第25話 新たな刺客
再び、彼方達が目指す地──生徒会室。
「将棋部の波佐見君も突破されたようですね」
その生徒会室の扉を開いて姿を現した男が開口一番、麗奈の聞きたくないその事実をにこやかな顔で言ってのけた。
「今まで召集にも応じず、何をしていたのかと思ったら……顔を見せるなりそんな他人事のようなセリフ? しかも、そんな平然とした顔で」
「事実を述べただけですから」
半眼で睨む麗奈。しかしそれを受けても、その男は全く動じたふうもない。
「……それより、副会長はどうかされたんですか?」
だが、さすがのその男も、部屋の隅の長机の上に横たえられた、青い顔の副会長を見ては怪訝に思わざるをえない。
「気を失っておられるようですけれども……」
「……たいしたことじゃないわ。それよりも空野彼方達のことの方がよっぽど重要かつ深刻な問題よ」
「そうでしょうか?」
「余裕なのね。言っておくけど、それなりの手柄を立てなければ、あなたの部だって廃部なのよ」
「別に構いませんよ」
廃部という言葉を聞いても、男は顔色一つ変えなかった。
「学校に部として認めてもらわなくとも、考えることさえできれば、どこでだって哲学はできます。そもそも、哲学するためには何の道具も必要ありませんので、部費もいりませんし」
「……つまり、私に協力する気はないと言いにきたのね」
「いえいえ。そうは言っていません。むしろ、今は生徒会長のお手伝いに来たのですから」
「……言っていることが矛盾してない?」
「そんなことはありません。私は常に一つの目標に向かって行動しているだけですから」
「目標?」
「ええ。『よく生きる』という究極的な目標ですよ」
「――――?」
麗奈は意味がわからず首をひねった。今までも訳のわからない奴は何人もいた。特にクラブマスターには。
だが、この男はちょっと種類が違う気がした。言ってることは一見まともそう。知的で
「その『よく生きる』ことと、私に協力することにどんな繋がりがあるのよ?」
「人間の行動はすべて『よく生きる』というそのことのために行われているのですよ」
男の言いたいことは、麗奈にはフェルマーの大定理と同じくらい理解できなかったが、それを問いただすようなことはもはやしなかった。したとしても、自分に理解できるような答えは永遠に返ってきそうにないと感じたからだ。
その麗奈の反応を、自分の言うことを理解してもらえたと思ったのか、はたまたハナから麗奈の反応など気にしていなかったのか、扉を開けただけで部屋の中に足を踏み入れていなかった男は、その場で回れ右をして歩き出そうとした。
「……でも、勝てるの? 哲学なんかで?」
男の言葉で混乱していたせいもあったが、不意に出た素直な疑問の言葉。素直ではあるのだが侮辱にも取れる──というか、むしろ侮辱そのもの。麗奈もさすがにまずいと思ったのか、その失言を取り消そうとしたが、男の方はさして気にして様子を見せていない。
「哲学はすべての学問の根底に存在するもの。何事も哲学なしでは存在意義を持ち得ませんよ」
ただそう答えて、歩みを進めていく。
哲学部部長、
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