第38話 ※近親相姦について言及している場面があります

※近親相姦について言及している場面があります。苦手な方はご注意下さい。



あの時間帯に一人コンビニを訪れる少年少女は、たぶん、そう多くない。特に佳奈多もこの少女も年齢よりも幼く見える。親の監視が緩いか親から放置されている、そういう子供に目をつけているのだろう。姑息で賢い下衆だ。泣きじゃくる少女をそのままに、男は大翔を見た。

「部屋に押し入って、お前、そいつをどうした?」

「殴って気絶させた。たぶん、生きてる」

「たぶん、か」

「警察が入れば表沙汰になる。これ以上傷つけたくない」

オジサンは死んではいないはずだ。あれだけ怯えていた佳奈多に、これ以上負担をかけたくない。男は少し考えて、口を開いた。

「…お前は、そいつの家、知ってんだよな?案内しろ。アニキに連絡する」

「やだ、やめて、だめだよ!」

男は少女を無視してスマホを操作してしている。アニキは実の兄なのか、別の意味なのか。少女の反応を見ると後者な気がした。少女は泣きじゃくって、兄に縋り付く。

「やだよ、お兄ちゃん!お兄ちゃん、いなくなったら、また、お父さんに、おっ、犯され、…」

「おい!」

男が怒鳴りつけた。男は鋭く大翔を睨む。大翔は目を見開いた。

「てめぇは今何も聞いてねぇ。いいな?」

「…あの男…それを、知ってたんじゃないか?知った上で、君を脅したんじゃ」

大翔は男の言葉を無視して少女に問いかける。少女は頭を抱えて悲鳴のような唸り声をあげた。

「うぐっ、うっ…おと、お父さんの、こと、警察、バレてもっ…俺の、おっ、オジサンの、ことは言うなって…言ったら、動画、が、学校に、ばらまくって…お、おとうさ、の、こともっ…うぐっ、うぐぅううぅっ」

画像の『非処女・取扱注意』の意味。オジサンは恐らく少女の父親からの虐待を知った。動画だけでなく、虐待のことも脅しの材料にしていた。万が一父親の悪行が警察に知れたら、もしかしたらオジサンにたどり着くかもしれない。彼女は取扱注意ということになる。

想像していた以上に、あのオジサンは悪質だった。味をしめて何人かの少年少女に手をかけて、佳奈多に目をつけた。悲鳴のようなうめき声が、絶叫を上げていた佳奈多と重なる。

「…お前、そのオッサンを追い詰める材料がほしいっつってたよな。材料集めて、どうするつもりだ?」

「オジサンに、自滅してもらおうと思ってる。自らの手で、自分自身に終止符を打ってもらう。それを見届けたい」

二度と佳奈多に近づけないように。追い詰めて、オジサン自身にデータを全て消去させて、その上でこの世を去ってもらう。少女の話を聞いて、少しの罪悪感もなくなった。あのオジサンは徹底的に潰さなければ。万が一もう一度佳奈多と出会ってしまったら、何をされるかわからない。

男が立ち上がった。

「兄ちゃんが帰るまで、友達んとこにいろ。お前はコンビニ野郎のところに案内しろ」

「ひぃっ…やだぁっお兄ちゃ…行かないで、行かないでよぉっ」

「安心しろ。ちゃんと帰ってくる。でもな、そのオジサンな、…生かしておいていい人間じゃねぇだろ」

男は少女の懇願を無視して部屋を出た。大翔も後に続く。オジサンのアパートに向かいながら、男は誰かと電話で話した。その後は男も大翔も無言で、アパートまで歩き続けた。



辺りは暗くなり、夜になった。アパートに行く前に公園に寄った。公園の近くには数台車が停められていて、公園の中には数名、男がいた。少女の兄が男達に声を掛ける。

「すんません、お呼び立てして」

「おっつ~構わんよぉ~」

少女の兄は男達に頭を下げる。公園の明かりに照らされた男達はこれまたいかつい、物騒な容姿をしていた。少女の兄に負けず劣らず。いや、少女の兄よりも物々しい雰囲気を醸し出している。

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