02 王立魔法学院の体験入学

 朝早くのゴールデンハルト城の丘は清々しい空気で満たされていました。薄曇りの空、小鳥のさえずり、木々を通る透き通った風、全てがこれから始まる一日に期待をもたせてくれます。


 丘の上からはシルバーレーベンの街並みがよく見えます。

 朝焼けに照らされた街は、まるで美しい宝石のように輝いており、この街の人々の生活の息吹が感じられます。



 そんな丘にある王立魔法学院の外壁は、古代の魔法陣が美しく彫り込まれた壁で覆われ、ここが特別な場所であることを物語っています。


 入口である校門は重厚で装飾が施されていて、中央にある向かい合わせ2枚の扉には、グリフォンの紋章がありました。


 グリフォンは、鷲の頭と翼、ライオンの体を持つ生物で、ここでは『銀翼のグリフォン』と呼ばれています。その名の通り、その美しい銀色の羽と強靭なライオンの力が学院を守護し、不正や災厄から生徒たちを守ると信じられています。また、グリフォンは知識と勇気の象徴としても尊ばれており、学生たちに勇気と洞察力を与える存在として崇拝されています。


 校門の前には数組の人がいました。これから始まる体験入学に来た人たちです。誰もがこれから始まる心躍る時間を待ち侘びていました。


 9時、グリフォンの紋章がついた木製の扉がギィィと軋みながら開きました。

 扉が開くと、そこには濃紺のケープに身を包んだ老婆がいました。


「ようこそ、王立魔法学院へ」


 老婆は笑顔で客人たちを出迎え、深々とお辞儀をし、客人たちもそれに返しました。


 老婆は最初に自己紹介をしました。彼女はエレノア・スターレンダー、ここで魔法史について教えている教員です。


 エレノアはここで長いキャリアを持ち、その知識と洞察力によって学生たちに深い感銘を与えています。銀髪を持ち、知識と経験の深さを物語るシルバーレーベンの学院の象徴的な存在です。その瞳には知識と叡智の輝きが宿り、学生たちを導く熱い情熱が溢れているようです。


 全員が中に入ると扉は自動で閉まった。あれも、魔法で動いているのでしょうか。


 校門を入ると、そこは中庭でした。中庭には花々が咲き乱れ、美しい噴水が涼やかな音を奏でています。学院の生徒たちがこの中庭で魔法の実験を行ったり、交流を深めたりしているとのこと。話を聞くだけで羨ましくなります。


 エノレアは「最初に学院内を紹介しましょう」と言い、校内を案内してくれました。


 まず、建物に入ると広々としたホールが迎えてくれます。大理石の柱と美しいステンドグラスが天井から床まで贅沢に飾られており、壮大な空間は魔法学院の重要性を物語っています。ホールには学生たちの作品や魔法のアーティファクトが展示され、学問と魔法の融合を感じさせられます。


 学院内には数多くの教室や研究室があり、多様な魔法の分野を学ぶことができます。魔法学の歴史から最新の研究まで、様々な知識が学生たちを待ち受けています。生徒たちは熱心に授業に臨み、新しい魔法の使い方を研究し、自らの能力を高めていきます。


 さらに、学院内には巨大な魔法の図書館があります。無数の書物や古代の魔導書が収められ、学生たちはその知識に触れることができるのです。図書館は魔法の力で保護され、学院の宝として大切にされていました。


 一通りめぐると、エノレアは私たちをある部屋へと誘いました。入口には『創造の部屋』と書かれています。


「お待たせしました。いよいよ、魔法体験です。ここ『創造の部屋』では皆さんが望むことが何でもできます。ぜひ、自由に魔法を使ってみてください」


 『創造の部屋』に入ると度肝を抜かれました。誰もが、これまでに入ったどんな部屋よりも衝撃を受けるでしょう。


 そこは、部屋であって、部屋ではなかったのです。


 何が言いたいのかというと、部屋の中は一面に広がる大草原だったのです。しかも、地平線が霞んで見えるくらいの広大な空間です。

 背後を振り返ると、木製の小屋が建っていて、そこに私たちがここに来た扉がありました。


「ここ、『創造の部屋』では何でもできます。例えば魔法の杖が欲しければ頭にイメージを思い浮かべます。すると、あなたの手に魔法の杖があります。それを使って、どんな魔法を出すのも自由です。また、空を飛びたければ、自分自身に空を飛べと魔法をかけるか、あるいは魔法の箒をイメージして手に入れます。このように、ここでは皆さんが好きなように、なんでもできます」


 言葉を失い立ち尽くす参加者たちに、エノレアは優しくそう言いました。そして、半信半疑で言われたことやると、確かに魔法の杖が現れ、空を飛ぶことができました。


「すごい…」


「わぁ…」


 参加者たち全員が感激の声を上げ、初めて使う魔法に興奮している様子でした。


「みなさん、楽しむのも結構ですが、ここには注意点もあります」


 急にエノレアが声色を変えて言いました。皆が一斉に彼女の方を向きます。


「見ての通り、ここは広大な広さがあります。もしも、迷子になってしまうと、とても探しきれません。ですから、必ずこの近くでお楽しみください。それさえ守ってもらえれば、あとは何をしてもけっこうです」


 エノレアは恐怖心を煽るように言いました。ゴクっと唾を飲み込む音も聞こえます。たしかに、こんなところで迷子になったら二度と抜け出せなさそうにありません。


 浮き足立っていた参加者たちに緊張感が芽生えました。しかし、魔法を使えることの興奮も抑えきれず、再び自由に魔法を使いはじめました。

 魔法の杖から色々な呪文を出す者、箒を使って自由に飛ぶ者、魔法陣を書いて魔法生物を召喚する者、誰も彼も子供に戻ったようにここでの時間を楽しんでいました。


 エノレアに、この部屋の秘密を聞きました。


「『創造の部屋』の秘密?そうねぇ、ここは、色々な魔法を思い浮かべて実験するためにある部屋なんだけど、どうやってできたのかは知らないのよ。遥か昔からあるからね。未知の古代魔術で作られた部屋だから、私たちでも出来ることが限られて、だから迷子になったら二度と見つからないって言われているのよ」


 エノレアはそう教えてくれました。彼女によると、この学院には他にも多くの古代魔術が使われていて、その全貌はいまだに把握しきれていないということでした。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、体験入学が終わりました。

 こんな経験をすると、どうしても魔法学院に入りたくなります。

 そんな思いをグッと堪えて、ノイスターレ王国鉄道の旅を始めましょう。

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