塩の道は潮が香る

木の傘

プロローグ

【プロローグ】


 長野県の塩尻市に住む祖父母の家を訪ねるのは何年ぶりだろうか。最後に遊びに行ったのは高校生の頃で、成人してからは初めてだ。祖父母が丹精を込めて育てたブドウから作られる極上のワインを、ようやく僕も楽しめる歳になった。


 塩尻駅の外に出ると、むわっとした夏の熱気に汗が噴き出した。思わず手の甲で額の汗を拭っていると、暑さを攫うように山の方から涼しい風が吹いた。


 その風に乗って、仄かに潮の香りがした。


 ——海から遠い山の中で、どうして潮の香りがしたんだろう。


 首を傾げれば、昔祖母が教えてくれた昔話を思い出した。


 それは、遥か遠い海と塩尻を繋ぐ、塩の道に纏わる不思議な話だった。

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