異世界を配信しておじさんと女子高生、無名から超有名配信者に成り上がる

甲斐田悠人

第1話 異世界配信は初見歓迎です

『初見です。SNSで評判だったので見にきました』

 

「初見さん、いらっしゃい。でも、ちょっと待っててね。……なんせ今、ワイバーンと戦っているからね」

「おじさん、コメント欄を見てないで早く魔法を。このままじゃやられる」

「わかってる、わかってる」


 ワイバーンがこっちに向かって炎を吐きだして襲ってくる。

 俺はそれをサッと避けてかわし、手に魔力を貯める。

 この距離なら当たるな。


「雷撃魔法。――サンガ」


 両手を構えて、魔法を唱えると雷撃が放たれる。

 放たれた雷撃は宙を飛んでいるワイバーンの羽根を突き破る。

 ワイバーンは何の抵抗もできず、あっけなく墜落していく。

 ふぅ、これで一安心。

 コメントを読むのに集中できるな。


『すごいですね。これCGですか。それとも本物ですか』


「さあ、どうだろうね。そこは答えられないかな。でも、この配信を楽しんでくれると嬉しいな」


 俺がそう言うとコメント欄が荒れ始める。

『ばか、本物なわけないだろ。全部、CGだっての』

『でも、こんな精巧なCG見たことねえぞ。本物なんじゃね』

『魔法なんてあるわけないし。お前らこの映像に騙されているんだって』

『どう見ても現代日本じゃ撮れないよな。ヨーロッパ行ってんの?』

『まさやん、投げ銭いくら投げたら本当のこと教えてくれるんだ』


「企業秘密です。教えません」


 だって、本当の事を言ってもどうせ信じないだろうし。

 というか、上手く説明できる自信ないな。

 実は本当に異世界の様子を配信しているなんて誰が信じるんだ?

 信じやしないだろう。

 だから何も言わないのが正解なんだ。

 ちなみにまさやんと言うのは俺の配信者名だ。本名から来ている。


『隣の鎧を着た可愛い女の子は誰ですか? 恋人ですか?』

 

 隣の可愛い女の子というと、ああ理央のことか。

 その理央は辺りを見回し、周囲に魔物がいないとみるやメイスを下ろす。

 華奢な女の子が物々しいメイスを振り回すのは不釣り合いではあるが、彼女にとっては一番使いやすい武器らしい。

 女の子が持つのはどうかと思うのだが恐いので言えない。


「いや、この娘は俺の知り合いというか、脅迫されたというか……」

「おじさんの助手のニコです。現役女子高生です! よろしくね、初見さん」


 腕をつかまれ、身体を寄せられる。

 ニコは不自然なくらいの満開な笑顔だ。

 俺にはわかる。

 余計な事は言うなというメッセージだ。

 あとニコというのは理央の配信者名だ。

 可愛くてネット受けしそうだからニコらしい。

 

『まさやんが羨ましすぎる』

『ニコちゃん、今日も可愛いよ。ハァハァ』

『この配信の華だよな。おっさんだけだと画面がむさくるしいし』


 うっせえ、ほっとけ。

 おっさんのなにが悪いっていうんだ。

 誰だって、いつかは歳をとるんだぞ。

 

『普段はどんな配信をしているんですか?』


「主にモンスターと戦ったり、失われた魔法を集めて使ってみたり、珍しい食材で料理したり、日本にない風景を観に行ったり、現地の困っている人を助けたりとかしたりかな」


『なにげにおっさん超強いんだよな』

『この間はモンスターの卵を孵化させてたよ』

『CGのファンタジー風景が本物みたいですごいから見てみ』

『初見ならダンジョン配信は必見』


 好き勝手に書かれるコメントを眺めながら、以前はコメントすらなかったなと振り返る。それが今やこんな人気配信者になれるなんて。

 昔だったら考えられなかった。

 しみじみするなぁ。

 

『なんだか楽しそうですね。チャンネル登録しました。これからも頑張ってください』


「ありがとうございます!」


『初見さんも今日から俺らの仲間だな』

『よろしくぅwwwwwww』

『ここは無法地帯だからな。好きに書き込んどけ』


「ほったらかしているだけで無法地帯じゃねーっての」


 こいつらときたら。

 人気配信者ってもっと尊敬されるもんじゃないのか。

 どうしてこう、うちのコメント欄はこうなんだ。


「おじさん、日が暮れ始めたけどまだ配信する?」

「うん? もうそんな時間か。じゃあそろそろ配信切るか」


 コメント欄に勝手に終わるななど視聴者から書き込まれるが俺は無視する。

 こいつらの相手をしていたら、キリがないからな。

 

「今回はこれで終わります。ご視聴ありがとうございました」


 人工精霊サンダルフォンを経由して、魔力を送って遠隔でパソコンを操作して配信終了ボタンを押す。

 本日の配信は終了だ。

 変身魔法を解いて、女子高生の制服に戻った理央がこちらへやってくる。


「二人きりになったね、おじさん。どうする? イチャイチャする?」

「変なことを言うな。帰るぞ」

「えぇ、もう。つまんないの」

「理央を早く帰さないと親御さんが心配するからな」

「うちのお母さんは全然気にしないけどな」

「俺が気にするの。女子高生は夜遅くまで出歩かない」

「はいはい、わかりましたよー。ちぇー、おじさんの意気地なし」


 理央の言葉を聞き流しながら魔力を集中させて転移魔法の準備をする。

 異世界から現実世界への転移魔法は結構魔力を使うからな。こうして、魔力を貯めないと発動しない。


「俺の肩にしっかり掴まってろよ」

「うん。おじさんに抱きついとく」

「こ、こら。誰が抱きついていいって言った。離れろ」

「いいじゃん、女子高生に抱きつかれるなんて役得だよ」


 理央の髪からシャンプーの匂いがほのかに漂ってくる。

 というか、女子高生にしては大きい胸が当たって……。

 ええい、意識するな俺。転移魔法に集中しろ。


「転移魔法。ルーテ」


 地面に青白い魔法陣が描かれ、白い光が俺たちを包み込む。

 一瞬、浮いたような感覚になり、その感覚はすぐになくなる。

 世界を移動するとこういった感覚が発生するのだ。

 やがて、白い光が消え、見知った俺の部屋にたどり着く。

 部屋に着いたので、理央が俺から身体をパッと放す。

 

「じゃ、今日は解散だね、おじさん。また明日もよろしく」

「なあ、もう終わりにしないか。こんなのよくないって。異世界は危ないんだぞ」

「おじさんさぁ、私に脅迫されている立場だっての忘れてない? いつでもバラしたっていいんだからね」

「……ぐぬぬ」


 その後、理央は上機嫌に鼻歌を歌い、俺の家から出ていった。

 隣の部屋に帰るのだろう。

 ご近所さんだしな。

 

 一人になって、ベッドへと倒れ込む。

 ああ、疲れた。

 今日は晩御飯作りたくない。

 出前でも取るか。

 今月はかなり投げ銭を貰ったから贅沢できる。


 それにしても、こんな風に成功するなんてな。

 会社やめてすぐの頃からは考えられん。

 配信者として未熟で同接0を叩き出し続けてた、あの頃とは大違いだ。

 

「すべてはあの魔法書から始まったんだよな」


 机の置かれている魔法書に目をやる。

 そうすべてはこれから始まったのだ――。

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