第2話 俺には視える


俺は物心ついた時からおかしなものが見えた。


たとえば、空を飛ぶ龍だとかペガサスっぽい馬とか、

毎日必ず同じ時間に神社から出てくる大きな狛犬とか狐みたいな妖怪とか、

花とかの植物に戯れてる妖精みたいのとか、川で泳いでるカッパみたいなのとか、

突然話しかけてくる明らかに人間じゃない変な奴とか……


まぁぶっちゃけ、挙げればキリがない。


俺の生まれは東京の中でも結構田舎町で、山や川が多い自然豊かな美しい場所だった。

友達がいない俺は、しょっちゅう森や林で1人遊びをしていた。


いや……厳密に言えば1人じゃない。


話しかけてくる「人間じゃない奴ら」が多かったから、退屈しないで済んだ。



「やぁ、いつもいるね。なにか釣れるの?」



森で釣りをしていたら、ものすごく綺麗な男性に話しかけられた。

白い肌に赤い目、薄紫の着物を着ていて長い銀髪。

まるで天女のように美しかった。


見た瞬間から、こいつもこの世のものではないことくらいすぐに分かった。

だが俺はもう12.3歳ともなれば薄々気がついていた。

普通の人間が普通は見えないものを、俺だけが見ることができるのだと。

だからもうその異質な雰囲気のものには慣れっこで、今更ビビるとか無いのだ。



「まぁ……フナとか?」


「ふな……?食べるの?」


「食わねーよ」


俺は祖父から借りてきた釣竿を引き、フナを見せてやった。


「おおっ……」とそいつは目を輝かせていた。


バクっっ!!


「えっ?!?!?!」


そいつの後ろから突然、鈴をつけた三毛猫みたいな変な生き物にフナを食われた。



「あ〜ダメじゃないか突然!ビックリさせちゃうだろ?

ごめんね、こいつは僕の使いで、照都楼てとろう。テトって呼んであげて!」



「使い……?」


「神には皆、使いがいるだろう?」


「……いや知らんけど。じゃあアンタ神様なのか?」


「うん。僕は、阿豆佐味天神社あずさみてんじんじゃ少彦名命すくなひこなのみこと


「長ぇよ……」


「皆には、彦くんて呼ばれてるよ!宜しくね!」


彦は美しい笑みで俺の手を握った。

ものすごく冷たくて、やはりこの世のものでは無いのだと実感した。



それからコイツは俺がここへ釣りに来ると、毎回テトを連れて現れるようになった。



「昴っていつも1人だけど、人間の友達いないの?」


「……っせぇな。カンケーねーだろ別に。」


「なくはないよぉ〜。だぁって昴はこっちじゃこんなにたくさん友達いるのに人間の友達はいないなんてなかなか興味深いじゃないか〜」


そう言って彦が見渡す俺らの周りには、それはそれはたくさんの妖怪っぽい奴らや神っぽい奴らがいるわけで。


「や……てかお前らって俺の友達だったんだ」


そのとき俺は少しだけ、心が温かくなった。

人間の友達はいなくても、俺には俺だけの友達がこんなにたくさんいるのだと。



「皆、俺が普通じゃないから気味悪いんだってさ。」


「へぇ……普通じゃないってなんで?」


「あ?分かるだろ。アンタらみたいのが見えてて話せてるのがもう普通じゃないだろ」


「あぁなるほど。人間って面白いよね。どうせすぐ死ぬくせに、変なことであーだこーだ文句言ったり悩んだりして。まぁそれが人間の愛らしいところなんだけどね。」



普通じゃない俺が見たり話したりできる神や妖怪といった類のこういう奴らは、基本的に人間が好きだ。

だから人間にお願いごとをされると放ってはおけないらしい。


だから、神というのは基本は忙しいものだ。


突然舞い込む人間からの願いを極力叶えなければならない。


たとえば彦の場合、彼が祀ってある阿豆佐味天神社は別名「猫の神社」とも呼ばれている。

何度か行ったことがあったが、そこらじゅうが猫にちなんだものだらけ。

絵馬にもテトのような三毛猫が描いてある。

つまりこの猫神社では、愛猫の健康や病の治癒を祈ったり、迷い猫の帰還を願うといったご利益が期待されている。


願われる度に、彦とテトは話途中だろうが遊びの最中だろうが、すっ飛んでいく。

他の妖怪や神たちの使いみたいなのも同じだ。

呼ばれる度にハッとアンテナを立て、スっと一瞬でいなくなるから、少しだけ寂しかった。


まぁある意味ちゃんと神様やっていて俺は安心もしていたけど。



「なぁ昴!お願いだ!礼はするからちょっと手伝ってくんないかな?!」


ある日切羽詰まった様子で、彦がそう言ってきた。

話を聞くと、ある人間が探している迷い猫がどうしても見つからないとのことだった。

神でもこんなことがあるんだなと驚いたのを覚えている。


「もう5日間も捜してるんだよ!

ねぇなんでいないんだと思う?!ぅぁああ〜どおしよー!他にもどんどん仕事溜まってっちゃってるから手があかないよ〜っ!」


「わかったわかった、俺も手伝うから落ち着けよ彦。」


「ほんとにー?!助かるよ(泣)

今頃その子がどこで何してるのか心配でならないんだ」


どうやら彦は本当に猫思いらしい。


「で、その子はどんな毛色のどーゆー猫なわけ」


「えーと、飼い主の伝えてきたイメージだと……」



彦が俺の額に、トンと指をついた。

その瞬間、脳内に飼い主とその猫の姿が映像のように流れてきた。


わお。すげぇ……神。舐めてたわ。



「じゃあ宜しくね!恩に着るよっ!」



てことで捜すことになったんだが……



結果から言う。



見つからないわけだ。



なぜならそいつは……


猫じゃなかったんだから。

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