第37話
考えていたら学校の裏手で、学生証の少女を見つけた。まさかこんなにすぐ見つかるとは思わず、大翔は学生証と少女を数回見直した。間違いなく彼女だ。間もなく男が少女に声をかけた。随分と親しげなその男は、どちらかといえば地味な彼女に不釣り合いな厳つい男だった。大翔は二人に声をかける。
「この学生証、君ので間違いないか?」
学生証をスマホに表示して少女に問うと、彼女は怯えたような表情を浮かべた。答えない彼女の代わりに男が答える。
「あ?てめぇ、誰だよ」
凄んでくる男越しに声を掛ける。
「向こうの、〇〇ってコンビニの男、あいつについて聞きたい」
少女はびくんと震えて顔を背けた。男が大翔の胸ぐらを掴む。
「誰だって聞いてんだろ、おい!お前も知ってんのかよ、コイツ、お前の何だよ!」
男は大翔と、少女にも怒鳴りつける。少女は首を横に振って大翔の胸ぐらを掴む男の手にすがりついた。
「ま、待って、やめてよ、知らない、この人…」
「男のパソコンに動画があった。君以外にも何人か、いる」
「ひっ…」
少女は短い悲鳴を上げて震えだした。
「う、嘘、消したって、あのオジサン…お金も、渡したのに」
「俺の知り合いが同じ目にあってる。あの男を、追い詰める材料がほしい」
「おい…なんの、話だよ…」
少女の反応に男は戸惑っている。男の手が緩んだ。騒ぐ大翔達に、数人の生徒が気づいている。
「場所を変えよう」
「………俺にも話を聞かせろ。いいよな?」
男は最後、少女に問う。少女は小さく頷いた。
三人は駅前のカラオケ店に移動した。大翔は少女に改めて確認を取る。
「この学生証は、君のものだよね。この男性は」
「…うん…この人は、お、お兄ちゃん、私の」
『非処女・取扱注意』という画像のタイトルから彼氏かと思ったが、男は彼女の兄だった。かなり厳つい見た目をしている。ツーブロックにした髪型の刈り上げ部分に模様を入れ、体格も良い。この二人が兄妹と、一見したらわからない。
少女は雰囲気や話し方がどことなく佳奈多に似ていた。あのオジサンはたぶん、似たような少年少女に目をつけて犯行を繰り返している。
「動画って、なんのことだ」
「あの男のパソコンのコピーだ。俺はサムネイルしか見てない。見るなら俺は一度部屋を出る」
「…見るぞ。いいな?」
少女が頷く。大翔はコップを持って部屋を出た。ドリンクをついで部屋に戻る。男は頭を抱えて、少女は震えていた。
「動画、間違いないか?」
「間違いねぇ。犯られてんの、コイツだ」
少女は涙を流していた。震えて、声も出せずにいる。やっぱり少し佳奈多に似ている。
「嫌な思いをさせて、申し訳ない。俺の友人が、コンビニで脅された。万引きを指摘されてバックヤードに連れ込まれたそうだ。でも本人はやっていない。濡れ衣を着せられて裸の動画を盗られた。俺は今朝、後をつけて部屋に押し入ってデータをコピーしてきた」
「お、同じっ、同じです、私っ…コンドーム、盗んだって…盗んでないのに、どっ、怒鳴られて、怖くて、っ…」
「なんで言わなかったんだよ、俺に!」
男がテーブルを叩きつける。少女は飛び上がった。震えながら少女は男のそばに寄る。
「だって、言ったら、こ、殺すでしょ?あいつのこと…け、警察、捕まっちゃったら、一人、私、ひ、一人になっちゃう…やだよ、一人、なりたくない、お、…お父さん、から、守ってよぉ!」
少女は男にしがみついた。話から推測すると、彼女は父親から虐待を受けている。父親から逃げるためか用があったのか、他に客のいない夜にあの男の餌食になった。
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