第16話 守護天使メイコ
『色々と芸を持ってる女ダナ』
「僕らには関係ないことだけどね」
男なら思わず足を止めて魅入ってしまうそんなメイコを見ても、操は相変わらず何の感慨もない虚無的な顔のままだった。盟子の変身も、操にとっては近所のコンビニがいつの間にかローソンからセブンイレブンに変わっていたくらいの違いでしかない。
『まぁ、剣を持ったくらいで、このオレらをどうにかできるわけはないわナ』
「今のあたしを剣を持ったただの女子高生だと思ったら痛い目を見るわよ」
メイコはそう言うが、剣を持っている時点ですでにただの女子高生ではない。
『勝手に言ってロ。とにかく、テメーはぶっ倒ス!』
みーくんの声で、周囲の四体のマネキンが一斉に守護天使メイコに飛びかかってきた。
「甘いわね!」
メイコは、取り囲む輪を縮めてきたマネキン達を焦ることなく引きつける。ギリギリのところまで来たところで、一体のマネキンの肩にフリーの左手をかけ、ハンドスプリングの要領で一気に身を翻し、そのマネキンの背後に音も立てずに着地する。その盟子の体に遅れてふわりと舞い降りる彼女の黒髪。
一方マネキン達は、一瞬にして目標が喪失したために勢いを止められずごっつんこ。
「大地に眠る力よ、今こそ目覚めよ」
それを尻目に、メイコは剣を逆手に持ち替えて剣先を下に向ける。
「はっ!」
目映き光を宿す剣。その力宿る剣を両手で握り、地面に突き刺す。下はアスファルトであるにもかかわらず、その剣は軽々と突き刺さった。と同時に、マネキン達の足下からまるで間欠泉のように光の柱が沸き上がる。七色に色を変えながら踊るように吹き出すその柱に、マネキン達は空中へと放り上げられた。
メイコは一瞬だけ上を見上げ、その刹那の瞬間で目標の位置と距離を把握する。そして、すぐに突き刺した剣を抜き、腰を深く屈めて力を溜める。
次の瞬間、その姿が揺らめく──と同時にメイコが四人に分身した。オリジナル・メイコを囲むように、前方及び左右の斜め後方に一人ずつ、剣を持ってしゃがみ込むという同じ姿で現れたのだ。
これら三体の分身は、メイコの守護天使が具現化した姿。守護天使はアストラルサイドにおける存在であり、この世界においては特定の姿を持ってはいない。そもそも物質的な姿でこの世界に姿を現すこと自体がそれには困難なことだった。そのためそれは具現化する際にはメイコを仲介役にすることでそれをなさしめている。つまり、今回で言えば、メイコ自身の姿という彼女の意志を顕著に表現できる姿をとって具現化しているということである。──などという説明を、一回限りのコスプレキャラに対して行う意味はあるのだろうか?
「はっ!」
それはともかく、前方の分身が、いまだはるか上空にいるマネキンの一体に向かってジャンプした。
「たぁっ!」
ほんのわずかの時間差を置いて、左斜め後方の分身が跳躍し、更に同じ間を置いて右斜め後方の分身も飛び上がる。
「行くわよ!」
最後にオリジナル・メイコが飛翔した。
空中。ブブカの世界記録レベルの高さ。マネキン達が吹き上げられたこの高さまで、最初に跳んだ前方の分身一が、棒も使わずに上がってくる。
「壱!」
気合い一閃。跳び上がった勢いを生かした下方からの剣の一撃。まずこれでマネキン一体が真っ二つ。
「弐!」
そして、続けざまに跳躍してきた左斜め後方の分身二の剣戟。これで二つ。
「参!」
更に右斜め後方の分身三が三体目を一刀両断する。
そして、最後に飛び上がってきたのは、もちろん、本体たるメイコ。跳躍の勢いを剣に乗せるべく下から斬りあげていた今までの分身達と違い、オリジナル・メイコは大きく剣を振りかぶった。
マネキンの上昇する力と重力とが釣り合う一点。自由落下が始まる寸前の一瞬の無重力状態。その一瞬の空中での静止時間めがけて、メイコは振りかぶった剣を思い切り両手で振り下ろす!
「死!!」
気合いを込めた剣が、空気を斬る程の抵抗もなくマネキンを頭から真っ二つに斬り裂いた。
そして、あれだけの高さまで上がったにもかかわらず、優雅に着地するメイコと分身達。四人はそれぞれ背を向け合い、十文字を作るような位置に降り立っている。そして、その十字の交差する点に、八つの欠片にされた四体のマネキンが、乾いた音を立てながら落ちてきた。自分の役目を果たした分身達は、しばし明滅した後消え去る。
「どう? これでもまだあたしを倒すなんて言っていられるかしら?」
人間業とはとても思えない技でマネキンを軽く撃破してみせたメイコが、剣を青眼に構えて操の方に目をやる。だが、当の操は今の技を見ても、依然として無表情。
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