです。氷の結晶や魔法の粉末がココアに溶け込み、飲むたびに微かな冷たさと魔法の存在を感じることができます。これにより、アイシクルホームの氷の美しい風景とココアの温かさを同時に感じることができ、独特な体験が生まれます。


 ココアには個性的なトッピングが添えられることがあります。シロップで描かれた氷の結晶や魔法陣がカップの表面に浮かび上がり、見た目にも楽しむことができます。トッピングのデザインが異なる日もあり、訪れるたびに新たな魔法的なデザインが楽しめます。


 アイシクルホーム駅で味わう温かいココアは、寒くても美しい街の魔法と温かさを体験する一環として、旅人に楽しみと幸せを提供しています。



 ちなみに、ここアイシクルホーム駅ではどの列車も5分以上停まります。


 美味しいココアを味合うため?


 いいえ、除雪作業に余裕を持たせるため、ゆとりのある列車ダイヤになっているそうです。

 でも、乗客からすれば、そんなことは関係ありません。外が夏の場合、半袖姿で寒い寒いと言いながらアイシクルカフェまで走ります。そして、温かいココアを手に戻ります。

 おっと、ホーム上は凍結しているので、お気をつけて。



 アイシクルホーム駅を出てしばらく雪原を走ると、再び長いトンネルに入ります。


 トンネルを抜けると、今度はまた、真夏の太陽が出迎えてくれました。


 でも、景色が見えたのも束の間、結露で窓が一気に真っ白になります。トンネルに入る前に感じたヒーターの焦げる匂いは、いまでは冷房から出される空気に変わっています。


 エターナルスノーフォレストに行く路線は、冬はともかく、夏場は人間にとっても車両にとっても過酷です。

 そのため、このエンチャントスノー線では専用の車両を使い、過酷な環境に耐えているそうです。

 それでもすぐに傷んでしまうようなので、メンテナンスの方の苦労が伺えます。



 列車は夏の緑鮮やかな田園風景の中を走ります。

 この辺りでは主に小麦や大麦が栽培されています。これらの穀物はパンやビールの原料として使われ、ノイスターレ王国の重要な食糧庫としての役割を持っています。


 12:13、メドウヴュー駅に停まります。

 広大な田園地帯の中にある駅で、周囲には田畑が広がります。


 駅前にはここらへんで採れる作物を使った料理を食べられるレストランがあります。

 メニューは季節ごとに変わり、その時々の旬の味覚が味わえるとあって、リピーターも多くいつも繁盛しているそうです。


 夏の今、味わえるのはハーブ入りの爽やかなサラダや、多種多様な野菜をしようした夏野菜のラタトゥイユなどが楽しめます。

 屋外には、この季節限定でバーベキュー場がオープンしており、ジュージューと肉の焼ける音に加え、人々の歓声や喜びの声も聞こえてきました。

 小さな男の子が串に刺さった肉を美味しそうに頬張ります。その幸せそうな表情を見ると、こちらも嬉しくなりますね。



 メドウヴュー駅を出ると、周囲に住宅が増えてきます。停車する駅ごとに、お客さんの姿も増えてきました。


 遠くに大河が見えてきました。最初は湖のほとりを走り、森を抜け、雪国に出たと思いきや、広大な田園地帯に戻り、そして最後には大河を望みます。

 ダイナミックな車窓を見せてくれたエンチャントスノー線もまもなく終着駅です。


 12:58、定刻より5分ほど遅れ、終着のノーブルハーバー中央駅に到着しました。

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