第5話 マジック部の大手品緒

「お前の言ってることはいつも訳がわからん。全然俺の質問の答えになっていないぞ」

「つまりこういうことですよ」


 品緒は左手を軽く握って自分の胸の前に掲げた。そして、その握った左手の人差し指と親指で作る輪の中に、右手の親指と人差し指とを突っ込む。

 相手にしたくはないが、少なからずの好奇心から彼方が見つめる中、品緒がその二本の指を左手の中からゆっくりと抜く──すると、なんとその二本の指につかまれて鉛筆が出てきたのだ! しかも、どう見ても握り拳の長さよりも長い鉛筆が!!


「どうです? 手品って凄いでしょ」


 品緒は同じようにして、さらに鉛筆数本と消しゴム、そして定規を取り出した。消しゴムはともかく、ほかのものはすべて握り拳の長さよりもはるかに長い。


「……それって手品なのか?」


 彼方はもう驚きを通り越して呆れ果てるしかなかった。


「けど、筆記用具だけじゃしょうがないだろうが。教科書やノートはどうするんだよ」

「心配ありません。ちゃんと彼方君の机の中に入ってます」

「なに、俺の机の中? ちょっと留守にしてたからって、人の机を物置代わりに使うなよ!」


 ぼやきながら自分の机の中を覗きこむ──が、そこは空っぽだった。ハワイに行く前に彼方自身が机の中身はすべて持ち帰ったのだから当然といえば、当然であるが。


「なんだよ、何も入ってないぞ」

「そんなはずはありませんよ」


 品緒は自信たっぷりの顔で、右手を机の上に置いた。そして、「ワン、ツー、スリー」というカウントに合わせてその手で机をトントントンと軽く叩く。

 キョトンとした顔で見守る彼方を楽しげにみやりながら、椎名は机の中にすっと手を伸ばし、ゆっくりとその手を引き抜き始める。出てきたその手にあったのは、国語の教科書。さらにもう一度手をつっこむと今度はノートが出てきた。目が点になっている彼方に構わず、品緒はそれを繰り返し、教科書とノート数冊ずつと、弁当までもを何もなかった机の中から取り出す。


「どうです。手品って便利でしょ?」

「……いや、これは手品とかいうレベルのもんじゃないと思うが」

「いえいえ、種も仕掛けもある手品ですよ」


 品緒は断言するが、どこをどう見てもそうは見えなかった。


「お前……、しばらく見ないうちにますます変態じみてきたな」


 彼方は笑顔で自分の方を見る品緒に、ただただ呆れるばかりであった。だが、それと同時にその無茶苦茶さを一週間ぶりに目の当たりにし、自分が春風学園に帰ってきたのだということをようやく実感しもしていた。

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