09 エンチャント駅長“ミスティ”

 エンシャンティア駅から列車の旅を続けます。今度は10:39発の、エンチャントスノー線の普通列車に乗り、ノーブルハーバーへと向かいます。

 このエンチャントスノー線では、特別な車両が使われています。どんな車両でしょうか。


 プラットホームに行くと普通列車はすでに停車していました。スタイリッシュな4両編成の新型電車です。外観は赤いボディに白のモザイク模様がちょうど良く入っていて、前頭部は流線型になっています。

 車内に入ると中央付近が低床式で、バリアフリーに対応しています。両端の台車と連結器のある部分だけ高くなっていて、その前後には階段が設けられています。

 低床式の部分に2箇所の乗降用ドアがあり、その付近は跳ね上げ式の座席で、自転車や大型の荷物が持ち込めるようになっています。

 それ以外と高床式の部分はボックスシートが設置されていて、長距離乗車の場合も快適に過ごすことができるようです。


 さて、見たところ普通の電車ですが、どこが特別なのでしょうか。

 ホームにいたお婆さんに話を聞くと「それはね、乗ってみるとわかるよ」といたずらな笑顔で言われてしまいました。

 それならば早速、乗ってみましょう。


 列車は定刻通りエンシャンティア駅を発車しました。揺れを全く感じることなく、滑らかな動き出しです。

 乗車率は3割程度、朝の通勤ラッシュが終わり、午前中ののんびりとした様子が伺えます。


 エンシャンティア駅を出ると、しばらくの間はセレスティア湖の湖畔を走行します。湖面は魔法のように輝き、遠くに湖畔の青々とした緑が見えます。心が和やかになる光景です。


 やがて、列車は湖を離れ森の中に入ります。ここは『エンチャントの森』と言われている森で、樹木が幻想的な輝きを放っています。


 このエンチャントの森は、エンシャンティアの『エンチャントクラフト広場』の名前の由来になった場所です。

 森に入ると、その美しい光景や鳥のさえずりに風の音、花々の豊かな匂いから創造の意欲が刺激され、多くの作品が生み出される、そういう由来があるそうです。

 なるほど、確かに豊かな自然に包まれると、頭がスッキリした気分になりますからね。



 11:05、森の中にあるエンチャント駅に停車しました。自然との調和を目指して、ここの駅はシンプルな木造駅舎です。


 エンチャント駅には名物駅長がいます。美しいシルバーの模様を持つ猫で、名前はミスティ、スコティッシュフォールドの女の子です。


 彼女はある日を境に、ひょっこり駅に現れるようになりました。

 最初のうちは、人間にはあまり近付かず、遠くから眺めているだけでしたが、次第に改札口や待合室の人間たちに懐き始め、それ以来、ここを訪れる人にとってなくてはならない存在になりました。


 しばらく経った後、彼女は正式に名誉駅長として認められる事になり、制服や制帽も支給されました。

 今では家族もでき、ミスティたち一家は、エンチャント駅のマスコットとして人々に愛されています。



 ミスティに見送られエンチャント駅を発車します。ここからが、このエンチャントスノー線が特別だと言われる理由になる区間です。


 程なくするとトンネルに入りました。そして、長いトンネルを抜けるとそこは雪国でした。

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