第35話 文学部の謎の美少女仮面

「この学校ってこんな人ばっかりなの?」

「お前は人のこと言えるのか?──とか言う以前に、なに攻撃外してるんだよ! この身を犠牲にしてまでチャンスを作ってやったのに!」


 みーくんの攻撃で吹き飛ばされ、自分が召喚した木星を墓石代わりに倒れていた彼方が、そこから這い出して、盟子にツッコミを入れつつ立ち上がる。


「彼方! 無事だったのね!」

「腹話術の人形なんかに殺されてたまるかよ。そんなことになったら、恥ずかしくて葬式に人を呼べん。……もっとも、盾になってくれたのが木星じゃなかったら、かなりヤバかったけど」


 彼方はひどくダメージを受けた木星を一撫でしてやると、それを宇宙空間に一旦帰してやった。


「ちっ。これでしばらくは木星が使えないな」

「さすがにしぶといわね。空野彼方」


 彼方と謎の美少女仮面の目が合う。声は聞いていたが、ここで初めて美少女仮面の姿を見た彼方は──


「……盟子。お前が呆れる気持ちがわかった。確かに、コレに比べたらお前の方が遥かにマシだな」

「コレとは何よ、コレとは!」


 美少女仮面は自分の姿を鏡で見たことがないのか、不平の声を上げる。


「それより彼方、聞いて」

「何だよ」


「何か妙なのよ。あたし、あの状況で外すはずがなかったわ。そう、私の中ではあの攻撃は当たっていたのよ」

「はぁ? 何言ってんだよ。失敗に対する弁解か?」


「そうじゃない……と思う。ただ、何か今までとは違う何かとてつもない力を感じるの」


 盟子の顔は真剣だった。こういう時の盟子が自己弁護するような人間でないことは、短い付き合いの中で彼方にも理解できている。


「それは、あの覆面変態女のことか?」

「そうかもしれないし、違うかもれしない……」


「なんだよ、それ。それじゃあ何も言ってないのと同じだぞ」

「私にも訳がわからないのよ。でも、何か嫌な感じがするから気をつけて」


「訳がわからないんじゃ気のつけようがないだろうが」


 そう文句を言いつつも、彼方自身、盟子の言うことが少しわかるような気もしていた。自分達の持つ概念にはあり得ないような力。そんな得体の知れないものが自分達に干渉しようとしている。漠然とはしているが、そんな感覚を彼方も得ていた。


「とりあえず、向こうの出方を見させてもらう。天文部必殺、惑星カルテット・アタック×2」


 木星を除いた八つの惑星が四つずつの二組にわかれて、操と美少女仮面に向かっていく。


『こんなもの、オレにかかればどうってことないゼ!』


 やる気まんまんで迎撃に移ろうとするみーくん。だが、美少女仮面は操の前に手を伸ばし、行動を引きとめる。


「待って。これは私に任せて。あなたは攻撃だけに集中して頂戴」


 四つずつにわかれた惑星達は、それぞれ軌道を読まれないようにと複雑でパターン化していない動きで二人に向かってくる。これらは先読みで迎撃なり回避するのは不可能な動き。なんとかするには、瞬間的に反応するか、これらの攻撃をものともしない盾を作り出すしかない。だが、美少女仮面は全く防御の素振りを見せておらず、操の方も最初は何らかの動きを見せたが、美少女仮面の声を受けた後は多少警戒しつつも積極的な防御行動をとってはいない。はっきりいって、これでは二人とも当ててくださいと言ってるも同じだった。こうなっては、相手の出方を見るために放った彼方だったが、チャンスと見て、一気に勝負を決められるだけのパワーをそれら惑星に送り込む。

 彼方から新たなクラブパワーを受け取り三位一体ならぬ四位一体の動きを見せる惑星達はそれぞれが死角にもぐりこみ、棒立ちの美少女仮面の体を捕らえた

 一方、操の方に向かっていた四つの惑星は、操を撹乱する動きを見せた後、そのスキをついて一気に飛びかかってきた

 ──壁にぶつかっている四つの星と、天井にぶつかっている四つの星。そこにある現実はそれだけ。


「彼方、あなたこそどこ狙ってるのよ! 相手は壁や天井じゃないのよ!」

「ち、違う! 俺じゃない。俺の攻撃は完璧だったはずだ。……確かに、何かがおかしい」


 彼方達も苦悩するが、わけのわからない方法で守られた操にしても、疑問だけが残る。

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