第16話 日本三奇


塩を作っている場所へ案内されたのだが、そこは一見すると小さなただの小屋に見えた。


中に入ると、釜が3つあった。


「これらは鎌倉時代から南北朝時代にかけて作られたもんじゃ」


「そんな大昔に……」


全てになみなみと海水が入っている。

どれも茶色くさびていていかにも古いものなのだが、言いようのない趣があり、その長い歴史を感じた。

独特のオーラが見え、明らかに人智を超えたパワーも感じる。


「これは三口さんくの神釜と呼ばれておる。

1つ目は過去、2つ目は現在、3つ目は未来を、その水の色を変えて物語ると言われている。」


「え、なにそれ……」


さすが日本三奇と言われている釜だ。

奇妙どころの話ではないし、ちょっと意味もわからない。


「おぬし、ちょいとそこへ立ってみろ」


俺は言われるがまま3つの釜の真ん中に立った。


すると驚くべきことに、3つとも色が変わった。

過去は水色、現在は緑色、未来は赤色だった。


「ほう。昴よ、おぬし、近い未来に何か、怒りのわくようなことが起こるやもしれんの」


「あ〜そりゃそうだろうね。

俺いっつもデンにキレさせられてるし」


あまり占いやスピリチュアル的なものに興味のない俺は、この時は全く深く考えていなかった。



「うわぁ〜っ、塩釜の海水が赤になる人なんか初めて見たよ〜

ははっ!てことはデン、あんた相当キレられるんじゃないのぉ〜」


「あぁん?!それはこいつがいつも勝手にキレてるだけでっ、つーかテメェまでデンって呼ぶな!」



また喧嘩を始めるデンとウタを横目に、俺は塩爺に向き直った。


「とりあえず塩爺さん、塩を貰っていいすか?

ついでにさっき言ってた呪具も貰えると助かるんだけど…」


塩爺は突然、ジッと俺の目を見つめた。

なんとなく気味が悪くてゴクリと生唾を飲み込んだ。



「来なさい」


そう一言言われ、恐る恐るついていくと、また別の塩釜へと案内された。

それは先程の3つとは比べ物にならないくらい大きく、そしてその釜の中身は海水ではなく大量の塩だった。

真っ白の美しい砂がキラキラと輝いているように見え、実に神々しい。


「おぉ……」


つい感嘆してしまった。

この爺さんはそもそも、人々に最初に塩作りの製法を伝授した者として祀られている。

塩は、人間が生きる上で決して欠かせないものの1つ。

だからある意味我々人間が生きているのはこの人のお陰ということにもなる。



「その中に手を入れてみよ」


「えっ?」


俺は言われるがまま塩の中に手を突っ込んだ。


「…………??ん?」


なにか硬いものに触れる。

それをそっと掴み、恐る恐る上へ上げていった。



「え!なにこれっ」



塩爺まですハッと驚愕していることに俺は気づかなかった。



「……おぬしの呪具じゃろうて」



塩から引き抜いたのは、それはそれは神々しく立派な刀だった。

なるほど……。

どうやら人によって、引けるものが違うのだろう。



「やはり……やはりおぬしが……そうか……」


塩爺はさっきからなにやらブツブツ言っているが、俺はシカトしてひたすら刀に感嘆する。


強力なここの塩で作られたのかただ保存されていただけなのかは知らないが、見るからにオーラがすごい刀だ。

多分マジで強いやつ…。



「うわぁ……すげぇ…

ありがとう!塩爺さん!」


「これで負も小妖怪も、なんならそこらのあやかしも一発じゃよ。

つまりはおぬしはこれを使えば神同等の力を発揮することができる」


「マジか……。けどコレって、こんなにデカかったら常には持ち歩けないな」


こんなのを持って歩いていたら、警察に銃刀法違反で捕まってしまうし、なによりフツーにやべぇ奴だ。



「それなら安心じゃよ。

デン狐大神の尻尾の毛を一本、持ってきなさい」


俺は、まだウタと喧嘩しているデンの元へ行き、尻尾の毛をグイと引っ張った。


「いでぇっ!…?てめっこら!何しやがんだ!」


「なんかいっぱい抜けちゃったなぁ」


俺は5本くらいのデンの毛を塩爺に渡した。

すると塩爺は、何かお経のような言葉を唱えながらそれを刀に落とした。


すると……


ボワっ!!!


「えぇっ?!」


なんとその刀は小指ほどの太さになり、デンの毛は更に紐状になってそれに巻きついた。


「余った毛がちょうど特殊紐になったから首からかけると良い」


ネックレスのように常に持ち運べるなら便利だし、なんだか最強の隠れ武器を手に入れた感じがして俺はワクワクした。

いや、俺まだ厨二病だったのかよ…。


" 吾が此処に於いて、光を放つ "


本来の刀にする呪文も教えてもらった。



「おっ!昴くんそれ超イケてんじゃん!

私も綺麗なもの欲しいよ〜!塩爺〜」


ボンッとまた女神の姿に変身して塩爺に言い寄るウタを見て、そのあざとさに俺は苦笑いした。

塩爺も塩爺で一気に締りのないデレた顔になるから面白い。


「ウタ姫やぁ…そのほら、こないだあげた塩指輪じゃ満足いかなかったかの」



えっ、この爺さん指輪なんて送ってたの?!

人間界だと指輪を女の子に送るってのはさすがにいろんな意味でアレなんだけど……神界じゃ違うのかな。



「ふふ見て〜♡もちろん毎日してるけどぉ〜

新しいやつ欲しいなぁ。もっとすごいやつぅ♡」



俺は少し不思議に思った。

なぜこの女神はこんなに塩が欲しいのだろうと。



「もう仕方がないのぅ。ウタちゃんだけに特別じゃよ?」



あれ、えっとなんだろう…なんか……

今話題のパパ活……?

いや違うか、神活…??

……っていやいやどっちも違うよな?

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